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in heaven on a certain night:第一話

 

「─── え? ハル、来てるの?」
 驚いて、カウンター越しにナオは牧田を見上げた。牧田は目線でハルのいる場所を示す。
 ナオは振り返り、ハルと、ハルの恋人が共に壁際にいることを確認した。

 夜八時過ぎ、ヘヴンズブルーの店内。元々は、この店のオーナーの占有だった一番右端のカウンターチェアに腰掛けたナオは、牧田と雑談を交わしていた。その最中、ハルが現れたことに気付いた牧田はナオにそれを告げる。

 混み合う店内に紛れる壁際の二人の様子に、目を凝らすナオ。牧田は穏やかに呟いた。
「……仲、良さそうだね」
「ほんと。ちょっと、話してこようかな。……あのさ、オーナー来たら」
「うん。ハルくんと話してるって言っとく。……もう「臣さん」て呼んでもいいんじゃない?」

「……なんか、ヘヴンじゃ呼びづらいよ……」
 ま、そうかもね、と牧田は軽く笑ってフレームレスの眼鏡を指で押し上げた。

 ヘヴンズブルーのオーナーで、ナオの恋人でもある和臣は朝早くから実家に帰省している。今日中に、いや午後の九時までには戻る、と言うので、ナオは久しぶりに一人でヘヴンに足を向け、牧田特製のリゾットに舌鼓を打っていた。

 ヘヴンで待ち合わせようと電話したナオに、和臣はひどく慌てていた。
『え? ヘヴンに? 一人で? 待ってる? 一人でか?……駄目だ、一人でなんか絶対駄目だ家にいろ、……どうしても行くって、じゃあ、じゃあ牧田か河合と一緒にいるんだぞいいか間違ってもレイに奢らせるなよ!?』

 なんでレイが出て来るんだかさっぱり判らない、とナオは携帯電話の送話口にため息を吐いた。ひとりがダメって、心配性過ぎる。
『……判りました、臣さん。カウンターで牧さんといるから。それならいいでしょ?』
 渋々承知した和臣が名残惜しげにしているのを知っていて通話を終えた。

 ……まあ、でも、臣さんが心配するのも無理ないか、とナオはちらりと思う。
 以前、ナオは、ヘヴンで声をかけられればよほど悪い相手ではない限り付いていき、……色々なことをさせて収入を得ていた。それが元で、幼馴染みの男に付き纏われたことさえあったのだ。

 今は和臣以外の男とそんな行為に及ぼうとは夢にも思わないが、和臣にしてみれば、自分が一人でヘヴンズブルーに行くというのは不安なものなのだろう。
(……ダレに声かけられたって、ついてかないのに)

 信用、してくれないんだから、とナオは少し不満に思う。─── 今回、一人でヘヴンに行き、和臣と待ち合わせが出来れば少しは信用してくれるんじゃないだろうか。
 ナオが一人でヘヴンズブルーにいたのはそういう訳だった。

「ハルー」
「ナオ!……」
 近づき、声をかけたナオにハルは笑みを向けて、その背後を窺うような上目遣いを見せた。
 
「アレ? ここのオーナーは一緒じゃないの」
「今日は私用でいないんだー」
 苦笑いしながら言うナオに、ハルは目を瞠る。
 
「え、じゃあナオひとり? よく許したねー、独占欲のカタマリみてーなオーナーが」
「そ、そんなんじゃないけどさ、……」
 薄らと頬を染めたナオは、ハルの隣にナイトよろしく付き従っている柚月に会釈した。なんとなく、柚月も微笑んで会釈を返す。
 
 ハルは少し背伸びして柚月の耳に何事か囁いた。頷いた柚月は、カウンターの牧田の元へ向かう。
「……ふーん」
 ふたりの一連の仕草を目の当たりにしたナオは、腕を組んでしげしげとハルを見つめた。

「なに、今日は見せつけに来たの? カレシと仲良しだって」
 さっきのお返しとばかりそばかすのある顔に、いたずらっぽい表情を浮かべるナオ。ハルはうッと言葉に詰まった。
「そんなんじゃねーけど、……」

 恥ずかしそうに目を逸らすハルにナオは追い討ちをかける。
「けど? つい、いちゃいちゃしちゃう?」
「ちがうってッ……イチャついてねーよっ。なんかナオ、性格悪くなったぞ!? あのどSのエロオヤジのせいだろ!」
「違うよー、もともとこんなだもん」

 しれっと受け流すナオにハルは、ウソだ、ゼッタイあいつのせいだ、とぶつぶつ呟く。それから観念したように、ヘヴンに来た経緯を話し始めた。
「……柚月さんさ、オレがいて、……あんま飲みにいけないんじゃないか、と思って。友達と飲み会とかさ、行っていいって言ったんだけど、……オレがハタチになったら一緒に飲みに行こうって、……言ってくれて」

