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2010年2月

拍手お礼が寂しくなってしまったので、写真素材サイト・LOSTPIA様から画像をお借りしています。

ここ数日、素材サイトさんを巡って、好きなカンジの画像を探していたのですが、LOSTPIA 様の写真はすごく八月の好みです。バナーとかも作りたいなあ……。

でも、バナー画像をPCに保存して文字入れとかしたら、さすがに旦那さんに「ナニこれ」って訊かれるんじゃないろうか。ナニこれ、って…なんでしょう…?(^-^;

昨日も画像保存してたら、「ブログ始めるの?」とか訊かれて、「(もうやってる┐(´-`)┌)はは、まっさかー」と答えたばかり。いつバレんだろう。

バレたら、……バレたら「鬼嫁日記だから読まないほうがイイよ!ていうか読まないで!」と釘を刺そう……知らない方がいい、それがお互いの為ってもんだ。(  ̄^ ̄)ゞラジャ

一番下の子が「お母さんと遊びたーいっ」と待っているので、遊びます。

 

たくさんの拍手、ありがとうございます(≧∇≦) コメレスです↓

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きみの2第十三話更新

 第十三話更新しました。ギリっギリまで改稿しての更新、もうほんとにツライです。

 なんでこんなにヘタクソなのか、文章が、本当にままならない~(;ω;)

 書いても書いても納得がいかないので、そうなってくると、どこで諦めるかが問題に……。

 もう、しょうがないや、下手なのは先刻承知、どれだけ書き直しても納得がいくなんてないんだからこれで完成稿、掲載出来る、ダレに読まれてもいい、……いや良くない~。・゚゚・(≧д≦)・゚゚・。

 ……というのが、毎回掲載前の八月の気持ちです(;´д`)トホホ… 今回、特にそれがヒドイ。

 でも掲載しちゃえば開き直れるので(・_・)エッ....? もう、そういうことにします。そういうことってナンだ……。

 

 テンプレを春仕様にしました。唐突だな!Σ(゚д゚;) だいぶ混乱ぎみ。

 

 

きみの手を引いて2:第十三話

 
 
 和臣が先に立ち、ドアへ向かって歩き出す。
 ハルを抱きかかえるようにして部屋を出ようとした柚月の背後から、声がした。
「……待ちなさい」
 三人 ─── 柚月とハル、和臣は振り返った。髪を乱し、腫らした顔を手で押さえた長谷川がゆっくりと立ち上がる。

 くぐもった声が呪詛のように告げた。
「……傷害罪だ。告訴する」
「ああ、……やってみてもいいですよ」
 応えたのは和臣だった。ドアの近くで片方の口角を上げて笑う。

「多分、不起訴になると思います。俺がそうするように働きかけるし、……何より長谷川さん」
 柚月とハルをその場に置いて、和臣は長谷川の近くに行き、囁いた。
「監禁、脅迫、暴行、傷害、……長谷川 瞠に働いたこれらのことが明るみになって困るのはあなたの方でしょう。─── 彼らはいい、警察沙汰になっても構わない、と腹を括っている。向こう見ずなくらい」
 
 楽しげにさえ聞こえる口調で和臣は言い、ちらりと背後の二人を見る。
「特に柚月くんがね。俺の目に狂いはなかった」
「……瞠は僕の養子だ。自分の子供をどうしようと僕の勝手だろうッ」

 初めて ───。
 長谷川が声を荒げた。鼻からの出血をYシャツの袖で拭い、和臣を押しのけようとする。
 その腕を、和臣が掴んだ。

「……俺はね、長谷川さん。自分のものだから何をしても構わない、そういう傲慢な支配心が死ぬほど嫌いだ」
「なん……」

「あんたには二十四時間監視を付ける。もしあんたが不穏な動きをすれば、社会的な制裁を加えることも厭わない。……会社に圧力をかけて退職に追い込むとかどうですか? その前に、あんたがとんでもないヘンタイだって噂を流さないとね。写メ、結構よく撮れてますよ。誰が見ても手錠だ」

 一瞬ぽかんと口を開けた長谷川の顔が赤く染まっていく。腫れた瞼の奥の目が、和臣を睨みつけた。
「……信じるわけないだろう、そんな写真、……圧力だと? そんなこと出来るわけが……」
「出来るわけがないとどうして判るんです?」
 
 薄らと嘲笑を浮かべる和臣を長谷川はまじまじと見て、二、三歩後ずさる。ベッドに膝の裏をぶつけてその上に尻餅をつくように腰を落とした。

「……権力を笠に着るのは不本意なんだが」
 スラックスのポケットに手を入れた和臣は長谷川を見下ろした。身に着けた量産品のスーツとはつり合わない、生来の品格を凛然と知らしめる。

「こう見えて意外とオモテの社会にもウラの社会にも融通が利くんですよ、俺」
 凄んだ和臣の表情は、意外でも何でもなく長谷川の目に映った。怯えたように見上げるその頬が引きつる。
 
 すっとしゃがんだ和臣は、長谷川の皺になったYシャツの前身ごろを手で払った。
「……大丈夫ですよ。俺も強いて力を使いたいわけじゃない。穏便に揉み消すのも骨が折れる。後ほど弁護士を通じて養子離縁の話を進めさせてもらいます。あんたはサインをしてくれるだけでいい。……ああそれと、生涯彼らには関わらない下さい。……コンクリ詰めで海の底なんてなかなか浮かばれない死に方です」 

「弁護士……離縁……?」
 長谷川は思いも寄らないことを言われたように目を見開いた。その目が柚月に肩を抱かれたハルを捉える。

「……瞠……」
 よろり、と長谷川は立ち上がった。取り付かれたようにハルの方へ手を伸ばす。病的なその仕草にハルはびくっと身体を竦ませ、柚月にしがみついた。
 柚月は、体温の高い ─── 恐らく発熱しているハルの身体を抱きしめる。

 二人の姿を見つめる長谷川の瞳が揺れ動く。
「……どうして……瞠は僕のものだ。何もかも思い通りにしていいはずだ……! 瞠は僕を慕っていた、全て僕のものになった、……そいつの方が瞠に好かれているなんてあるはずがない……!」

 いつも穏やかな笑みを浮かべていた長谷川はその仮面を捨て、形振り構わずハルに近づいていく。血で汚れ、瞼も頬も腫れたその顔は鬼気さえ感じられた。
「おいで、瞠。……柚月 要に危害を加えられてもいいのか……? 迷惑をかけて、自分のせいで、」
「そういう手口を使ったってわけか。ずいぶん矛盾している、」

 後ろから長谷川の肩を掴んだ和臣は、その身体を引き戻し、ベッドに無理やり座らせた。
「ハルの奴、柚月くんが好きだからあんたの言うこと聞いたんだ。……あいつが頷いた時点で、あんたより柚月くんの方が好かれてるって気が付かなかったのか?……」

「───」
 長谷川の顔から一切の表情が消えた。それは、何もない、無。
 膝の上に肘を突き、その顔を両手で覆う。嗚咽が漏れた。
「……なぜだ……そいつと僕の、どこが違うんだ……そいつだって瞠を所有していると思っているから、ここに来たんだろう……!」

「……長谷川さん」
 苦く笑った和臣は優しく労るような口ぶりで告げた。
「柚月くんは一度俺にハルを預けてるんです。ハルが好きなのは俺だと勘違いしてね。……柚月くんとあんたの決定的な違いはそこだ。誰よりも、自分の気持ちさえ殺して、ハルの気持ちを一番に考える。……彼はハルを支配したいとは思っていない」

