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2009年11月

きみの手を引いて2:目次

 

 想いが通じた柚月とハル。誕生日を迎え、柚月からプレゼントを贈られたハルは、柚月の気持ちに微かな不安を覚えながらも、幸せを感じていた。
 そんな時に現れたハルの義理の父親、長谷川の存在が二人の暮らしを壊していく……。
 R-18。m(_ _)m

 完結しました。\(^o^)/ 後日談掲載しました。最後にあります。(*^-^)
 

  第一話 

  第二話 

  第三話 

  第四話 

  第五話 

  第六話 

  第七話 

  第八話 

  第九話 

  第十話 

  第十一話 

  第十二話 

  第十三話 

  第十四話 

  第十五話

  第十六話 

  第十七話 

  第十八話 

  最終話

  その腕の中 〈後日談です〉 

  きみの2・SS 

 

       

  

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 たくさんの拍手ありがとうございます((w´ω`w))

 環さんと柚月の会話にジーンとしました、というコメント、とても嬉しかったです(o^-^o)

 ↓第三話のネタバレしてます…。

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きみの2第三話更新。

 きみの2第三話更新しました。\(^o^)/

 またまた拍手お礼の続きも気になる、というコメントを頂きました~(≧∇≦)ありがとうございます!

 しかし世に出すつもりのなかった(実際お蔵入りだった(;´д`)お話の続きに期待を寄せて頂けるとは(@Д@;

 誰の目にも触れない、と思って書いてたので、本編では使わないような言い回しとかしてるし、展開もアレなんですよね……テンポだけはいいと思うんですけど。
 
 そんなことには目をつぶって続きをただいま制作中ヾ(´ε`*)ゝ エヘヘ

 いつになるかは判りませんが、UPしたら、二話目もあります、と一話目の最後に入れますのでその折にはよろしくお願いします。o(_ _)oペコッ

続きを読む "きみの2第三話更新。" »

きみの手を引いて2:第三話

 

  
 ベランダに続く窓を開けると、爽やかな風が部屋に入ってきた。
 明け方まで降っていた雨は上がり、梅雨の晴れ間の青空が広がっている。ハルは雨にさらされた物干し竿を軽く拭き、手早く洗濯物を干していく。
 
 キッチンでは柚月が朝食を拵えていた。洗濯物を干し終えたハルが部屋に入る頃には、コーヒーの豊かな香りが漂いだす。
「ねー、オレの、スクランブルエッグにしてくれたー?」
「出来てるよ」
 
「甘いのだよ」
「判ってる」
 ハルはダイニングテーブルに並んだメニューを見て満足したのか、鼻歌でも歌いそうな雰囲気で自分の真新しいマグカップを手にする。
 
 ─── わざとハルの誕生日を外し、その次の日に、あやが柚月と色違いのおそろいでプレゼントしてくれたマグカップだった。「要ちゃんより気が利いてたらシャレになんないでしょ」とヴィンテージに訪れたあやはコーヒーをオーダーしがてら、ハルに手渡して肩を竦めた。
 そのマグカップにコーヒーを注ぎ、席に着く。
 
「いただきまーす」
 スプーンを手に、嬉々として卵料理に取り掛かるハルの様子を柚月はじっと見つめる。
「……美味いか?」
「うん。めっちゃくちゃうまーい! ヤバいよ、コレ」
 
 その卵料理は最近のハルのお気に入りで一日おきに、作ってくれ、とせがまれる。無論、断る理由もなく、惚れた弱みのハルの喜ぶ顔見たさに、柚月は言われなくても作ってしまい、……要するに、柚月の料理を不味いと思っていた、などということはやっぱりありえない。
 そう結論付けた柚月はハルに皮肉を言った。

「ずっとマズいと思ってたって?」
「う……」
 昨日の夕食時の下手な芝居の揚げ足を取られ、ハルはスプーンの先を口に咥えて柚月を上目遣いを向けた。
 
「だって、さ、……柚月さんに迷惑かかると思って」
「毎食、おいしいうまいヤバイを連発するのが嘘だったってか? そんなにがっついてて?」
 ハルは口を尖らせて、スプーンで残り少ないスクランブルエッグをひとつに寄せる。
 
 ゆっくりとコーヒーを飲んでいた柚月は、ことんとマグカップをテーブルに置いた。
「……俺はもうお前には騙されない。二度と俺を傷つけて嫌ってもらおうなんて詰まらないことは考えるんじゃない。無駄だ。何言われても嫌いにはなれないから」
 
 ぽかっと口を開けてハルは柚月を見つめた。
 みるみるうちにハルの頬に血が昇っていく。慌てたように目を伏せた。
「判ったか?」
「……はい。ごめんなさい……」
 
 柚月はハルを見惚れさせるあの微笑みを浮かべて、トーストを手にする。ハルはそんな柚月をちらりと見てぼそぼそと言った。
「……柚月さんて、自覚したらすげータラシになると思う」
「何を自覚するって?」
「なんでもない、……」
 
 自覚されて他の人間にもそんな殺し文句を言われてはたまらない。ハルはそ知らぬ振りで、寄せたスクランブルエッグを口に運んだ。

 
 
 食事を終えると柚月は大学院へ向かう為に家を出た。そういう際、いつもべたべたしたことのない二人だったが、昨日のことがあったせいか柚月は珍しくハルを引き寄せた。
「なに?」
 少し驚いて見上げるハルを柚月はじっと見つめる。
 
「……お前の家はここだから。絶対にどこにも行くな」
「うん、……」
「迷惑だとか、そんなことは考えなくていい。お前のこと渡したりしない」
  
 同じ意味の言葉を昨日の夜、ベッドの中でさんざん聞かされてた。その時のことを否応なしに思い出して、ハルは赤面する。
「わ、……判ってるよっ……昨日だって言われたし、……」
  
 柚月も同様の状況を思い出したのか、顔を赤らめて、「行って来る」と玄関に向かった。
 一人になったハルは、洗濯物を早めに終えて出来た時間で、昨日予定していたロフトの片付けをすることにした。
(昨日はそれどころじゃなかったもんな)
 
 長谷川が目の前に現れたことは、衝撃だった。足が竦んで動けなかったほどだ。
 ─── 時間をあげる、と言っていた。一週間。
 
 本当を言うと、柚月がなんと言ってくれても、自分がここにいるということは柚月の迷惑に繋がると判っていた。
 長谷川は籍の入った義理の父親で、自分は未成年者で、柚月は赤の他人。長谷川が警察にでも通報すれば、即自分は保護され、長谷川の元に連れ戻される。柚月は汚名を着せられ、後ろ指を差されて普通の生活を営むことは難しくなるだろう。
 
