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きみの手を引いて2:第十一話

 

 ─── 二時間後。長谷川の家の近くに、スモークを貼った黒いクラウンが静かに停車した。中には柚月と和臣、ナオが乗っている。
 先程の発作的な感情の爆発はすでに柚月の元を去り、二人と一緒にいることで平静を取り戻していた。
 
 日も暮れ始めた薄闇の中、三人の見つめる先の家は一階部分だけ灯りが点いている。
 後部座席の柚月は逸る気持ちを抑えて、エンジンを止めた和臣に話しかけた。
「成沢さん、……やっぱり、ナオくんはどこか別の場所にいた方が。……もしかしたら警察沙汰になるかもしれないし」
 
「僕、大丈夫です」
 ナビシートのナオが振り返って柚月の言葉を遮る。
「後ろに移れば外からほとんど見えないし。……長谷川ってひとが来たら窓開けて、適当に話して時間稼ぐ。その間に柚月さんがハルを連れ出す。連れ出せなくても」
 言いよどんだナオの後を和臣が引き取った。

「監禁の証拠を掴む。ケータイがあるのにハルの奴が通報しないなら脅されてる可能性が高いだろう。柚月くんが巻き込まれるのを怖がってるって場合もあるがな。……むしろそっちだと俺は思う。なら、きみが現場に踏み込んで明るみにしてやればいい」

 後のことはどうにかしてやるよ、と和臣はステアリングに両腕を乗せ、じっと長谷川の家をフロントガラス越しに見つめた。その姿はさっきまでのブランド物のスーツではなく、普通の会社員然とした目立たないスーツを身に着けている。長谷川に警戒心を持たれない為にわざわざ調達したものだった。

「要は長谷川とハルが切れればいいわけだからな。親子の縁ってのは厄介だが、こういうことになった以上切れるしかねえだろう。最悪、警察沙汰になったところで内々に処理してやるさ。もっと早く俺んとこ来たらいくらでも弁護士立ててやったのに」
「……すいません」
 
 素直に柚月は頭を垂れた。
 和臣に対する嫉妬が反感となり、手を借りることなど思いも寄らなかった。環の言葉が柚月の耳に蘇る。
 
(「ふたりだけでどうにかしようとするな」)
(……この世界は俺とミハルだけじゃない。環さんも成沢さんも、ナオくんも、……他のたくさんのひとがいて、その手を借りてもいいんだ……)

 すっと胸の中を風が吹き抜け、目の前が開けていくような気がした。
(ひとりじゃない。ふたりだけでも、ない)
 きっと、ミハルに会える。

 協力してくれる二人に礼を言おうと口を開きかけた柚月に、和臣はバックミラーから視線を送った。
「関係がないってわけじゃねえし。ま、そのせいで柚月くんには信頼してもらえないんだろうけどねー」
 ……かつてのハルとの「関係」を仄めかされ、和臣に抱いた感謝の念がみるみる内に薄れていく。ちりちりと焼けつくような感情を持て余した柚月は返事もせず、窓の外に目を向けた。

「あ」
 ナオが助手席で声を上げる。長谷川の家の二階に灯りが点いた。
「……多分、あの部屋だな。一階に監禁してる奴を置いとくとは思えない」

「成沢さん」
「行くか。柚月くんは庭に隠れて。判ってるね、俺が長谷川を誘き出すから合図したら家の中に入る。……いいか、この計画は穴だらけだ。家の中が ─── ハルの奴が、どうなってるか判らねえんだからな。俺も含めて、それぞれ臨機応変に対処する。……ナオ」
「うん。ちゃんと気ィ引くよ。大丈夫、ハルから長谷川さんのこと聞いたって言えば、無下に出来ないでしょ」

 和臣ははっきりと眉をしかめてナオに目を向けた。
「……あんまり、長谷川を挑発するな。やっぱり柚月くんの言うとおり留守番させてれば良かった」
「あッ何それ、僕だけのけ者にしようとしてる! 僕だって役に立てるよっ」

 ちッと舌打ちする和臣と真っ向睨み合うナオの間で柚月は軽く咳払いをする。
「……あの、そろそろいいですか?」
 痴話ゲンカが始まりそうなのを察して、柚月は車のドアを開けた。

 

 
 
 
 

 階段を昇ってくる足音で長谷川の帰宅を知ったハルは、夢うつつのまま、ベッドの上で力なく身体を起こした。生気を失った目が薄暗い部屋に入ってきて灯りを点ける長谷川をぼんやりと追う。
 
 小さな箱をローテーブルに置いた長谷川はハルに向き直った。
「……その髪の毛をどうにかしないとね」
「え……」
 
 何を言われているのかよく理解出来ず、ハルはゆっくりと瞬きをしてその箱を見つめる。黒色の染毛剤だった。
「自分で出来る? それとも、僕が手伝おうか?……遠慮しなくていい」
 
 近づいてきた長谷川はハルの髪の毛に触れた。その感触を味わうように指先で探る。
(そうか……髪の色)
 長谷川が気に入らない髪の色をそのままにして置くわけがない。
 
「……自分で出来ます」
 長谷川の指から逃れ、ベッドを降りたハルは震える指先を箱に触れさせた。そっと手に取る。
 ─── 嫌だ、と言うのは無駄なことだと判っていた。反抗的な態度は、見た目では判らない長谷川の機嫌を損ねる。
 もしも抗えば、柚月に、周囲の人間に、何をされるか判らない。
 