 独占欲や嫉妬はあるかもしれないがね、と和臣は目だけで笑う。
「……もし、ハルが本気であんたのことを好きだったら、柚月くんはどんなに辛くても手を引く。必ず」
 確信を込めた和臣の声が続く。

「だからハルは柚月くんのものになったんだ」
 静かな和臣の言葉は長谷川に取って断罪にも等しい。瞠、と途切れ途切れに呼ぶ声が、顔を覆った手の隙間から何度もこぼれた。

「………」
 不意にハルは、─── 柚月の腕から抜け出した。
「ミハル?……」

 訝る柚月の目の前を、熱に浮かされたハルがふらふらと長谷川の方へ歩いていく。
 その気配に振り向いた和臣は、ハルが近づいてくるのを知り、身体を避けた。
 ハルは、長谷川の前で立ち止まった。うな垂れる長谷川の頭をじっと見下ろす。

「……はせがわさん」
 呂律の回っていない、小さな、子供のような声だった。その声が、たどたどしく言葉を繋げる。
 
「……オレ、……長谷川さんのこと、……お父さんが出来た、って、嬉しかった……長谷川さんがオレに触りたいって、思ってくれるみたいに、……好きになれなくて、ごめんなさい……逃げ出して……」
 ハルはゆっくりと頭を下げた。
 
「……ごめんなさい……」
 長谷川は顔を上げなかった。自分の言葉が聞こえているのかいないのか判らなかったが、ハルは長谷川に背中を向けた。ドアの近くに、心配そうな表情を浮かべた柚月がいる。

 ─── 柚月さんが、オレを、待ってくれてる。
 どうしようもない恋しさに駆られて心が柚月へ引き寄せられる。足が縺れた。
「ミハルっ……」
 柚月の腕が前に傾いだハルを抱きとめる。

 目が霞む。身体が重い。
 
 薄れていく意識の中でハルは和臣の声を聞いた。
「ああ、こいつ熱に弱いんだった。車まで頼むね、柚月くん。……あいつ、ちゃんと中で待ってるか……」
 柚月の体温に包まれてふわりと身体が浮く。その感覚にハルは深い安堵を覚え、意識を手放した。

 
 
 
 
  
 
 遅い、とじりじりしながら待っていたナオは和臣が玄関から出てきたのを見て、車を飛び出した。走って和臣の元へと急ぐ。
「ハルはっ?……」
 
「ちゃんと待ってたか。エライエライ」
「待ってろって臣さんが言ったんじゃんか!」
 開けたままの玄関のドアを身体で押さえた和臣は、噛み付くナオの頭を撫でた。
 
 
 
 ─── ほんの少し前、ナオはハルの義父だという男と対峙していた。クラウンの後部座席の窓から、外にいるその男を見上げる。ナオを無表情に見下ろした男は儀礼的な質問を投げた。
『─── 君は、誰だ?』

 その口振りから自分への興味の無さが見て取れる。背中にひやりとするものを感じながら、ナオは笑顔を見せた。
『……長谷川さんですね? 僕はハルの友人です。あなたの話を、ハルから聞いています』

『……瞠から、何を?』
『大したことじゃありません。……あなたに施設から引き取ってもらって、親切にしてもらったことや、だからとても感謝していること、……ハルがあなたを尊敬してるってこと』

『そうだろう』
 長谷川はナオの賛辞に満足そうに笑みを浮かべた。
『瞠は僕を尊敬して慕っている。僕のものなんだ』

 その言葉と陶酔した口調にナオは全身が泡立つような不快感を覚える。……苦手なタイプだ、と思いながらも車の窓枠に手をかけて、親しげに、より一層見上げてみせた。

 ふと我に返ったように、長谷川は訝しげな顔をした。
『……君は、なぜ、瞠の名を騙る?』
『僕は……ハルの尊敬するあなたに会ってみたくて』

『瞠だと名乗っても、何の意味もない。あの子は僕のところに帰って来ている。知らなかったのか?』
『え、……ハルは、帰ってるんですか? 知らなかった。会いたいな』
『……今、あの子は具合が悪いから ───』

 言いかけた長谷川の表情が固まる。少し離れて車のフロントに凭れていた和臣をゆっくりと振り向いた。
『……確かあの男もそう言って……』
 小さく呟き、突然、踵を返す。長谷川に背中を向けられたナオは慌てて窓から身を乗り出した。

『長谷川さん!』
 遠ざかっていく背中を悲鳴のような声で呼んだ。長谷川が家へ戻ろうとしているのは明らかだった。
『待ってください! まだ話が……』

 言いながらナオは車のドアを開ける。いきなり伸びてきた和臣の手に強く肩を掴まれ、シートに押し戻された。
『……お前は車の中にいろ』
『あの人を止めなきゃ、まだ早過ぎるよ!』

『いいからそこにいろ。もう充分だ。車に誰もいないよりはかなり時間が稼げた。あとは俺が行く』
『僕も一緒に行く!』
『駄目だ』

『なんで!? どうして僕だけ』 
 頑強に言い立てるナオの唇は、和臣の唇に強引に塞がれた。
 
『……柚月くんとハルの奴を迎えに行ってくる。外に出るなよ。待ってろ』
 ナオの目の前でドアが閉まる。
 いつになく、長く乱暴なキスにぼう然とするナオを車内に残して、和臣は長谷川の家に入っていった。
 
 
 
 
 それから数十分。
 家から出てきた和臣に駆け寄り、睨み上げたナオは、玄関の上がり框にハルを抱え上げた柚月が佇んでいることに気付く。

「ハル、……」
 そばに近付こうとして思い留まる。その代わりに玄関先にあったハルのスニーカーを拾い上げ、柚月の為に道を空けた。
 
 柚月を通した和臣の後について、ナオは小さく非難の声を上げる。
「一緒に行くって言ったのに! なんで僕だけ車の中なんだよっ」
「……」
 歩きながら和臣は難しい顔をして、柚月の腕の中で意識を失っているハルを見た。その視線に気付いてナオは口を噤む。

 造作の整った小さなハルの顔は血の気が失せていた。仰け反った喉元に口付けの痕が二つ覗き、─── その他の、長袖のTシャツやスウェットのパンツに覆われた身体がどうなっているか、想像に難くない。
「……ま、こいつがどんな状態だか知れなかったし、……もっとひどいってこともありえたわけだからな。どっちにしろ、お前に見られるのはこいつの本意じゃねえだろう」
「……」
 
 ナオは目を伏せて、唇を噛んだ。和臣の言っていることは正しい。自分は行くべきではなかった、と納得して、辿り着いたクラウンの後部座席のドアを開けた。
 ありがとう、と言う柚月の声は穏やかだった。和臣の手を借りて車に乗り込み、ハルの頭を膝に乗せる。

 車が出てしばらくするとハルは意識を取り戻した。
 
「……チェーン、切れちゃったんだ……直んないかな……? 柚月さんにもらったんだ、……長谷川さんに見つかって……引っ張られて、切れちゃった……取り上げられて……でも、オレ、取り返したんだよ、捜して……また、見つかったら、取り上げられるし、もっと、ひどいことされるって、判ってたけど、……柚月さんがオレにくれたから……。柚月さんを守らないと……長谷川さん、柚月さんに何するか判んないから……柚月さんのこと、柚月さんが、めちゃくちゃになっちゃう……ケーサツ、通報されて、オレのこと、へんなふうに言われて、オレが柚月さんのそばにいたくて、いたのに、柚月さんが……」
 