 長谷川に性的虐待を受けた、と告発するという選択肢がある。しかし、それはなるべくならしたくなかったし ─── 知らない人間の前で微に入り細に入り説明することなど到底出来ない ─── 家出した後の自分の素行を考えると、とても信用してもらえるとは思えない。
 
 世間的に見れば、長谷川は地位も名誉もある立派な紳士で、自分は引き取ってもらった恩も忘れて家出をし、男相手の援交で金を得ていたどうしようもない不良なのだ。
  
(……それに、長谷川さんを犯罪者にするなんて)
 柚月がそばにいてくれるからこそ、こうして長谷川自身を、彼が自分にしたことを客観的に見ることも出来るが、そうでなければ自分を引き取ってくれた彼を悪く思うことなど出来はしない。

 例えそれが親切ごかしからきた、自分に恩を売って言うことを聞かせようとした偽善行為であっても。
 それでも、長谷川は施設から自分を引き取って高校に進学させてくれたのだ。
 
(……オレ、も、悪かったのかも)
 悪いのは、長谷川だけではないのかもしれない。一緒に生活している間、長谷川を誘うようなことをしていなかっただろうか。自分に原因がある、ということはないだろうか ─── ?
 
 ハルは自分に責任を感じる悪い思考を追い出そうと、頭を横に振った。
(……オレは、悪くない。……長谷川さんも、悪くない。……多分、悪くない。たまたま、組み合わせが悪かっただけだ)
 
(一週間経っても、何も起こらないかも知れない。オレと柚月さんをほっといてくれるかもしれない)
 長谷川を信じたいという気持ちと ─── 。
 それは楽観的過ぎるのではないか、という不安がハルの心の中でせめぎ合う。
 
『どこにも、行くな。……行かせない』
『ミハル』
 不意に、昨日の夜の柚月の声が耳の奥に蘇ってくる。

 身体中にキスの雨を降らせて、抱きしめてくれた柚月は熱っぽく何度もそう囁いた。
 ハルは安堵の息を吐いた。その唇に笑みが浮かぶ。
 
 同じように、みはる、と呼ぶのに、長谷川と柚月とではどうしてこんなにも違うのだろう。
 柚月の声は安心させてくれる。誰よりも ─── 自分のことよりもハルを思っている、その声。
(柚月さん、……)
(……オレ、ここにいていいんだよね……?)
 
 服や雑誌を整理していたハルの手はいつの間にか止まり、ただぼんやりとロフトの床を見つめていた。

 

 
 
 
 
 
 柚月の元に、ハルを心配する環からの電話がかかってきたのは三日後だった。
『ハルくん、……どうかしたのか?』
「え?」
 
 立ち止まった拍子に、斜めがけにしたボディバッグに触れたレジ袋ががさりと音を立てる。院から家に帰る途中だった。バイトを終えたハルが家に着く頃を見計らって、環は電話を寄越したのだろう。             
 訝しんで逆に問いかける柚月に環は、ハルの様子がおかしい、と打ち明けた。
 
『元気がない。ぼーっとしてるし……今日はカップ二個も割ったよ。こんなのお前の時以来の損失』
「俺の時以来は余計だよ。……でも、そうか、ごめん。ちょっと面倒が起きてて」 
 
『お前がしつこくするせいじゃないのか?』
「何をだよ。何がだよっ」
『お前と違ってハルくんは働いて金稼いでるんだ。少し控えなさい』
 
「控えてるよ、これでも。……いやそうじゃなくて、俺が原因じゃない」
『そうか。安心した』
 環の本当にほっとしたような声が携帯電話の向こうで言った。
 
『うまくいってないのかと思った。お前と駄目になったら、ハルくん、きっとバイト辞めてしまうだろう?』
「……あいつにヴィンテージ辞められたら、そんなに困る?」
『看板息子だからね、彼は。ファンが多いんだよ。……変に勘繰るんじゃないよ。純粋に雇用主として心配してるんだ』
 
 独占欲が強いね、全くと環は苦笑いした。
「……別に、そんなんじゃ」
『そんなんだよ。その内ハルくんに愛想尽かされても知らないよ』
 
 確かに寛容だ、とは言えない。二週間ほど前ヘヴンズブルーを訪れた時、その店のオーナーとハルが話しているのを目にして、平静を装いながら苛立ってしまった。
 未だにヘヴンのオーナーは鬼門だ、と認めざるを得ない。オーナー ─── 成沢自身は他の男が自分の恋人にちょっかいをかけた、というので恐ろしく不機嫌だったが。
 
 その成沢の態度といい、ハルの応対といい、何も嫉妬を煽られるものはなかった。それでも、二人が慣れ慣れしく話しているのを見るのは、気分のいいものではない。
 ……自分の嫉妬深さにちょっとうんざりして、咳払いをした。携帯電話の向こうでは、環がハルの不調の原因について訊いている。
 
『それで、面倒って?』
「……うん、まあ、ちょっとした面倒。大したことない」
 柚月はバッグの中の財布にちらりと気をやった。そのカードポケットの間に面倒事の名刺が入っている。絶対にハルの目に触れさせたくなくて、自分の財布に仕舞い込んだ。

 
『………』
 少しの沈黙の後、環は口を開いた。
『……僕に何か出来ることは?』
 
 説明を拒んだ年下の従兄弟に思うところがあったのか、深入りしようとせずに、手だけ貸そうと申し込んでくる。
 思いも寄らない環の優しさを見せられて、柚月は苦笑した。

「何も。何もないよ。カップの損害、見逃してくれたらそれでいい」
 環のため息が聞こえた。カップのことなど、最初から問題にしていない。柚月もハルを心配する環の気持ちを知っていて、はぐらかす。
 
 ─── この件に関して全く関係のない環を、不用意に巻き込んではいけない。
「電話させてごめん。ハルには気を付けるように言っておくから」
 
『そんなこと言ってるんじゃないよ。─── 好奇心で訊いているんじゃないんだ。また、あの子がお前のところを出て行くようなことは、……お前が徹夜で捜し回ったり、あの子がいやな目に遭うんじゃないかって薄々思いながら、それをただ横で見ているだけなのがどんな気がするか、判らないだろう』
 
 環の言葉に ─── 。
 穏やかで、何事にも動じないと思っていた彼がそんなにも、やきもきしていたことに気付かされる。
 柚月は心の中で頭を下げた。 
 
「ありがとう、環さん。……もし、ハルを預けるようなことになったら、頼む」
『……判った。それで充分だ。二人だけでどうにかしようとするなよ』
 珍しく強い口調の環にもう一度礼を言って、通話を終える。軽くため息を吐いた柚月は、先に帰っているはずのハルの待つアパートへ足取りを速めた。
  

