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in heaven on a certain night:第四話

 

 レイに対する信頼を和臣に話しても平行線のままだ、と気付いたナオは話を変えることにした。
「ねー、ハルってミハルっていうんだね、本名」
「ああ。そんな名前だったな」
 
 ベッドの上、腹這いの姿勢で頬杖をついたナオは和臣を窺うように見上げる。
「カレシ、……柚月さんが呼んでたよ、見せびらかすみたいに。……妬ける?」
「なんでだ。妬くか」
 
 あの二人がどんなに甘ったるく恥ずかしい呼称で呼び合おうとも呆れるばかりだ、と考えながら和臣は自分に上目遣いを向ける小さな顔を見つめた。
 潤んだ瞳を瞬かせて、そばかすの散る頬に子供っぽい無邪気な笑みを浮かべている。ついさっきまで自分に組み敷かれて喘がされていたせいか、その白い頬は微かに上気していた。

「いいよねえ、二人っきりの呼び方って。恋人同志ってカンジ。なんか新鮮」
「脳ミソの蕩けたバカップルの証拠だ。くだらねえ」
「あ、もー、そういうこと言う?」
 
 臣さんてそういうとこ冷めてるよねー、とナオはつまらなそうな口調で言いながら、ベッドの下の衣類に手を伸ばす。羽毛布団に包まれた背中が上半分だけ露わになり、シェードランプの灯りに口付けの痕がいくつか晒され、─── 和臣はその華奢な身体を引き戻した。
 
「臣さんっ?」
「─── なんて呼んで欲しいんだ。言えよ」
 仰向けにして、のしかかる。和臣は唇の触れそうな距離でナオの目を射竦めながら、赤く擦れた痕のある細い手首をベッドに押さえつけて身動きを取れなくさせた。
 
「こういう時、なんて呼んで欲しいんだ。なっちゃんか? ナオりんか?」
 耳元で低く囁かれて、ナオは頬を火照らせる。
「なっ、なに言ってんだよー、くだらないってバカにして」
「お前が望むならバカップルも悪くない」
 
 何度も軽いキスを交わす。それだけで力の抜けてしまったナオは切なくため息を吐いた。
「……ナオ、でいいよ……臣さんにそう呼ばれるの好きだし……ハルとカレシが仲良しだったから、羨ましかっただけ……」
 
「そうか。それじゃ俺のことは和臣と呼び捨てろ」
「うん、……ええー!」
 
 甘い雰囲気に流されて頷いてしまったナオは、思わず大声を出していた。ぶんぶんと頭を横に振る。
「出来ないよっ! ムリムリ!」
「お前が言ったんだろうが。二人だけの呼び方がしたいって」
 
「そ、それは、だから、恋人っぽくてちょっとイイなあと思っただけで、……臣さんを呼び捨てなんて出来るわけないよっ」
「出来る」
 断言した和臣はナオの唇を自分の唇に触れさせた。
 
「か」
 唇の動きでナオに発音を促す。伏せた目に見下ろされて、ナオは仕方なくか細い声で応えた。

「……か」
「ず」
「…………ず」
「お」
「……ぉ」
「み」
「……み……」
「続けろ」
「ヤダー!」
 
 拒む言葉と共に、ナオは真っ赤になった顔を背けた。逃れようとじたばたともがく。
 それをものともせず、和臣はナオに体重をかけて抵抗を封じた。
「お願い、臣さん、呼び捨てなんか出来ないよう」
 
「和臣、だ」
 なんとしても呼ばせたいのか、和臣はナオを解放する気配を見せない。しばらくナオは懇願するように和臣を見上げていたが、根負けして口を開いた。
「……か……」

 やっとの思いで言葉にする。
「……か…ず……お……み……」
 首筋から耳たぶまで赤く染めて、小さく発したナオの声は和臣の嗜虐心を刺激するには充分だった。
 
「─── 練習が必要だな」
「な、な、なに、練習って、僕、ちゃんと」
「一音ずつじゃ雰囲気でないだろうが。呼べるようになるまで反復練習な」
 
 大きな和臣の手がナオの身体を無遠慮になぞっていく。口付けの痕のついた胸を撫でられ、立ち上がった赤い突起を指で摘まれるとナオの身体は無意識にびくんと反応してしまう。重さの圧迫はなくなったものの、すぐに自分をそんな風にしてしまう和臣が恨めしくてナオは抗議の声を上げた。
「……やっ……あ、ん……っん……臣さんっ……やだ……っ」
 