 柚月の膝の上で取り留めのないうわ言を小さな声で発し続ける。柚月はハルの頭をそっと撫ぜた。
「……大丈夫だ」
 優しい柚月の声がハルの耳に流れ込む。
「ずっとそばにいるから」

 窓の外はすっかり暗くなっていて、環状線をすれ違う車のヘッドライトが時折り車内を照らす。信号渋滞に巻き込まれながらも、景色は柚月とハルの暮らすアパートへ近づきつつあった。

 柚月の手の下でハルはなおも「柚月さん」と口にし続けていたが、次第に呼吸が間遠になる。安心したのか、寝入ってしまったハルを起こさぬように柚月はもう一度、ずっとそばにいる、と囁いた。

「ハル、柚月さんのことばっかり」
「プロポーズは二人きりの時にな」
 まるで大したことなど起こらなかったかのような、前列席の二人の冷やかしを受けて、柚月は微かに笑んだ。
 

       

      目次第十四話
 

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きみの2第十二話更新

 きみの2第十二話更新しました。ヾ(´ε`*)ゝ エヘヘ

 「in heaven…」が全てトップページの目次から読めるようになりました。

 全五話です。予期せず、きみのとヘヴンの共通番外(しかもラブラブ(^-^;)になりましたが、書いていてかなり楽しかったお話です。

 十八歳以上の方は、ぜひどうぞ (/ω\)ハズカシーィ

 

 拍手お礼が何もなくなっちゃって、ちょっと寂しいカンジ( ´・ω・`)

 「きみの2」は「きみの」からの続き物ということで、こんなに長い話にお付き合い下さるなんて本当にありがたい、せめてものお礼にお蔵入りだった小説でも、と一話しかなかったお話を拍手お礼画面に載せたのが「in heaven…」の始まりでした。

 ほぼオールキャラで明るいし、おまけとしてちょうどいいかと思って(^-^; それが思いがけず五話にまで発展しました。

 何かまた、短くて、お礼になりそうなものが書けたら載せたいです。なんかないかなあ(*^-^)

 

きみの手を引いて2:第十二話

 
 
 携帯電話を手にしたハルは、ゆっくりと顔を上げて背の高い柚月を見上げる。
  
 柚月の目に映ったハルは一日でひどく衰弱してしまっていた。見たことのない黒っぽい長袖のTシャツとスウェットのズボンを身に着けていて、顔色が悪く目に生気がない。自分を認識した様子もなかった。─── そんなハルのすぐ後ろ、ベッドヘッドから下がる手錠が照明にきらりと反射する。
 
 それは柚月の想像力を刺激するには充分だった。
 かッと頭に血が昇る。思わず柚月が一歩前に踏み出しても、ハルはなんの感情も持たないようにぼんやりとしていた。

「…………」
 ハルは ─── 夢の続きを見ているのだ、と思った。柚月がここにいるはずがない。
(だって、柚月さんがここに来たら、あのひとに何されるか、判んないから)

 柚月は、柚月だけは、ここに来てはいけない。
 
 熱と、いるはずのない柚月を目にしたショックに麻痺した頭でハルは精一杯考え、携帯電話に目を落とした。─── 柚月さんに返さなきゃ。
 開けたままの机の引き出しからチェーンの切れたドッグタグを掴み出し、携帯電話と一緒に柚月の胸に押し付けた。
 
「あの、これ、返すから」
「ミハル」
「チェーン切れちゃって、ごめん、わざとじゃないんだ、オレ、嬉しかった、これもらってすごく、嬉しくて、言えなかったけど、すごく嬉しかった、ケータイも返すから、解約して」

 抑揚の乏しい掠れた小さなハルの声は、精神の均衡を失っていることを知らせる。
「すぐ、帰って、長谷川さんに見つかんないうちに、見つかったら、機嫌悪くなって、柚月さんに何するか、判んない、オレ、柚月さんのこと、大好きだよ、お願い、帰っ……」 
 柚月は目の前のハルを思い切り抱きしめた。

「……ミハル」
「もう、帰れない、から……オレが、柚月さんからもらったもの、大事にしてるって知ったら、柚月さん、何されるか判んないから……全部、返すから、オレのこと、いなかったって、思っていいから……」

「ここにいる」
 俺が抱きしめてる、と柚月はハルに囁く。
「帰ろう。迎えに来たんだ。……二度目だな」

 茶化すような柚月の声を聞いてハルの目に涙が浮かぶ。─── 夢の続きじゃ、ない。
「ゆっ……柚月さ……っ」
 携帯電話とドッグタグを握ったままの手が柚月の背中に回されて、しがみつく。

「今度は簡単に騙されたりしないからな。抱え上げてでもお前を連れて帰る」
 優しく慈しむような柚月の声。その匂いと体温に包まれて、ハルの身体は弛緩していく。
「……柚月さん……、柚月さん、柚月さん、……」
 何度も柚月の名を呼んで、その存在を確かめた。
 
 
「─── 瞠」
 その低い声に ───。
 ハルは身体を強張らせ、柚月から離れた。二人が視線を向けた部屋の入り口には。

 長谷川が立っていた。

 いつもの底知れない穏やかな笑みを消し、無表情で、柚月とハルを見つめている。
「長谷川さん……っ」
 真っすぐ柚月に目を向けて部屋に入ってきた長谷川の前に、ハルは飛び出した。

「これは、違うんです、オレが呼んだんです、柚月さんに会いたいって、無理言って、……柚月さんは来たくなかったけど、オレが無理やり」
「どきなさい」
 ハルは頭を横に強く振った。
 
「今度は大人しくします、抵抗しない、絶対、だから柚月さんに何もしないで、お願い……!」
 さっきまでハルを抱きしめていた柚月の手の指先が、ぴくり、と動く。─── 『柚月さんに何もしないで』
 
(ミハルは、……俺に何かすると脅されて)
(「柚月くんが巻き込まれるのを怖がってるって場合もある」)
 自分に協力し、ハルに会わせてくれた成沢の言葉がちらりと胸をかすめる。

「そういうわけには行かない。不法侵入だ。警察へ連絡を」
「お願い、長谷川さん、オレが呼んだんだ、柚月さんは悪くない」
「………」

 必死に柚月を庇うハルを長谷川は眇めた目で見下ろした。
 すっと柚月へ向けた目を、再びハルへ戻す。

 長谷川はゆっくりと手を上げ、ハルの頬を撫ぜた。びくつき、俯こうとするその顎を捉える。
 反対側の手でハルの腕を取ると引き寄せた。
「や……っ」
 
 もがくハルの悲鳴のような声。柚月はハルの腕を掴み、長谷川から力ずくで引き離した。ハルを背中に庇う。
「……触るな……!」
 
「柚月さ……」
「二度とミハルに触るな!」
「やめて、柚月さん、ダメだよっ……」
「ミハルは連れて帰る、警察呼ぶなら呼べばいい!」
 
 激昂した柚月の声が家の中に反響する。
 長谷川は冷たく柚月を見据えて、言った。
「─── 君のところへ行きたい、と瞠が一言でも言ったのかい」
 
 激しく声を荒げた柚月とは対照的に静かな長谷川の声。それは穏やかにさえ、聞こえた。
「瞠の家はここだ。君のアパートじゃない。瞠が帰ってくる場所は僕の家に決まっている。僕は瞠の父で、瞠は僕の子供だ。君は赤の他人。もし君が瞠を無理に連れ出すのなら警察に通報する」
 