 
      

     目次第四話
 

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きみの手を引いて2:第二話

 

 
 ハルの目の前、少し離れた場所でスーツ姿のその男は穏やかそうな ─── あくまでそう見えるだけの笑みを浮かべる。
「……瞠」
 返事をしないハルを訝るように、男は再びハルの名を呼んだ。
 
 ハルはざあっと足元まで血が引いていくような気がした。
(……なんで、……ここに)
 動揺で一歩も動けない。男は立ち尽くすハルの元へ、ゆっくりと近づいていく。
 
「─── 捜したんだよ。……とてもね」
 ハルの膝ががくがくと震えだす。─── 柔らかなその声が、怖くてたまらない。
 すぐに逃げ出したいハルの気持ちとは裏腹に、震える足は全く役に立たない。端整な男の顔がすぐ前まで来た。
 
「髪を、染めたんだね……? 似合ってるけど、僕は黒い髪の毛の方がいいと思うな」
 決して激しない声。それなのに、有無を言わせない強制力を持つ。髪を黒く染め直すことになるだろう、とハルは思った。
「さあ。帰ろう」
 
(帰るって……どこへ?)
 ─── 無論、男の家に決まっている。自分は、男の籍に入った子供なのだから。
 真っ青な顔を俯かせたまま、一言もしゃべらないハルに男は手を差し出す。
 
「瞠」
 男の手が、ハルの腕に伸びてくる。
 触れそうになったその時。
 
「ハル」
 柚月の声が、聞こえた。
 ハルは弾かれたように顔を上げ、男の肩の向こうにレジ袋を提げた柚月の姿を見つけた。途端に竦んでいた足が動き、何も考えずに柚月の元に駆け寄る。
 
「ゆづ……柚月さん」
「どうした。……」
 柚月はハルの様子がおかしい、とすぐに気が付いた。青い顔色をして、すがるような眼差しで柚月を見上げてくる。─── それだけでなく。
 
「……あの、ひとは?」
 アパートに帰る途中この道を通りかかり、随分と近づくまで男のスーツの背中しか見えなかった。近づいてみれば男の前にはハルがいて、腕を掴まれそうになっている。
 
 思わず声を掛けた。自分には、そうしていい権利がある。
 自分に助けを乞うように駆け寄ってきたハルがそれを証明している。
 
 柚月はこちらを向いた男を観察した。濃いグレイのスーツに白いYシャツ、目立たず品のいいネクタイを締めている様子は普通のサラリーマンのようだった。軽く整えられた髪の毛の下の顔はよく見れば端整で ─── そのくせ、絶やさない笑みの下で何を考えているか判らないような印象がある。
 
 柚月は嫌な予感に捕らわれながらも、誰何した。
「……どちらさまですか。彼に何か」
 ゆっくりと近づいてきた男は、突如現れた柚月を冷たい目で見つめる。それでも口元の笑みを絶やさず、スーツの内ポケットからカードケースを取り出すと一枚の名刺を差し出した。
 
 薄暗くなってきた公園内の灯りが次々に点き始める。三人のいる通りをも照らすその光は、男の寄越した小さな紙切れを照らした。
 有名企業の役職名が細かく印刷されているその下に、男の名があった。
 長谷川 昌樹。
 
「─── 瞠の父です」
 その声に名刺から目を上げた柚月は黙って、長谷川を見据えた。ハルを無意識に背中に庇う。
 そんな柚月の仕草に長谷川は初めて穏やかな表情を消した。
 
「……君は、瞠の友達?」
「いいえ」
 柚月の断固とした声に、ハルはどきんとした。─── 自分たちの関係を、柚月はなんと説明するのだろう。友達でなければ、居候? 知り合い?……まさか、こんな往来で、恋人などと言うはずがない。
 
「僕は柚月 要といいます。ハルは……ミハルは、僕の大切なひとです。一緒に暮らしている。恋人です。……彼がそう言ってもいい、と思っていてくれるなら」
 驚いたハルは、柚月のTシャツの背中を掴んで引いた。
「柚月さんっ」
 
「……けれど、ミハルはこの通り、あなたやよその人間には僕が恋人と知られたくないらしい」
 わざと柚月は長谷川を他人と同列に扱った。ハルはあんたとは関係ない、と言いたい気持ちであることを長谷川を睨みつけるその目が雄弁に物語る。
 
「ミハルが嫌がるので、恋人同士と吹聴したりはしませんが」
 当たり前だよ! とハルは心の中で柚月に向かって悲鳴を上げた。だってそんなことしたら、柚月さんが、すごく困る……。
「僕はいつでも、ミハルを大事に思っています。恋人、です」

「……これは困ったね」
 敷石に目を落とした長谷川は、くす、と笑った。
「君は瞠がいくつか知っているの?……」

 ハルは柚月の背中に緊張が走ったような気がした。
(なに、……なんで、……オレの歳?……)
 話が急に変わったことにハルは付いて行けず、口を挟むことも出来ない。おろおろとするハルとは対照的に、柚月は落ち着き払った声で答えた。
 
「……知っています」
「そう。……未成年者略取って知ってるかな」
 
 リャクシュ? なにそれ……っ。
 その剣呑な響きに、柚月が困ることになる、とハルは直感した。
 
「君は大学生かな? とても頭が良さそうだから、縁もゆかりもない他人の君が未成年者の瞠を家に置くってことがどういうことか、ちゃんと判ってるみたいだね。……もちろん、そんな外聞の悪いおおごとにはしないよ」
 
 またも穏やかそうな表情に戻り、長谷川は柚月の背中のハルを覗き込んだ。
「時間をあげよう。一週間だ。……自分で帰って来なさい。判ったね」
 柚月は身体の向きを変えて、ハルを長谷川の目から隠す。
 
「……ミハルは、どこへも行きません」
「そうかな?……君に迷惑をかけてばかりではいられない。そろそろ自分の家へ帰りたくなるはずだ。……」
 長谷川は背中を向けて、静かに立ち去る。柚月のTシャツの背中を握りしめていたハルは、ゆるゆるとその手を離す。
 
 目の縁を赤く染めて俯くハルの手を、柚月はそっと取った。

 

 
 
 
 
 
 
 ……ろくに言葉も交わさず帰宅した柚月とハルは、いつものようにダイニングテーブルに差し向かいで夕食を摂っていた。
 柚月は何度も話しかけようと試みたが、ハルの態度がそれを拒んだ。帰宅途中でも、家に着いてからでも終始俯き加減で、何も話さない、と言うように口を真一文字に引き結んでいる。
 