「夕飯の、支度をするからね。その間にお風呂に入りなさい」
 こくり、と頷いたハルに見て、満足げに長谷川は微笑んだ。風呂は昼間に入ったが、髪の毛を染め直す為にハルは長谷川の後について階段を下りていく。
 
 視界が、ぐらり、と揺れて手摺りに掴まった。身体が熱っぽくめまいがする。
 ハルの様子に気付かない長谷川が階段を下り切った時、ドアチャイムの明るい音が場違いに鳴り響いた。
 
 長谷川は目の前の玄関ドアを凝視し、─── 階段途中で手摺りにすがるハルを見上げる。
「……部屋に戻っていなさい」
 真っ青になったハルは目を閉じて頷く。肩で息をしながら階段の上に行き、そこで力無くしゃがみこんだ。
 
(……部屋、……行かなきゃ……)
 思っていても身体が動かない。長谷川から受けた暴力と、それに晒されたストレスで発熱していた。
「……はい。どちらさまでしょうか」
 
 階下ではドアを開けて長谷川が応対している。声が、聞こえた。
「長谷川 昌樹さんですね? 児童相談所の者ですが」
「……何のご用件でしょうか」

 訝しむ長谷川の声。そして。
「長谷川 瞠くんを保護しています。本人かどうかの確認をして頂きたくお伺いしました」
 聞き覚えのある慇懃無礼な声にハルは階段上から身を乗り出して、玄関を見た。
 
 そこには思ったとおり、ヘヴンズブルーのオーナーの姿があった。
(……成沢さん。マジか……)
 どこにでもある灰色のスーツに地味なネクタイを締めて、長谷川の背中の向こうでもっともらしい顔をしている。その顔がふっと上を向いた。
 
 自分に気付いた鋭い目が眇められる。
 ハルは慌てて身体を引いた。 

「瞠、……瞠は家に帰って来ています」
「それはおかしいですね。会わせて頂くことは出来ますか?」
「……今は二階で休んでいるので……」

「そうですか。しかし確認を取りたいので出来れば会わせて頂きたいのですが」
「……瞠、と名乗っている子はここへ来ているのですか」
「ええ。あの車に乗せています」
 
 和臣が外の車を示し、それを長谷川が見つめている様子が手に取るように判る。
(何が児相だよ……拾ったその日の内にヤったくせに)
 思いながらハルは、どうしようもない懐かしさと慕わしさを感じていた。和臣がつまらない嘘を用意してここにやってきたのは、自分のためであるに違いなかった。
 
(車の中に「長谷川 瞠」がいるって?……)
 いるわけがない。自分はここにいる。
(すげーハッタリかますなあ……ダレかほんとに乗ってんのか)
 ナオかもしれない、とハルは思った。面倒見が良く、初めて会った時からなにくれとなくハルを気にかけてくれた彼なら車の中での「瞠」の役を買って出てもおかしくない。

(……きっと柚月さんは来ない。顔、知られてるし、……来ないほうがいい)
 柚月は和臣に相談したのだろう。ハルが帰って来ない、義父のところかもしれない、と。
(柚月さんは来ちゃダメだ。なにされるか、判んないから)

「……車に乗っている子が瞠でない、と判れば、引き取って頂けますか」
「ええ、それはもちろん」
 長谷川が外に出て行く気配がした。
 
 何とか立ち上がったハルは、壁伝いに覚束ない足取りで部屋へ入る。灯りは点けたが、ドアを開け放したまま、手にしていた染毛剤の箱が落ちるのも気付かない。
 和臣に、電話をして、─── 自分のことは放って置くように伝えなければ。
 
 机の引き出しを開けるとすぐにドッグタグが目に入る。それから目を逸らし、隣にあった携帯電話を手に取った。
(え、……と、な……なるさわ……)
 熱のせいか、頭の芯が揺れる。もたもたとアドレスから「成沢さん」の電話番号を捜し出し、発信ボタンに指を乗せた。

 ─── 開けたままのドアから廊下に、人の気配を感じた。ハルは反射的に視線を向ける。 
 
 顔色を失った柚月がそこにいた。

 
 

      

      目次第十二話
 

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コメント

み…みんな頑張れー!\(゜□゜;)/

柚月さんかっこよすですよ!w
臣さんもやりますねぇ(^―^)


早く次の回が読みたいです(>_<)

 
>コメントありがとうございますo(_ _)oペコッ
 大変コメントしづらい、というか、来週分を読んでから、みたいな気持ちになる第十一話だったと思います。
 なにしろ中途半端(@Д@; どうすんのコレ、といったカンジ(^-^;
 
 しかしそんな中、「頑張れ」とのエール、本当に嬉しいです\(^o^)/ 
 柚月とハルには頑張って頂きましょう(  ̄^ ̄)ゞラジャ 臣さんはそこそこに( ̄ー ̄)ニヤリ
 
 次話もよろしくお願いします♪
 

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