「……無理に、じゃない……!」
 押し殺した柚月の声が殺気を帯びる。
「ミハルに無理を強いたのはあんたの方だ!」

「─── 頭がいいと思っていたのは買い被りだったかな。そのまま何も見なかった振りをして帰れば、警察沙汰にはしない、と言ってるんだ。……チャンスをあげているんだよ」
「何言ってるんだ、あんた、……」

「瞠を置いて帰りなさい」
 長谷川の声に、俯いたハルの肩がびくんと震える。目の前の柚月の背中からほんの僅か、後ずさった。
「自分の将来と瞠とどちらが大切かははっきりしているだろう。瞠のせいで前科が付いて将来をふいにするか、それともここで何も見なかった振りをして帰るか」

「……やめて……」
 小さな ───。
 小さな、ハルの声が長谷川の言葉を遮る。携帯電話とチェーンの切れたドッグタグが華奢な手をすり抜けて足元に落ちた。ふらふらと長谷川に近寄ったハルはその傍らから柚月に視線を向ける。

「オレ、この家にいる……。柚月さんのとこには帰らない」
 言いながら長谷川の腕に自分の腕を絡めた。甘えるようにその肩に額を擦り付ける。
 ─── 柚月が、自分を見捨てるところを見たくなかった。

(……誰だって、自分のほうが大事に決まっている)
 柚月も、それは例外ではない。きっとこのまま、目を逸らして、黙って出て行く。
(……でも、来てくれて嬉しかったな……迎えに来た、って言ってくれて……)
 
(「ミハル」)
 自分の名を呼ぶ愛しい声が耳に残る。
 やっぱり、夢だった。

「ね、長谷川さん、早く可愛がって……?優しくしてくれなきゃ、ヤだよ……」
 長谷川の顔に満足げな笑みが浮かぶ。寄せられたハルの唇に、長谷川の唇が重なろうと ───。

 長谷川の背後から伸びてきた手がハルの頭を軽くはたいた。同時に飛びかかってきた柚月が長谷川の胸倉を掴んでハルから引き離す。
「─── バカかお前。言い慣れねーこと臆面もなく言ってんじゃねえ、じんましんが出る」

「な、……」
「俺にも柚月くんにもいっぺんだって言ったことねえくせに。シュウ並みに甘えられるようになってからにしろ」
 振り返ったハルの前には、いつもの皮肉気な笑みを浮かべる和臣がいた。その目が呆然とするハルの全身を眺め、次いで眉が顰められる。

「もっと上手く立ち回れよ。出来るだろう、……大人しく乱暴されろなんて教えてねえぞ」
「成沢さん、……」
 そんな和臣の冷静で伝法な口調はハルにたまらなく安堵をもたらす。張り詰めていた気が一瞬緩んだハルの背後で、どさり、という音がして振り返った。
 
 揉み合った挙句、柚月は長谷川をベッドに突き倒し、馬乗りになっていた。
 頭を庇う長谷川の腕を柚月は殴りつけた。その鈍い音にハルは身体を竦ませる。
「柚月さんっ……」
 どうしよう、とうろたえながらハルは和臣を見上げる。和臣は止めにも入らず、その様子を見ていた。

「殴らせてやれよ。人生棒に振ってもいい、とまで想った奴が目の前で他の男誘ったんだ。俺なら殺すね」
「柚月さんはアンタとは違うんだよっ……ひと殴ったりしない、優しくて、優秀な研究者になるって、将来をしょく……嘱望、されてて、周りの人に信頼されてて、……」

「そんなもんよりお前を取ったからここにいるんだろ」
「………」
「お前。─── 信じなかったな?」

 眇めた和臣の目が鋭くハルを射抜いた。
「柚月くんを信じなかったろう。自分を見捨てて帰るって?」
「……だって……」
 
 和臣のその視線に耐え切れずにハルは俯く。柚月の為でなく、自分の為にしたことだ、と ─── 自分の弱さを、狡さを言い当てられ、徐々にハルの瞳に涙が浮かぶ。

「……オレ……っ見たく、なかったから、……柚月さんが、悩んだり、……そんで、オレから目ェ逸らして、出てくとこ、見たくなかった、から、……」
「可哀想に、柚月くん。お前に信じてもらえなくて、死ぬほど怒ってる」
 
 長谷川を殴り続けている柚月のその表情は怒り ─── というよりも、悲しそうに歪んでいた。ハルはその表情を見て取り、振り上げられた柚月の右腕にしがみつく。
「やめて柚月さんっ……」
 
「柚月くんの方はお前がこの家に帰ったなんて微塵も思ってなかったぞ。わけがあるんだってずっと信じてた」
 言いながら和臣はベッドヘッドから下がる手錠を携帯電話で何度か撮影する。

「監禁の証拠、と。……柚月くん」
 やっと和臣は柚月の肩を掴んで、長谷川から引き剥がしにかかった。
「いい加減、気が済んだろう。帰るよ」

 はあはあと荒い息を吐いた柚月がようやく立ち上がる。ハルはその胸に抱きついた。
「ミハル、……」
「……っ」

 広い胸にその額を頬を擦り付ける。柚月の体温、柚月の匂いを身体中で感じて、─── ハルは懇願した。
「一緒に行く……!」
「……ミハル……」
「オレも一緒に行く、柚月さんの家に帰る、迷惑でも、帰りたい、なんでもするから、柚月さんと一緒にいたい……っ」

 荒々しかった柚月の雰囲気が静まっていく。泣きそうに顔を歪ませた柚月は強くハルを抱きしめた。 

 

      

     目次第十三話

 

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in heaven on a certain night:最終話

  

R-18BL小説です。18歳未満の方、BLに嫌悪感を持たれる方はご遠慮下さい

 

「……臣に会えて嬉しかった、って言ったらどうする……?」
 途端に ───。
 柚月の肩に担ぎ上げられた。足が浮き、くるりと回ったハルの視界は柚月の背中から踵、さらにフローリングの床を捉える。

「やあッ……柚月さんっ!?」
 ハルの抗議の声とばたつかせる足をものともせず、柚月は廊下を進んで行く。リビングダイニングを突っ切り、自分の部屋のベッドにハルを乱暴に下ろした。

「……許さない」
 圧し掛かった柚月は細いハルの手首をベッドに縫いとめる。酔いがまわり、目縁を赤くした柚月は、焦点の合わないその目でハルの瞳を覗き込んだ。
 
 酔ってなければ、あるいは和臣と会った直後でなければ、燻るだけで消えたはずの暗い炎が胸に拡がる。
 自分よりも前にハルと出会い、共に暮らし、身体を重ねた和臣は今でも、ハルの心の中で特別な存在なのではないか、と疑ってしまう。
 
 それでも、ハルが自分の嫉妬を煽ろうとして「臣」と呼んだのだ、と。
 そう思いたくて、思えず、柚月は理性を手放した。
 
 ほとんど灯りのない中、ハルの服を剥ぎ取っていく。その手付きは乱暴で、いつも優しく「嫌ならしない」とハルにセックスの優位性を与えてくれる柚月とは別人のようだった。
 
「っあ、あっあっあっ……!」
 うつ伏せにされたハルは、受け入れるべくそこを、指で、舌で解される。くちゅくちゅと音が耳に響く。
 唐突に、サイドテーブルに留められたクリップライトが点いた。