 ただ、その手を引いてアパートに連れ帰った温もりだけがふたりを繋いでいた。柚月はそれを信じて、頑なになってしまったハルの心が解れるのを待っている。
 ほとんど夕食に手を付けず、ハルは箸を揃えて手前に置いた。
 
 気付いた柚月は軽く諫める。
「……育ち盛りなんだろう? 俺みたいなオヤジとは違って。……ちゃんと食べろ」
 声が僅かに擦れる。それでも、柚月は日常を続けた。
「腹へって眠れないぞ。夜中に起きて冷蔵庫漁るなんて真似は」
 
「……荷物まとめろって言わねーの?……」
 自分が使った器を積み重ね、シンクに運ぼうと席を立っていた柚月はハルが発した言葉にぴたりと動きを止めた。
 揃えた箸に目を落とすハルを見つめる。
 
「……家に帰れって言わねーの?」
「お前の家はここだ。ちゃんと帰ってきてる。どこにも行く必要は無い」
 ハルは唇を噛んだ。
 
 ─── 柚月は優しい。ずっと前から、最初から、判っていた。
 赤の他人の自分と戸籍上の父親である長谷川とでは、どちらが分が悪いか、柚月はちゃんと知っている。長谷川が出るところへ出れば立場を失うことも承知の上だ。
 柚月は全てを了解していてそれでもなお、ハルの手を離そうとはしない。
 
(未成年者略取)
 どんな罪も、柚月には相応しくない。
「……こんなの、マズくて食えない」
 器を下げて、テーブルの上を拭いていた柚月の手が止まる。
 
「……ここに置いて欲しいからお世辞言ってたけどさあ、オレ、あんたの作ったもんマズくて食えないってずっと思ってたよ。おっかしーよね、あんたオレのおべんちゃら真に受けてまいんち一生懸命、メシ作って、……いつか言ってやろうと思ってたんだー、ほんとのこと。あんたがどんなカオするかって」
 
 ハルの傍らに柚月がすっと立った。俯いたままのハルには柚月がどんな表情をしているか判らない。
(殴れ。突き飛ばせ。……出て行けって)
 柚月が、そう言ってくれたらいい、とハルは思った。
   
 大きな温かい手が肩にかかる。─── 近づいてきた唇に、唇が覆われた。乾いた優しい感触。
「は……」
 ハルは驚き、涙を滲ませた目を瞬かせた。一瞬離れた柚月の唇が、また触れてくる。
 
 真っ赤になったハルはその顔を引いた。
「な、……なにやってんだよ。バカじゃねーの、自分の作ったもん居候にけなされて、なに、……」
「もう慣れた。騙されない」
 跪いた柚月は至近距離でハルの目を覗きこんだ。
 
 ハルが成沢の家に転がり込んだあの時。……迷惑になってはいけない、とハルは柚月の為に柚月に嫌われようと必死になって悪態をついた。あとになって、それを知った。
 当時、ハルの嘘を見抜けなかった柚月も今では真実を知っている。
 
 そして、ハルは今も。
 
「同じ手が二度通用すると思ってるのか? お前が俺の作ったメシに絆されてるのはお見通しなんだよ」
「ほだ……ほだされてるって」
「メロメロって意味だ」
「大体判るよっ!……そうじゃ、そうじゃなくて、……なんで怒んないの……」
 
 ひどいこと、言ったのに、と小さく言うハルの目にふわっと涙が浮かぶ。
「その、ひどいことが嘘だって知ってるから。お前が言いたくないこと言って、辛そうだって思うから。……全部、俺の為だって知ってるから」
 
「……いつから、そんな自信過剰の自惚れ屋んなったの? 柚月さん、……」
「お前が俺を好きだって知った時から。自信過剰でも、自惚れでもないつもりだけどな」
 そうだろ、と柚月はハルに囁いて抱きしめる。
 ハルは柚月の腕の中で何度も、何度も頷いた。
 

 

 

      

     目次第三話
 

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5万アクセスありがとうございます(≧∇≦)&きみの2第二話更新。

 「ヘヴン」が一番好きなのでお礼小説が読めて良かったです、という拍手コメントを頂きました~\(^o^)/ありがとうございます!

 やあ、お礼小説載せてよかったな……俄然、お礼の続き書きたい、という気持ちが湧いてきました。でも話がまるでないので、(ナオがお仕置きされるかもね~、ぐらいしか)これから何か考えます……掲載はいつになるか_| ̄|○
 余り、期待せずにお待ちくださると嬉しいです……。

 

 テンプレートを変えてみました。冬っぽく。すると、カウンターがやけに目立っちゃったので、それも地味に変えました……アクセスありがとうございますo(_ _)oペコッ
 5万アクセスが近くてドキドキします……ι(´Д`υ)アセアセ

 ……と思っていたら、5万アクセス突破しました!ありがとうございます!

 キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!゜.+:。(*´v`*)゜.+:。

 大変嬉しいです。(≧∇≦)ヾ(´ε`*)ゝ エヘヘ

 これを励みに頑張りますので、よろしくお願いします。o(_ _)oペコッ

  

 拍手コメントで「お礼小説の続きが気になる~」という嬉しいコメントを頂きました
\(^o^)/
 ありがとうございます!ひょっとしたら続きを書くかもしれないので、その時は温かい目で見守ってやって下さい……。

 

 色々と検索して遊んでいたら「受け攻め度チェック」なるものを発見( ̄ー ̄)ニヤリ

 やってみました。八月金魚さんは……「誘い受け」です( Д) ゚ ゚

 誘い受の貴方は
  ★性格★
 気配り上手の勉強家です。
 心が広く許容量もあるので友人も多いはず。
 自信と気力も十分で多少の障害も楽々と乗り越え、失敗も恐れずに我が道を突き進んでいくのでいつの間にか多方面で仲間や同志が多くなってます。
 好奇心も人一倍旺盛なので仕事以外の趣味や遊びの分野においても研究熱心でエキスパートになる可能性を大きく秘めてます。
 
 ★夜の性格★
 基本的にMに近い受けです。
 相手が何をすればイかせてくれるのかを熟知しているので、計算したプレイを展開させます。
 甘え口調や上目使いなどの自然にみせかけた誘いをかけて快楽を貪ります。
 人にリードされるのを好むタイプです。

 ★相性★
 無邪気攻・自己中攻

 