「ハタチ? ハタチって、ハルまだ十六かそこらでしょ」
「……もうちょっとで十七んなる」
「三年以上も先じゃん。ほとんどプロポーズだよねー」

「もうっそんな話じゃないって!……だから、オレが一緒に行って、ソフトドリンクにすればいいんじゃないかって、……思って、柚月さん連れてきたんだ、……」
 それはまだ公にはアルコールを口にすることの出来ない、ハルの意地だった。

 柚月と対等ではない子供の自分がいやで、でもそれを知られたくなくて「飲みにいっていい」と寛容なところを見せた。しかし、ハルが無理をしていることを柚月はちゃんと知っていて、「二十歳になったら、一緒に飲みに行こうな」と優しく言って笑う。
 
 その言葉が嬉しくてたまらないのに、ハルはつい、「ガキ扱いすんなっ、酒じゃなかったら今でも行ける!」と言ってしまっていた。困り顔の柚月と家を出たものの、ヘヴンズブルーぐらいしか行く当てが思いつかず、こうして、ナオにからかわれる羽目になった。

「─── ミハル、……コーラでいいか?」
「あ、うん」
 自分とハルの分のドリンクを両手に持ち、戻って来た柚月の台詞を聞いて、ナオは更ににやにやと笑う。

「……なんだよ。またそんな、へんな笑い方」
 ドリンクを受け取りながら、ハルは口をへの字に曲げた。
 ハルの、以前と変わらぬその生意気な表情が照れ隠しだとナオは気付いている。

「カーワイイ名前。ミハルって呼んでもらってるんだー?」
「……!」
 指摘されるとめちゃくちゃ恥ずかしい。ハルは顔を赤くして俯いた。
 目を逸らし、細長いタンブラーに注がれたビールを黙って飲む柚月を、ハルは少し睨んで小声で詰る。

「……今呼ぶことないじゃん」
「なにを。何が?─── お前をミハルって呼んじゃまずいのか?」
「……恥ずかしいんだよっ……」
「呼びたかったんだ」

 俺だけだろう、お前のこと、ミハルって呼ぶの。
 やはり小さい声で返す柚月の言葉にハルはますます顔を赤くし、ナオは片手で自分を扇いだ。
 
「あー、あっついねえ。僕、邪魔みたいだからカウンター帰るー」
「ああっ待って、待てってナオ、邪魔じゃないってッ」
 ナオの首に腕を回してハルは引き止める。ナオはその腕に手をかけて笑った。
「気ィ使わなくていいようー」

「……何やってんですか、ナオさん」
「あっレイー」
 ふざけてじゃれあうナオとハルの前に、今、店にやってきたばかりらしいレイが現れた。
 
 目顔で柚月に会釈し、柚月も同じように返す。ナオに向き直ったレイは、すっかり高くなった背丈で ─── それでも柚月よりかは幾分低い ─── 見下ろした。
「聞いてよう、ハルがわざわざカレシ見せつけに来たんだよー。超仲良し、当てられてのぼせそー」

 ハルの腕を解いてレイに近づき、見上げるナオ。本人にそのつもりがなくとも、甘えてるように見える仕草と口調にレイは目を細めた。
「オーナーはどうしたんです? ナオさんほったらかして」
「今日ね、私用。九時ぐらいには帰るって言うから、ここで待ち合わせしてるんだけど」

「……まだみたいですね。じゃあ、ナオさんは俺と仲良くして見せつけときますか」
「えーっ、何言ってんのー」
 明るく笑うナオに、レイはあからさまに見惚れている。レイの気持ちを知っているハルは、少しヒヤヒヤしながら面白くその様子を眺めた。─── ナオって、そういうとこ鈍感だよなー。
 
 恋人でもない相手に無意識に思わせぶりな態度しといて、惚れられてるのに全く気付かない。だからあんなエロオヤジに全力で落とされる羽目になったり、年下の男に横恋慕されるようなことになる……。

(ま、オレは柚月さんだけでいいけど)
 隣で黙々とビールを飲む柚月をちらりと見る。ハルとナオがじゃれあっても、そこにレイが加わっても穏やかな表情を崩さず、ハルに寄り添っている。
 ハルの視線に気付いて、更に目尻を下げて微笑んだ。

「どうした?」
「えっ、ううん、なんでもない」
 照れくさくて、ハルは目を逸らした。柚月の優しい表情に見惚れていた、とは言えない。
 
 そんなハルにナオは唇を尖らせた。
「あー、またイチャついてるー」
「ほんとですね。俺らもイチャついときます?」
 
 冗談口調で言って、レイはナオの脇腹に手をまわしてくすぐった。ナオの笑う声がその場の雰囲気を明るくする。
「やっ、くすぐったいって」
 笑いながらレイの手から逃れたナオは、どん、とスーツを着た厚い胸にぶつかった。

「……あ」
「あ」
「…………」

「臣さん、じゃなかった、オーナー、お帰りなさいっ」
 たった今、帰還したばかりのこの店のオーナーの仏頂面を見上げて、ナオは嬉しそうに微笑んだ。
 
 
 
 
       

     目次第二話

  

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