 何も言わず、片方の指をハルの中に埋めたまま、柚月が灯りを点けたのだ。柚月の目に晒される恥ずかしさで、熱を帯びていたハルの身体がさらに火照った。
「や、ゆづ……柚月さん、やだ、はずかし……っ消して、灯り、やあ……っ」

「……駄目だ」
 全部、見たい。耳元で囁く柚月に、目を潤ませたハルは真っ赤になった顔をシーツに押し付けて隠した。
「……顔、見せて」

「い、やっ……恥ずかしい、から……っ」
 くぐもるハルの声が拒絶する。シーツを掴んだハルの手の甲にキスを落としながら、柚月はハルの中に埋めた指をゆっくり動かした。

「あッ、やあ……っダメ、柚月さんっ……あ、んっ…あ、あ、あ……っ」
 泣くようなハルの声で、その場所が間違っていないことを柚月は知る。もっと、もっと、と乞う内に本当にハルを泣かせてしまった。  
 
「……っふ、……ひっく……っ」
 シーツに顔を押し付けたままハルは涙をこぼしていた。背中じゅうに柚月の口付けの跡が散り、上げられた下半身には柚月の指が埋まったままだ。またほんの少し指を動かしてハルを泣かせた後、抗えなくなった華奢な身体を仰向けにした。

「………」
「……柚月さ、ん……あっ、あ!」
 決して無理やりでなく、柚月が押し入ってくる。熱い。唇を柚月の唇で塞がれ、ハルは自分でも訳の判らない声を上げなくて済んだ。

「あのひとに、会いたかった、なんて……言うな……聞きたくないんだ。……でなきゃ、二度と、外へ出さない。監禁する、……」
 押し殺した柚月の声音が哀しそうに聞こえた。
 
 いつも優しいばかりの柚月の心の奥に、自分に対する激しい情熱を見て、ハルは驚きに目を見張る。
  
 言葉の乱暴さとは裏腹に、柚月はハルを気遣うように動かずじっとしていて ─── そのおかげで囁く声が聞き取れた。
「……俺は、お前だけだから……」
「え……?」
 
「……お前も俺だけだって言ってくれ……頼むから、今だけ……嘘でもいいから……」
「───……」
 ハルは涙の浮かんだ目で柚月を見つめた。─── 俺だけだと言って欲しい、と柚月が望んでいる。

 それが柚月の本心。
 
 自分が拒めば、柚月は決してそれ以上は無理強いしない。お前がしたくなかったらしなくていい、と鷹揚さを見せる ─── そんな柚月が、ハルは不安でたまらなかった。
  
 求められていないのではないか、と。触れたがっているのは自分だけで、柚月はべつだん、触れたくないのかもしれない、と。
(違ってた)
 柚月が中にいる。自分の心も欲しがってくれている。
 
(ちゃんと判ってた。柚月さんはいつだって優しくて、オレのこと、大事に)
 それでも、全ての不安が消えたわけではないけれど ───。
 
「……柚月さん、だけだよ……」
「ミハル、……」
「……ウソじゃない……ほんと……柚月さんだけ……だいすき……」

 柚月を挑発したことを、ハルは後悔する。

 ─── 嫉妬して欲しくて、柚月の気持ちが欲しくて、柚月を怒らせ、傷つけた。
 
「も……言わない……成沢さんのこと、言わない……柚月さんだけ、好き……」
 うわ言のように「柚月さんだけ」と言い続けるハル。その上気した頬に、額に、柚月は唇で触れた。 手を重ね合わせて指を絡める。
 
「……ごめん……無理やり、こんな……ごめんな……?」
「んっ……あ……っ」
 ハルの言葉に柚月は身体が抑えられなくなる。せめて少しでもハルの負担にならないように、とゆっくり動かす。

 返ってそれはハルを追い上げる熱になった。
「……っあ、ん……っん……あ、あ、やだ、あっ……」
「ごめん……辛いか……?」
 目をぎゅっとつぶったハルは頭を横に振った。

「……柚月さんのバカっ……」
 気持ちよくて、イっちゃう、と小さく言いながら柚月の首にしがみつく。そのハルの顔は真っ赤になっていた。

「……ヤラしいこと、言わせられた、……もうやだ、柚月さんなんか……キライだ、バカ……」
 言葉とは裏腹に、心も身体も、柚月に引き寄せられていく。

 長い指が自分の髪の毛を弄り、その声が、ミハル、と囁いたのを聞いて、ハルは全てを柚月に委ねた。
 
 
 

                         end.

 

     

     目次
  

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in heaven on a certain night:第四話

 

 レイに対する信頼を和臣に話しても平行線のままだ、と気付いたナオは話を変えることにした。
「ねー、ハルってミハルっていうんだね、本名」
「ああ。そんな名前だったな」
 
 ベッドの上、腹這いの姿勢で頬杖をついたナオは和臣を窺うように見上げる。
「カレシ、……柚月さんが呼んでたよ、見せびらかすみたいに。……妬ける?」
「なんでだ。妬くか」
 
 あの二人がどんなに甘ったるく恥ずかしい呼称で呼び合おうとも呆れるばかりだ、と考えながら和臣は自分に上目遣いを向ける小さな顔を見つめた。
 潤んだ瞳を瞬かせて、そばかすの散る頬に子供っぽい無邪気な笑みを浮かべている。ついさっきまで自分に組み敷かれて喘がされていたせいか、その白い頬は微かに上気していた。

「いいよねえ、二人っきりの呼び方って。恋人同志ってカンジ。なんか新鮮」
「脳ミソの蕩けたバカップルの証拠だ。くだらねえ」
「あ、もー、そういうこと言う?」
 
 臣さんてそういうとこ冷めてるよねー、とナオはつまらなそうな口調で言いながら、ベッドの下の衣類に手を伸ばす。羽毛布団に包まれた背中が上半分だけ露わになり、シェードランプの灯りに口付けの痕がいくつか晒され、─── 和臣はその華奢な身体を引き戻した。
 
「臣さんっ?」
「─── なんて呼んで欲しいんだ。言えよ」
 仰向けにして、のしかかる。和臣は唇の触れそうな距離でナオの目を射竦めながら、赤く擦れた痕のある細い手首をベッドに押さえつけて身動きを取れなくさせた。
 
「こういう時、なんて呼んで欲しいんだ。なっちゃんか? ナオりんか?」
 耳元で低く囁かれて、ナオは頬を火照らせる。
「なっ、なに言ってんだよー、くだらないってバカにして」
「お前が望むならバカップルも悪くない」
 
 何度も軽いキスを交わす。それだけで力の抜けてしまったナオは切なくため息を吐いた。
「……ナオ、でいいよ……臣さんにそう呼ばれるの好きだし……ハルとカレシが仲良しだったから、羨ましかっただけ……」
 
「そうか。それじゃ俺のことは和臣と呼び捨てろ」
「うん、……ええー!」
 
 甘い雰囲気に流されて頷いてしまったナオは、思わず大声を出していた。ぶんぶんと頭を横に振る。
「出来ないよっ! ムリムリ!」
「お前が言ったんだろうが。二人だけの呼び方がしたいって」
 