 ……マジっすか、八月、自分のことは攻めだと思ってました。だって攻め視点書くの楽しいし。ズケズケ言いだから旦那さんとかにも容赦ないし。
 しかも「誘い受け」って……誘い受けなキャラって書いたことない!
 Mって……。そうか、Mだったのか……?むしろSだと思ってましたよ……。

 「失敗も恐れずに我が道を突き進んでいく」は当たってると思います(´,_ゝ`)プッ

 

 よろしかったら、お時間がある時にでもどうぞ♪

 
 

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 「きみの2」にたくさんの拍手、ありがとうございます
 あっ「きみの」にもありがとうございます

 拍手お礼小説を大勢の方が読んで下さったんだな~、と大変嬉しいやら、恥ずかしいやら……大丈夫でしょうか、正CPじゃないレイとナオがいちゃいちゃしてるこの話……┐(´д`)┌
 時系列で言うと「ありふれた~」と、「きみの2」の間くらいになります。

 あんまり深く考えないで書いたので、「きみの」と「ヘヴン」どっちつかずになっちゃってどうしようコレ(;ω;)と思っていたお蔵入り話です。お礼小説になったので結果オーライ?ヾ(_ _*)ハンセイ・・・

 

 拍手コメントのレスです。

 べるさん、お久しぶりです~(*^-^)「きみの2」、始まっちゃいましたね……(ひとごとかッ?)始めた以上、最後まで頑張ります!週一で更新してたらイイほうだ、と思って頂けるとありがたいです……(遅筆´;ω;`)よろしくお願いしますo(_ _)oペコッ

 

 書く書くと言っていた(アレ、そんな言ってなかったっけな(^-^;)「きみの」の続編「きみの2」を書き始めました。

 またもやタイトル考えること放棄。Σ( ̄ロ ̄lll)

 こっそり、ひっそり、ゆっくり(それはいつものこと)掲載していきたいと思います。

 「きみの2」の拍手お礼にちょっとした番外小説をUPしてあります。お時間がある時にどうぞ♪

 感想など下さると嬉しいです。

 

きみの手を引いて2:第一話

 

  
 アルバイト先のカフェの従業員用出入り口から外に出た長谷川 瞠 ─── ハルは、中へ向かって軽く頭を下げた。
「お先失礼します」 
 
「ああ、はい、お疲れさま。明日もよろしく」
「はい、お疲れさまでしたー」
 挨拶を交わし、にっこりと笑う。店のマスターの環は、髭を蓄えた顔にちょっと面食らったような表情を浮かべた。

「最近すごい機嫌いいね、ハルくん」
「え、そうですかー?」
「うん。OLのお客さんたちにも笑顔の大盤振る舞いじゃない。ぎこちない笑顔も可愛いけど今の笑顔も良いわー、なんて言われてたよ、お姉さんたちに」

「そうかなー。前と同じつもりなんだけどなあ」
「……要とうまくいってるんだ?」
 ハルの恋人である柚月 要は環の従兄弟だった。その仲を知っている環は、彼にしてはひとの悪い笑みを見せて冷やかす。ハルは、ぱッと顔を赤らめた。

「やだなー、もう。そんなんじゃないです」
「説得力のない否定だねえ。ま、いいけど、要に言っといてよ。コーヒー飲みに来て他のお客さん睨みつけるのやめろって」
 
 環が言うのは、二日前、柚月がハルを迎えに店へ訪れたときのことだ。
 
 最初のうちはまめまめしく働くハルを微笑ましく見ていた柚月だったが、女子高生にきゃあきゃあ言われている恋人を安穏と眺めていられるほど人間が出来ていない。眉間にしわを寄せつつ我慢していたものの、こっそりと携帯電話でハルの写真を撮られてると知った時には、ついに彼女達に険悪な視線を向けた。

 気付いた環が、スタッフの写真を勝手に撮られるのは困る、とやんわり注意してやめさせたが、柚月の眉間のしわはしばらく消えず、イライラとしているのが傍目にもはっきりと判った。
「あんなヤキモチ焼きじゃ、ハルくんも大変だねえ」

 やれやれと嘆息する環に、ハルは首を横に振った。
「や、……そんなことないです」
「おや、余計なお世話だったね」
  出歯亀して惚気られてはたまらない、とばかりに環は肩を竦め、カウンターの中に戻っていった。

 帰る道すがら、ハルは柚月が迎えに来てくれたあの日のことを思い返していた。
 その日はハルの誕生日だった。
 
 
 
 
 
  二人で連れ立って帰るなりキッチンに向かった柚月は、夕食時には見事にハルの好物ばかりをテーブルに並べた。
『すっげ、どうしたの? なんか悪いことでもした? うわ……浮気、とかさ』
 
 軽口に不安を覗かせるハルに、柚月はふっと笑った。
『お前の誕生日だろうが』
 ヴィンテージを出てからずっと不機嫌そうにしていた柚月の笑みに、ハルはほっとして見惚れる。最近、柚月はやけに穏やかに微笑むようになった。
 
 その笑顔にどうしようもなく惹かれている自分を自覚しながら、ハルは照れ隠しに唇を尖らせる。
『……覚えてたんだ?』
『忘れるか』
 
 至極当然のように柚月はあっさりと言う。
 どんな手を使ってでもハルの誕生日を突きとめるように、と幼馴染みのあやに焚きつけられた柚月は、それこそベッドの中で訊き出すことに成功していた。
『だって、あれから何も言わないし、今朝だって、……忘れてると思ってた』
 
『覚えてるだろう、普通。恋人の誕生日は』
 言って、リボンのかかった銀色の四角い包みをハルに手渡す。柚月の「恋人」発言にぼうっとなっていたハルは、上の空でそれを受け取り、視線を落とした。
 
『……なに?』
『なんだろうな?』
『……訊いてんの、オレなんだけど』
 
 憎まれ口を叩きながら細いリボンを外し、包装紙をそっと剥がす。現れた黒い箱を開けると、シルバーのボールチェーンとその先に繋がった、クロスに複雑な模様が刻まれた金属のプレートが出てきた。

『……ドッグタグだ』
『うん』
『駅前のショップのヤツ、無くなってた』
『うん』
『……どんな奴が買ったのかと思ってた』
『俺で悪かったな』

 胸がジンと熱くなる。柚月は、自分がこれを欲しがっていたことをちゃんと知っていた。
 なんとなく目を合わせられず、ハルは包装紙や黒い空箱を見ながら、チェーンを首の後ろで留める。
 俯いて、胸の前のプレートのクロスの模様を指でなぞるハルの頭を、柚月はくしゃくしゃと撫でた。
 