 和臣にとっては誘惑しているようにしか聞こえず、当然やめるわけもない。あらぬところに唇を這わせながら、呼び捨てにしろ、と甘い声で命令する。
 身体中の感覚に正気を失くしたナオが、上手に「和臣」と呼べるようになるまで、それは続いた。
 
 
 
 
 
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 side:きみの手を引いて

 
 
 
 柚月と二人、ヘヴンズブルーを出てアパートに帰りついたハルは目隠しにしているパーテーションを回りこむ間もなくキスされ、驚いた。
 アルコールが香る。背中にまわされた柚月の腕に力がこもり、唇の接触が深くなっていく。

「ど、……したの……?」
 目を伏せて、息を吐きながら柚月に寄りかかる。身体から力が抜けて、そうでもしないと立っていられない。
 
 柚月さんのキスって反則だなあ、とハルは思いながら、その反則技がなぜ、今、繰り出されたのか訊ねる。
「なんで、……帰ってきたばっかなのに。こんなとこで」

 靴を脱いだだけの、まだ玄関の内だ。性急な仕草は柚月らしくない。
 上目遣いで覗き込んでくるハルを、柚月はきつく抱きしめた。
「……お前が、成沢さんと、話してた……」

「そ……そりゃ話すよ……会えば、話すだろ……?」
「……嫌なんだ」
 成沢に対して全く臆せず、むしろ威張ったような口調で話すハルが柚月の頭の中から消えない。まるでそれは庇護者に甘えているようにさえ、思えた。

 その嫉妬を紛らわせようと必要以上に口に運んだアルコールは、返って柚月の心を抑えられなくする。
「……嫌だ。お前が成沢さんと話してるの見るの、……見たくない」
  
「もしかして、……妬いてる……?」
 訊ねるハルの声の底に、驚きと嬉しそうな響きがある。
 それに気付かず、柚月はハルの肩に乗せた顎を僅かに頷かせた。

「─── ごめん。酔っぱらってなけりゃ、このくらい、なんでもないのに」
 こんな風に焦って、嫉妬して、お前を困らせたりしたくないのに。辛そうに囁く柚月の顔を、両手で包み込んで、ハルは口付けた。

「は、……」
 ハルの名を呼ぼうとして後が口の中に消える。入り込んできた小さな舌先を捉えて、柚月は自分の舌に絡ませた。そのままハルの口腔内に侵入する。

 ハルの息が上がり、目を潤ませるほどしつこく堪能して、そっと解放した。
「……嫉妬なんか、今さらあのひとに、と思っても……止められない……あのひとに……成沢さんに会えて嬉しかったか……?」
 自分の醜い言葉を聞きたくなくて、小声になる。

 そんな柚月の、自分に執着してくれる気持ちと言葉がハルは嬉しくてたまらない。もっと欲しくて、つい挑発してしまった。
「……嬉しかった、って言ったら……?」

 ハルはいつも不安だった。柚月は大人で色々なひととの付き合いがあり、そこには自分の知らない世界がある。自分のような子供より、同年代の、大人のひととの付き合いの方が楽しいのではないか、と ─── 柚月を、こんなにまで想っているのは自分だけで、柚月はとうの昔に気持ちが離れているのではないかという不安が心に住みついて離れない。

 柚月と同年代の大人になりたくて、今日も、柚月が誰かと飲みに行っても全然平気だ、という大人の寛容さを見せたくて、─── そうすれば、少しでも長く柚月の気持ちを繋ぎとめて置けるのではないか、と思い、そう言った。

 けれど柚月は自分の頭にぽんぽんと手を乗せて、「ハタチになったら一緒に飲みに行こうな」とまるで子供扱いだ。このままでは飽きられ、自分ばかりが柚月を好きで、柚月にとって重たい存在になってしまう。焦燥に駆られたハルは無理に柚月を飲みに連れ出した。
 
 ヘヴンズブルーで和臣に会ったところで嬉しいはずもない。
 ハルが欲しいのは柚月の気持ちだけだった。 

「……臣に会えて嬉しかった、って言ったらどうする……?」
 心とは裏腹に挑発するハルの瞳が、柚月を見つめていた。
 
 
 

      

       目次最終話

 

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