「そ、それは、だから、恋人っぽくてちょっとイイなあと思っただけで、……臣さんを呼び捨てなんて出来るわけないよっ」
「出来る」
 断言した和臣はナオの唇を自分の唇に触れさせた。
 
「か」
 唇の動きでナオに発音を促す。伏せた目に見下ろされて、ナオは仕方なくか細い声で応えた。

「……か」
「ず」
「…………ず」
「お」
「……ぉ」
「み」
「……み……」
「続けろ」
「ヤダー!」
 
 拒む言葉と共に、ナオは真っ赤になった顔を背けた。逃れようとじたばたともがく。
 それをものともせず、和臣はナオに体重をかけて抵抗を封じた。
「お願い、臣さん、呼び捨てなんか出来ないよう」
 
「和臣、だ」
 なんとしても呼ばせたいのか、和臣はナオを解放する気配を見せない。しばらくナオは懇願するように和臣を見上げていたが、根負けして口を開いた。
「……か……」

 やっとの思いで言葉にする。
「……か…ず……お……み……」
 首筋から耳たぶまで赤く染めて、小さく発したナオの声は和臣の嗜虐心を刺激するには充分だった。
 
「─── 練習が必要だな」
「な、な、なに、練習って、僕、ちゃんと」
「一音ずつじゃ雰囲気でないだろうが。呼べるようになるまで反復練習な」
 
 大きな和臣の手がナオの身体を無遠慮になぞっていく。口付けの痕のついた胸を撫でられ、立ち上がった赤い突起を指で摘まれるとナオの身体は無意識にびくんと反応してしまう。重さの圧迫はなくなったものの、すぐに自分をそんな風にしてしまう和臣が恨めしくてナオは抗議の声を上げた。
「……やっ……あ、ん……っん……臣さんっ……やだ……っ」
 
 和臣にとっては誘惑しているようにしか聞こえず、当然やめるわけもない。あらぬところに唇を這わせながら、呼び捨てにしろ、と甘い声で命令する。
 身体中の感覚に正気を失くしたナオが、上手に「和臣」と呼べるようになるまで、それは続いた。
 
 
 
 
 
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 side:きみの手を引いて

 
 
 
 柚月と二人、ヘヴンズブルーを出てアパートに帰りついたハルは目隠しにしているパーテーションを回りこむ間もなくキスされ、驚いた。
 アルコールが香る。背中にまわされた柚月の腕に力がこもり、唇の接触が深くなっていく。

「ど、……したの……?」
 目を伏せて、息を吐きながら柚月に寄りかかる。身体から力が抜けて、そうでもしないと立っていられない。
 
 柚月さんのキスって反則だなあ、とハルは思いながら、その反則技がなぜ、今、繰り出されたのか訊ねる。
「なんで、……帰ってきたばっかなのに。こんなとこで」

 靴を脱いだだけの、まだ玄関の内だ。性急な仕草は柚月らしくない。
 上目遣いで覗き込んでくるハルを、柚月はきつく抱きしめた。
「……お前が、成沢さんと、話してた……」

「そ……そりゃ話すよ……会えば、話すだろ……?」
「……嫌なんだ」
 成沢に対して全く臆せず、むしろ威張ったような口調で話すハルが柚月の頭の中から消えない。まるでそれは庇護者に甘えているようにさえ、思えた。

 その嫉妬を紛らわせようと必要以上に口に運んだアルコールは、返って柚月の心を抑えられなくする。
「……嫌だ。お前が成沢さんと話してるの見るの、……見たくない」
  
「もしかして、……妬いてる……?」
 訊ねるハルの声の底に、驚きと嬉しそうな響きがある。
 それに気付かず、柚月はハルの肩に乗せた顎を僅かに頷かせた。

「─── ごめん。酔っぱらってなけりゃ、このくらい、なんでもないのに」
 こんな風に焦って、嫉妬して、お前を困らせたりしたくないのに。辛そうに囁く柚月の顔を、両手で包み込んで、ハルは口付けた。

「は、……」
 ハルの名を呼ぼうとして後が口の中に消える。入り込んできた小さな舌先を捉えて、柚月は自分の舌に絡ませた。そのままハルの口腔内に侵入する。

 ハルの息が上がり、目を潤ませるほどしつこく堪能して、そっと解放した。
「……嫉妬なんか、今さらあのひとに、と思っても……止められない……あのひとに……成沢さんに会えて嬉しかったか……?」
 自分の醜い言葉を聞きたくなくて、小声になる。

 そんな柚月の、自分に執着してくれる気持ちと言葉がハルは嬉しくてたまらない。もっと欲しくて、つい挑発してしまった。
「……嬉しかった、って言ったら……?」

 ハルはいつも不安だった。柚月は大人で色々なひととの付き合いがあり、そこには自分の知らない世界がある。自分のような子供より、同年代の、大人のひととの付き合いの方が楽しいのではないか、と ─── 柚月を、こんなにまで想っているのは自分だけで、柚月はとうの昔に気持ちが離れているのではないかという不安が心に住みついて離れない。

 柚月と同年代の大人になりたくて、今日も、柚月が誰かと飲みに行っても全然平気だ、という大人の寛容さを見せたくて、─── そうすれば、少しでも長く柚月の気持ちを繋ぎとめて置けるのではないか、と思い、そう言った。

 けれど柚月は自分の頭にぽんぽんと手を乗せて、「ハタチになったら一緒に飲みに行こうな」とまるで子供扱いだ。このままでは飽きられ、自分ばかりが柚月を好きで、柚月にとって重たい存在になってしまう。焦燥に駆られたハルは無理に柚月を飲みに連れ出した。
 
 ヘヴンズブルーで和臣に会ったところで嬉しいはずもない。
 ハルが欲しいのは柚月の気持ちだけだった。 

「……臣に会えて嬉しかった、って言ったらどうする……?」
 心とは裏腹に挑発するハルの瞳が、柚月を見つめていた。
 
 
 

      

       目次最終話

 

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in heaven on a certain night:第三話

 

R-18BL小説です。18歳未満の方、BLに嫌悪感を持たれる方はご遠慮下さい

  

 脱ぎ捨てられた二人分の服が、ベッドの下でシェードランプの灯りに晒されている。質のいい、広いベッドが軋むことはほとんどないが、その分、シーツの擦れる音や止める術もなく漏れる自分のあえかな声は室内に響き、ナオの羞恥を煽った。
 
「……あ……ッあ…んっ、や……あ、」
 手の自由は利かず、開かれた膝は押さえつけられている。身動きの取れないナオのその細い身体に散る所有のあかしは和臣の独占欲を満たしたが、まだ足らず、ナオを追い詰め、泣かせていた。
 
「……っどう、して……こんなこと、するの……?」
 瞑ったナオの目から涙がこぼれる。和臣はナオの問いに答えず、目尻に舌を這わせ、それを吸い取った。
 
 欲情を示しているナオのものを弄っていた和臣の手が、すっと下げられ、奥のすぼみにその指先を埋める。
「やあ……っん……っ」
 そうされるのは何度目かで、和臣はナオの熱を煽るだけ煽って指と舌を引っ込めるということを繰り返していた。
 
 すでにもう解されたそこはやすやすと和臣の指を飲み込む。わざと指を動かさずにいると、ナオは腰をもぞもぞとさせて和臣に頬をすり寄せた。和臣は応えるような素振りでナオの小さな唇に舌を這わせる。
 