『よく似合ってる』
『……っ』
 不覚にも、涙が滲む。嬉しくて、嬉しくて、でも、どう言葉にしたらいいのか判らない。
 
『……ガキ扱いすんなっ、髪、めちゃめちゃンなんだろ……っ』
 強気な言葉とは裏腹に、顔が上げられない。柚月は笑ってハルの髪の毛を指で梳いて整えた。
 ─── 髪なんかどうだっていい。他に、もっと、聞いて欲しいことがあるのに。
 
 こんなに、嬉しくて仕方がないのに。

 プレートをぎゅっと握りしめる。
『こんな高価いの、オレにくれちゃってイイわけ? 柚月さんの誕生日、肉じゃがの材料買ってきただけじゃん。しかもオレがほとんど食っちゃったし、……なんもあげてねーのと一緒』
 違う違う。こんなこと、言いたいんじゃない。心の中で焦れながら、ハルは平静を装う。
 
 それを聞いた柚月は、ちょっと笑って言った。
『ちゃんともらった。値段が付けられないくらい、いいもの』
『ウソだっ。何もあげてねーもん』
『もらったよ』

 細い肘を掴んで引き寄せる。いつになく強引な柚月の仕草に驚いて、ハルは俯けていた顔を上げた。
 目が合う。
 柚月の唇がゆっくりと下りてくる。

 何度も何度もキスを繰り返す。力強い腕の中でハルは膝の力が抜けていくのを感じていた。
『……ほら、もらっただろ?』
 柚月の声が耳元で囁く。抱きすくめられてキスをされただけでへろへろになってしまう自分をだらしない、とハルは思う。

 だから返事をせず、柚月に抱きついた。
『……じゃあ、オレにも柚月さん、ちょうだい。アクセだけじゃやだ』
 自分をこんなにもダメにしてしまう柚月に、わがままを言わずにいられない。柚月が困っているだろうか、と気が差して見上げると案に相違して嬉しそうに笑っている。

『今すぐでいいか?』
『え、う、……わがままだって怒んねーの』
『なんで恋人にねだられて怒るんだ?』
 真っ赤になるハルを抱えるように部屋に連れて行き、『ご飯、冷めちゃうよっ……』という抗議の声を全く無視した柚月は、その望みどおり、ハルのものになった。
 
 
 
 
 
 この上なく幸せになった誕生日のことを思い返しながら、ハルは公園脇に差しかかった。
(今日の晩メシなんだろ。柚月さん、買い物して帰るって言ってたからオレの方が先に着くかも)
(……ちょっとロフト、片付けようかな……?)
 
 柚月と想いが通じてから、ほとんど柚月のベッドで寝起きしていた。それは必然的にハルが独占していたロフトが本来の使用目的である物置に戻るということで、その内部は有り体に言って荒廃してきている。
 
 さすがに布団は畳んで隅に置いてあったが、服や雑誌が雑然としている様子はいかにも見苦しい。見苦しいのでカーテンを引いて隠しているが、自分が先に帰れる今日のような日こそが片付けるチャンスだとハルは決意した。
 
(……片付けたら、服、柚月さんの部屋に少し置かせてもらおうかな)
 言えば、柚月は快く承諾してくれるだろうことは判っていた。しかしハルの心の中には、厚かましいのではないか、という引け目がなんとなくあり、言い出せずにいた。あまりにも柚月のテリトリーを侵し、頼りすぎになって柚月に疎まれるのをハルは無意識に恐れている。
 
(や、……やっぱり、いいか。片付けはするとしても、服はロフトに置いとこう)
 歩くたびに胸の前でしゃらりと揺れるドッグタグの幸せな重みを感じる。今のままで、充分、満足だ。
 
 ハルは自分を納得させ、足を速める。
「……瞠」
  ─── そんなハルを呼び止める人物がいた。聞き覚えのあるその声に、ぴたりと足を止め、ハルは振り返る。
 
「瞠」
 ハルを瞠と呼び、公園の中から現れる。
 端正な顔に浮かんだ笑み。ブランド物のグレイのスーツを品良く着こなし、ゆっくりと歩いてくる。
 
 顔色を失って立ち尽くすハルの目の前に、かつて誰よりも尊敬し、だからこそ強要されたことの辛さで逃げ出さざるを得なかった義理の父親の笑顔があった。
 

 
    

     

     目次第二話
 

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続・月最終話更新^^*

 続・月最終話更新しました~\(^o^)/

 いつも読んで下さる方々のおかげで、最後まで書けました。ありがとうございますm(_ _)m

 しかし、ちょっと長くなりましたね……┐(´д`)┌ヤレヤレ

 次回作は未定ですが、なにか書けたら掲載したいと思いますので、その折りにはよろしくお願いします。o(_ _)oペコッ

 ↓最終話のネタバレしてます。

続きを読む "続・月最終話更新^^*" »

続・月が見ている。最終話

 

 R‐18BL小説です。18歳未満の方、BLに嫌悪感を持たれる方はご遠慮下さい

 

 〈最終話〉

 

 やってられんわ、とカナエは呆れたように部屋を出て行き、翠も続く。静かに襖が閉てられた。
 
 少し身体を離した大和はかずさの片頬に手を当て、顔を上げさせる。大きな黒い瞳とそれを取り囲んだ睫毛が涙で濡れているのは自分が為だ。じんわりと心の底から愛しさが込み上げてきて、小さな紅い唇を唇で覆った。
 
「……紅いの、取らんと帰られへんからな……」
 そっと触れるだけのそれは何度も繰り返され、かずさは大和にしがみつく。
 
 そんなかずさの仕草に煽られ、大和はその舌を柔らかい唇の隙間に潜り込ませる。頬の内側や歯列を撫で、薄い舌に絡ませた。かずさは必死に自分の舌を追いかけ、応えようとする。
「……んっ……ん……っ」
 
 余裕なく息を上げるかずさに気が差して唇を離した。それでも抱きしめた腕は、解かない。
 涙を止めたかずさはぼんやりと大和を見上げた。
「……嫌なこと言われた……? 佐野屋の旦那さまに……」
「─── ま、少しはな。大したことない」

 そんなはずはなかった。同業者が余所の見世の商品を攫って手を付けたのだ。非はそっちにある、といくらでもあげつらえる。
 針の筵だったであろうことを思うと、かずさは申し訳なさでいっぱいになった。
 
「ごめん……なさい……」
「謝まっとる場合とちゃうと思うで。─── 俺に身請けされたんやで、お前。何されても文句言えへんの、判っとる?」
 かずさの気持ちを解そうと大和はふざけた口調で言い、にやりと笑う。

「泣いて嫌がっても許したらん。俺の気が済むまで弄う。その時なってとんでもない助平に身請けされた思ても遅いで。自分の心配せえや」
 昨夜のみならず朝にも大和にされたことを思い出し、かずさは頬にかあっと血を昇らせた。
 
 かずさを脅かしてやろう、と大和は華奢な背中に手を回し、緩く結わえてあった帯を解く。する、と桜色の単が小さな肩から滑り落ちた。
 もう一度キスをした後、かずさの耳の下から首筋にかけて唇を這わせる。ぎゅっと目をつぶって、かずさは大和の首に抱きついた。

「や……っ大和の気の済むように、して……いいから……っだいすき……」
「かずさ、─── ここで俺の理性飛ばしたいんか?」
 冗談のつもりだった言葉をかずさはまともに受け取り、その可愛らしさに大和の心はくらりと揺れる。
 男殺しやな、とかずさに囁いた。
 
 かずさは首を横に振った。そんなんじゃない。大和に自分の気持ちを知っておいて欲しくて、言ったのだ。
 大和はかずさに触れたい衝動を押し殺して引き離す。唇に余裕の笑みを浮かべてみせた。
「残念やけど、続きは家帰ってからにしような。ここでコトに及んだら翠に殺されるし」

 いきなり、襖が外から軽く叩かれた。
「別にかめへんけど、旦那さまが呼んだはるから早よ済ました方がええでー」

 ぼそぼそとカナエの声が続く。
「そら無理や。水揚げまだやもん。時間かかるで」
「そうなん? なんや大和、大事な子ォには手ェ出せへんねんな」
「そやねん。せやからオレに出し抜かれるんやで。なっさけな、かずさにはてんで弱あて無理強いなんかぜった出来ひん……」
 
 遠慮会釈のない会話を断つべくガラリと襖を開けた大和は、そこに立つ美形の姉と弟のような二人を睥睨した。
 二人は首を竦めながらも、にやにやと笑みを浮かべる。
 
「……あ、聞こえとった? 旦那さまが」
「お呼びやねんやろ! 噂話は本人に聞こえんようにせえ!」
 翠とカナエに話を聞かれていた恥ずかしさで頬を火照らせるかずさを、行くで、と大和は呼び寄せる。その手を取った大和は、客や娼妓が忙しなく行き交う見世中を、人目など全く気にせず階下へ降りていった。

  

  

 
 
 
「……それで最初、薄青い着物着せられたんだよ」
「そうなんか」
「でもね、翠さん、俺には桜色の方が似合うって、……へん、だったでしょ?」
 
「そんなことない。よう似合とった。ずっと着せときたいくらいやったで」
 臆面もなく褒める大和にかずさは頬を染めて俯く。箸の先で摘んださつま芋の甘露煮をもぐもぐと食んだ。
 
 
 春霞楼の主人と女将に身請けの礼と挨拶を終えて、大和とかずさは見世を後にしていた。本来なら大和は夜半過ぎまで仕事があるはずだったが、ふたりの様子を目にしてため息を吐いた主に、「もう帰ってええ。そのでれっとした顔、明日までに直して来いや」と追い出されてしまった。
 
 この機に乗じて「オレも帰ろかな、」と腰を浮かせたカナエは、翠と女将に「なに言うてんの。勘当解かれたんやろ」「今日からお前は離れで寝起きなさい」と口々に引き止められた。いよいよ娼家の主となるべく、自由の日々が失われそうな予感に見舞われたカナエは「いやや~、オレも帰る~」と駄々を捏ねていたが、「ここがジブンの家やがな」と引きずられるようにして離れへ連行されていった。……
 
 
 それから一時間後、色街から離れた屋敷に戻った二人は差し向かいで夕餉を取っていた。翠の部屋で起こった出来事を楽しそうに話すかずさを、大和は飽かず聞いている。そんな大和の目がひどく優しいことに気付いて、かずさは照れ隠しにカナエの話題を振った。
  
「あっ、あのね、最初に着せられた薄青の着物はね、カナエさんが着たんだよ。キレイですっごくよく似合ってた、」
「カナエが? 酔狂やな、……女将さんに似てカオだけは綺麗やから、似合えへんこともないやろけど」
 
 何の気なしの大和の言葉をかずさは気に止めた。
  こっそりと大和の様子を伺ってしまう。
「……カナエさん、お客さんに声かけられたんだよ。別嬪さん、て」
 
 大和は愉快そうに屈託なく笑った。
「そらええ。若旦那なるんやめて、見世の稼ぎ頭なったらええわ」
「……」
 
 舞い上がっていた気持ちがしぼんでいくのをかずさは感じる。─── 大和は少なくとも、カナエの顔が綺麗だと思っているのだ。
(……うん。カナエさんは、美人だ)
 
 自分に覆い被さってきた時の、笑みを浮かべたカナエが脳裏を過ぎる。
 線の細い神経質そうな顔つき。肩につくほど伸ばした髪の毛。細く通った鼻筋も薄い唇も癇の強そうな目も整っていて、退廃的で。さっきの秋草と紅葉のあだっぽい薄青の着物がよく似合ってた……。
「どないした?」
 
 急に大人しくなってしまったかずさを訝しく思って、テーブルの向こうの大和が訊いてくる。
「あの、……あのね」
「うん」
「カナエさん、……片思いしてるんだって」

「はあ、そらたまげたなあ」
 全く興味がなかった大和は気のない返事を返した。
「思い煩っとるより押し倒すほうが早い、思とる奴やのに。簡単には押し倒せへん女なんか?」
 
「……うん。カナエさんが押し倒すのはちょっと無理があると思う……」
 体格差と体力差で。かずさはちらりと大和を上目遣いに見た。
「意外やなー、あいつでも手ェ出せへん女がおるなん、知らんかった。ダレ?」
 
「……大和」
「……なんて?」
「だから、大和。翠さんが言ってた、カナエさんは子供の頃から大和に本気で相手して欲しくて、挑発するんだって。……片思い、なんだって」
 
 大和は鰆の西京焼きを突付こうとした手を止めて、うな垂れるかずさをまじまじと見た。箸をそっと揃えて置いたかずさは、膝に手を置いて俯いたまま言う。
「……カナエさん、美人だし。キレイだって大和が思うの、し……仕方ないよね」

「ちょ、待てや、」
 大和の制止を聞かず、かずさは小さな声で続けた。
「……カナエさんのこと、好き……?」
 大和はあごを落とした。─── どう、……どうしたらそう思えるんや。
 
「……俺、大和に身請けされて……それだけで嬉しい、から……カナエさんが大和のこと想ってて、大和も……カナエさんのこと……好きでも……」
 俯くかずさの目尻が赤く染まっている。
 