 はっ、はっと浅い呼吸を繰り返しながら、ナオは自分の唇を舐める和臣の舌先を口に含んだ。厚みのある和臣の舌に自分の舌を絡ませ、一生懸命、愛撫する。奉仕を思わせるキスが愛しく、突き上げられる情欲に任せて和臣はナオの口腔内を舌で犯し、体内に納めたままだった指を動かした。
 
 おねがい、イかせて、とほんの少し唇が離れた隙にナオの涙声が訴える。和臣は無言でナオの脚を抱え上げ、開かせたそこに張り詰めた自分のものを押し当てた。

 貫かれる衝撃を予想してナオは身体の力を抜く。本当は異物を受け入れる恐怖で ─── ただでさえ、両手を頭上で繋がれ、抗うことは許されていないという怯えで竦みそうな身体を、相手が和臣だから、と言い聞かせ、目を閉じてその瞬間を待った。

 ─── 案に相違して、和臣はその姿勢のまま留まっている。
「……ナオ」
 静かに降ってきた和臣の声にナオはゆっくりと目を開けた。目の前の至近距離に浅黒い、野性味のある端正な愛しいひとの顔。いつもは上げている前髪が額に降りかかってひどく色気がある。
 
 欲情に霞んだ和臣の目は中に挿れたくてたまらない、と訴えていたが、それをなぜ我慢しているのか判らず、ナオは黙ってため息にも似た息を漏らした。自分は抵抗したくても出来ないように両手を括られているし、元々、抗うつもりなどこれっぽっちもないのに……。

「……あいつと何話してた。正直に言え。……言えないようなことなら、このまま無理やり犯して俺ものだと思い知らせる」
 決定事項を告げるように淡々と低い声が言う。ナオは潤んだ目をゆっくりと瞬かせた。─── あいつってレイ? まさかそんなこと気にして?
 
 今にもこじ開けられそうにぐいと押し付けられる。その感覚にナオは身体をずり上がらせた。
「……あッ、あ、やあ、……」
「言うか?」
 こくこくと何度もナオは頷いて、顔を真っ赤にした。
 
「……が、臣さんのことしか見てないって」
「あ?」
「僕が臣さんのことしか、見てないってっ……それなのに臣さんが、嫉妬してるって」
 
『すごいヤキモチ焼きですね、オーナー。ナオさん、オーナーのことしか見てないのに』
 
「……冷やかされて、は、恥ずかしかった、から、黙ってた、だけっ……僕が、臣さんのこと、すごく、……好き、って、バレて、レイには、バレてるから、……でも、僕がすごく、すごく、臣さんのこと好きだって、臣さんしか見えないくらい好きだって、臣さんに知られたら、恥ずかしいから、だから」
 
 ……俺はそんな他愛のないことに振り回されて、ナオを泣かせたのか ───?
 脱力した和臣はレイの美しい笑顔を恨みがましく思い出す。─── やられた。嫉妬に駆られた自分が、ナオをひどい目に合わせることを計算しての「秘密」か。
 
 耳まで赤くしたナオは、隠していた気持ちを吐き出して抑えが効かなくなったのか、ぽろぽろと涙をこぼして泣きじゃくる。酔いも手伝い、ますます感情を吐露した。
「……臣さんに、こんな風に、されても、好き、……だいすき……」
 
 ─── さすがにこれは計算外だったろう。滅多に「好き」と口に出さないナオのその言葉に、一瞬虚を突かれた和臣は脳裏に浮かんでいたレイをフンと鼻で笑い飛ばし、消した。
(ナオは、俺にこんなことされても、大好き、だとさ。ザマーミロ)
 
 唇の片端を上げ、余裕のある笑みを浮かべた和臣は、手際よくナオの手首を戒めていたネクタイを解く。そこにわだかまっていたTシャツを抜きながら、キスをした。
 ナオが和臣の首にしがみついてくる。抱き合って何度もキスを繰り返すとナオは息を上げ、その緩んだ手が乱れたシーツの上に落ちた。

 赤く擦れた手首の無残な痕に、和臣は唇で触れる。
「……痛かったか」
「う……ん、……腕も、肩も……しびれて、痛……あ……っ、ダメ……」
 手首を持ち上げ、傷痕を癒すように和臣の舌が一周する。もう片手の傷も丹念に舐められ、ナオは這い上がってくる官能に背筋をぞくりとさせた。
 
 気付いた和臣は痕に唇をつけながらナオの上気した顔を横目で見て、囁く。
「……エロ顔。何考えてる?」
 
 明らかに自分より何もかも勝っている ─── 権力でも物理的な力でも上位の男が、自分に許しを乞うように傷痕に優しく舌で触れてくる。
 そのことは信じられないほどナオに力の意識を覚えさせ、官能を増幅させた。
 
「……き、ず、触らないで……っそんなこと、しなくていいっ……」
「縛られるのがイイならまたしてやる。……今度は後ろ手で」
「やだ……っ」
 にやりと笑った和臣は悲鳴じみた拒む言葉を聞き流し、ますますナオを泣かせるべく自分自身を行使した。
 
 
 
 
 
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「……うそつき……」
「ん? なにが」
「言えないようなことなら思い知らせる、って、……言っても、思い知らせた」
 
 ベッドの上で夏掛けの薄い羽毛布団に身体をくるんだナオは、隣で半身を起こしている和臣を泣きそうに潤んだ目で見上げた。
「ウソツキ、こんな、何回も、……無理やり」
  
「無理やりじゃない」
 心外だ、と言わんばかりの声音で言って和臣はナイトテーブルの上の煙草の箱に手を伸ばし、一本抜き取る。口に咥えて凝った意匠のライターで火を点けた。
 
「シテ、挿れて、ってねだったのお前だろう」
「だッ、だって、……臣さんが、あんな」
 とても口に出来ず、ナオは恥ずかしさと悔しさが入り混じって頬に血を昇らせる。

 ナオのそんな表情を目にすることが出来るのは自分だけだ、と和臣は煙草を咥えたまま、優越感から笑みを浮かべた。─── 明るく朗らかで無邪気なナオの、ねだるエロ声もそれが悔しくて詰る表情も、もっと言えばしどけなく開いた身体も心も、全て自分のものだ。
 
(誰にもやらない。許さん)
 和臣がにやにやと笑いながら見下ろすと、ナオは夏掛けの中に赤くなった顔を隠してしまった。拗ねたようなナオの仕草にさすがに気が差して、和臣は中を覗き込む。
「おい、……元はと言えばお前があいつと楽しそうにイチャついてるからだろうが」
 
「……イチャついてないもん。ハルとカレシが仲良しで、僕はあぶれちゃったからレイと遊んでただけだもん」
「カウンターで牧田と遊んでろ。……あいつは遊び相手にはならねえ」
 この俺を挑発しやがった、と和臣は胸の内でごちる。─── ナオを手放し、泣かせたら、速攻で頂くとレイは綺麗な笑顔で釘を刺してくれた。
 
 ナオよりも年下の、しかし一筋縄ではいかず扱い辛いあの美形は、片手で追い払えない相手だ。理由もなく ─── いや、ナオに色目を使うという立派な理由があるが ─── さすがにそんな理由で出入り禁止にするわけにもいかない。なにより、ナオが気に入っている。
 
「あいつってレイ? どうしてそんな言い方するかなー。レイは礼儀正しい弟みたいなもんだよ。それに美人だし」
 和臣は、ちッと舌打ちをした。─── ほらみろ。俺が悪く言えば言うほど、ナオはあのガキを庇う。
 