「あのな、かずさ」
 言いかけて、どこからかずさのとんでもない勘違いを訂正したものか判らなくなり、口を噤む。どこから、というか徹頭徹尾、最初から最後まで間違いだと言い切れる。
 
 箸をテーブルに投げ出すように置いた大和は両手で顔を覆い、はーっとため息を吐いた。そして食事も喉を通らない様子のかずさを改めて見る。
 
「……立って」
「え……」
「立って、こっちきいや」
 
 なぜか判らないながらも、席を立ったかずさはおずおずと大和のそばに近づく。椅子に座ったままの大和はかずさを向き直り、そのシャツのボタンに手をかけた。
「や……」
「黙れや。動くな」
 
 大和とは思えない強い口調と言葉にかずさは驚き、少し怯んだ。次いで悲しくなる。─── 大和は、心を詮索するような自分の言動を疎ましく思い、厭ったのかもしれない。
「……気に障ったなら、謝るから……」

「黙れて言うたはずや」
 骨ばった指がかずさのシャツのボタンを外していく。徐々に白く薄い肌が露わになった。
「─── めっちゃ気に障るなあ」
 当然のように、カナエが残したくちづけの跡も晒される。ボタンを外した指が、その跡に触れた。

 かずさはびく、と身体を震わせる。
「この跡。……なんなん?」
 知っていて、低く訊く。大和は、答えられないかずさの腕を掴んで引き寄せると、自分の足の間に無理やり座らせた。
 
 華奢な背中を抱き込んで、前に回した手の平をかずさの薄い胸に這わせる。かずさの肩の上にあごを乗せ、自分の大きな手が幾つも唇の跡の付いた柔らかい肌を蹂躙する様を眺めた。
「……っやあ、……」
 
 小さな、色の薄い突起がぷつっと立ち上がってくる。そこを弄ってかずさの身体がびくびくと反応するのを愉しんだ大和は、そのまま手を下に下ろしていく。
「! 大和、イヤ……っ」
 
 大和の意図に気付いたかずさは、その手を止めようと抗議の声を上げる。脇の下から伸びている大和の逞しい腕を掴んだ。
 大和はかずさの抵抗をまるで無視して、ベルトに手をかける。カチャカチャという音を立ててベルトとズボンの前を開けた後、なんなく中にその手を潜り込ませた。
 
 小さく悲鳴を上げるかずさの唇を、顔をねじ向かせて唇で塞ぐ。舌で乱暴に中を掻き混ぜ、混じり合った唾液を無理やり飲ませながら薄い舌を吸い上げた。
 その間も、大和は手を休めることなく動かす。

「……ん……っん、あ……んっ……」
 唇を解放されたかずさは既に力が抜けて抗えなくなっていた。─── 視線の先には、大和の大きな片手に包まれて先端から滴をこぼしている自分自身。もう片方の手はかずさの胸を這い回り、赤く立ち上がった突起を弄っている。大和の手と指の動きは的確で執拗で、かずさを簡単に高みへと押し上げていく。
 
 自分の状態が恥ずかしくてかずさは大きな目に涙を滲ませる。やめて、大和、と消え入りそうな涙声が訴えるのに、大和はかずさの耳に唇を寄せた。
「……やめへん。気が済むまで弄う、言うたやろ」
 
 大和の手に包まれたものがくちゅくちゅと音を立てる。あえかな声を上げるかずさを背中から抱き込み、その様子をずっと眺めていた大和はごくりと息を飲んだ。
「……ヤラしいな」
  
 かずさはいよいよ泣きたくなり、自分を捕らえる大和の頑丈な腕から逃れようと身体を捩った。 
「……やだっ……ヤラしくないもん……大和がそんなこと、するから……っ」
「そんなことて? お前のココ、手と指でめちゃくちゃにイロたこと?……勝手に気持ち良うなったんはお前やろ」
 
 助平、と囁く大和の声にかずさは真っ赤になった顔を伏せた。
「やっ……大和の意地悪……」
 その大きな瞳に本当に涙が浮かんでいるのを見て、大和は手を止めた。─── 無理やり達かせるようなことをしたら、かずさの気持ちを失ってしまうかもしれない。
 
 自分がどれほどかずさに心を奪われているか痛感しながら、大和は赤く染まった耳に口付けた。
「……俺の気持ち、信じてへんバツや。仕置きやで。……カナエが、なんて? こんなことしたいん、お前だけやのに。なんで他の奴がどうとか思うん?」
 
 かずさは涙の膜が張った目で大和の目を見つめた。
「……だって……カナエさん、き……キレイだし……大和だって、そう」
「……身請けするほど惚れた奴の身体にこんな跡付けた男のこと、俺が許すと思てんのか?」
  
 大和の指が赤いくちづけの跡を一つ一つなぞっていく。怒りを孕んだ声がかずさの耳に流れ込む。
「─── この跡見るたび俺が嫉妬で気ィ狂いそうになるん、判っとる? お前」

 カナエに好き放題触らせた自分を、その事実を、大和は許していないのだ、とかずさは思い知らされる。
 そしてそれは同時に、大和の心を信じなかったことを後悔する気持ちと、彼の心が自分に向いていることの嬉しさを生み出した。
 
 身体を後ろへねじ向けて、背後の大和にしがみつく。大和は一度、そんなかずさをきつく抱きしめると身体の向きを変えさせて、椅子に腰掛けたまま正面から抱き寄せた。
 悲鳴を封じる為ではないくちづけが、何度も繰り返される。大和の唇と舌が、かずさの反応を見るようにゆっくりと動く。かずさは自分から優しいキスを受け入れた。

「……大和」
「ん?」
「俺、ね、大和にチュウされるとぼーっとして、力が抜けて、わけ判んなくなる……」

「そらええこと聞いた。今のうちにイロイロしたろ」
「もうっ、そうじゃなくて、……カナエさんにはそうならないってこと、……大和だけだよ……」
 出来うる限りの表現で気持ちを伝えようとしているかずさに気付いて、大和はまなじりを下げた。
 
「なんや、俺と他の男を比べとんの。仕置きの続きせんとあかんな」
「ええっ、……」
 意地の悪い言葉に身体を引こうとしたかずさを逃がさず、ベッドの中でな、と大和は口付ける。
 何度目かも判らないそれを甘ったるく感じながら、かずさは目を閉じた。

 

                               〈終〉

 

 ここまでお付き合い下さいまして、ありがとうございました。m(_ _)m
 短い続編でしたが楽しんで頂けたらなによりです。
 
                        八月 金魚 拝
    

      

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