 全くもって面白くない、と和臣は苛立ちを込めて、煙草を灰皿に押し付けた。
「……その、お行儀が良くて可愛い弟にいきなり押し倒されたりしたら、どうするんだ? もちろん、指一本触らせない自信があるんだろうな」
 
「レイはそんなことしないようー」
 徐々に機嫌が直ってきたのか、夏掛けからひょこっと頭を出したナオは腹這いになり、和臣を見上げた。
「何度も言ってるでしょ。レイとはチュウもしたことないんだよ。そんな雰囲気になったこともないし」
 
 それに臣さんは知らないけど、とナオは心の中で思い出す。
(……臣さんとダメかも、ってなった時、相談に乗ってくれたんだから)
 和臣に嫌われてしまった、と思ったあの時、レイは「欲しいものは欲しいと言っていい」と背中を押してくれた。自分と和臣のことを応援してくれたのだ。
 
(レイが僕のこと、ほんの少しでもそういう目で見てたら応援してくれるはずないもんね)
 レイのように恋愛慣れしていそうな美形にしてみれば、自分はどうにもやり方が拙い、何かと手伝わずにはいられない存在なのだろう。
 
 どうしたらいいか判らなくなって二つも年下の彼に弱音を吐いたにも拘らず、そんな自分にレイは今でも相変わらず礼儀正しく、気を遣わせないように接してくれる。
(レイは、大人だな。レイに好きなひと出来たら今度は僕が応援してあげようっと)
 ナオは、「自分の恋愛に尽力してくれたレイ」に全幅の信頼を置くようになっていた……。
 

 

     

     目次第四話

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拍手お礼小説「in heaven…」再掲載中

 バレンタインデーでしたね!毎年、子供たちにチョコあげるのですが、まだ喜んでくれる年齢なので嬉しいです。( ̄ー ̄)ニヤリ そしてお母さんにもお裾分けをくれる。(≧∇≦)

 しかし、いつやめるものなのかなあ( ´・ω・`)

 たまたま男ばっかりだからあげてるけど、いつまでもお母さんからチョコってのもな。┐(´д`)┌

 もうすぐ反抗期だし、またその頃考えよう…。

 

 拍手お礼小説だった「in heaven…」をトップページから普通に読めるように再掲載中です。

 細かい改稿を少しして、一日一話ずつUPしていく予定です。

 全て掲載し終わったら、拍手お礼の方は下げるつもりなのでよろしくお願いします o(_ _)oペコッ

 

 拍手コメントありがとうございます♪コメレスです↓

続きを読む "拍手お礼小説「in heaven…」再掲載中" »

in heaven on a certain night:第二話

 

R-18BL小説です。18歳未満の方、BLに嫌悪感を持たれる方はご遠慮下さい

 

 シックなダークグレイのスーツの胸に自分の恋人を抱きとめたヘヴンズブルーのオーナーは、険しく寄せられた眉根を緩めて穏やかな表情を浮かべた。
「ただいま。……カウンターで待ってるはずだろう?」
 
 幾分低められた声の裏にはイライラとした紛れもない嫉妬の感情が滲んでいたが、当の恋人は気付かず、首を傾げるようにして和臣を見上げる。
「うん。でもねー、ハルがカレシ連れてきたからちょっと話したくて」
「ハル? 彼氏?……ああ」
 
「……お久しぶりです」
「なんだよ、オレらのことは眼中なし?」
 含みがあるような小声で挨拶しながら軽く頭を下げる柚月の隣で、相も変わらずずけずけとした物言いのハルが呆れていた。

「ナオが、レイとイチャついてたから他のこと目に入んなかったんだろ」
「うるさい。とっとと帰って愛でも深めてろ」
「なんっだよそれ、客に対して言うセリフー!? オレに八つ当たりすんのやめろよなっ、束縛オヤジ!」
 頬を火照らせたハルの抗議などものともせず、和臣は涼しい顔をしているレイを睨めつけた。
 
「─── ナオの退屈しのぎに付き合わせて悪かったな」
「いいえ、とんでもない。それに退屈じゃなかったみたいですよ、ナオさん。楽しそうでしたから」
「いやいや。ただの暇潰しだ。俺が待たせるようなことをしたばっかりに」
「へー。ナオさん、オーナーのこと待ってたんですか? 楽しそうだったからすっかり忘れてるんだと思いました」
 
 二人の背後に竜虎が控え、その視線の間には火花が散っている。そんな幻が視えるのは自分だけだろうか、とハルは思う。会話を翻訳すれば「テメーなにヒトのもんに手ェ出してんだコラ」「ああん? テメーがほったらかしたんだろうが。さっさと別れろ」……ああ、殺伐としていて聞くに堪えない。
 
 目を覆い、耳を塞ぎたくなっているハルの横ではナオがほのぼのと笑っていた。 
「オーナーとレイって結構仲良しだよねえ」
 どこが? ねえ一体どこが? と詰め寄りたいハルだったが、あまりにも邪気の無いナオの笑顔に腰砕けになる。そう、ナオは何ひとつ悪くないのだ……。
 
「なあ、……成沢さんの機嫌がものすごく悪いような気がするのは俺の気のせいか……?」
 どうやら柚月も会話の和やかさとは裏腹の険悪な雰囲気に気付いたらしい。良かった、竜虎と火花を幻視してるのはオレだけじゃない、とハルは頭を横に振る。
「気のせいじゃないよ、柚月さん……」
 
 レイ、ナオに気があるんだよ、と柚月に小さく耳打ちする。
「年下の友達の立場キープしてナオに言い寄ろうとしてるんだ。本気で落とそうとしてるわけじゃないかも知んないけどさ、成沢さん、ちょっかい出されて面白くないんだよ。……ナオが気が付いてないのがまた始末悪くてさあ」
「あッ、まーたナイショ話ー。ほんとに仲良しだねー」
 
 暢気に冷やかすナオにレイが近づき、堂々と口説く。
「ナオさん、ドリンク何がいいですか? 俺、取ってきます」
「いいよー、悪いから、……そうだ、この前オゴってもらったよね? 今度は僕がオゴるね、何がいい?」
 
「じゃあ、ヘヴンじゃなくて外でオゴって欲しいんですけど、……ダメですか?」
「え、あんま高いのはムリだよ? フレンチのフルコースとか言われてもー」
「缶コーヒー。俺の家のそばにある自販機の」
 
「あはははっ、面白いねー、それ。いいよ」
「いいわけあるかっ!」
 あっさりレイの家に連れ込まれそうになっているナオに慌てて、和臣が割り込む。
 
「ヘヴンの外で俺以外の奴と会うのは禁止する!」
「……うわー、聞いた? 超ソクバッキーのオレ様発言、怖えー」
「……気持ちは判らなくもないけど、いくらなんでも禁止はちょっとないな」
 
「やかましい、外野は黙ってろ!」
 こそこそと話すハルと柚月を睨みつけた和臣は、その目をナオに向けて手招きした。頬を引きつらせて無理やり笑みを浮かべる。

「……間違ってもレイにオゴらせたりするなって、約束したろう?」
「うん。今日はオゴってもらったりしてないよ。僕がオゴるんだもん」
 ねー、とナオはレイを振り返る。はにかんだような笑みを見せながら、レイは頷いた。
 
「ドリンク一杯でナオさんがうちに来てくれるんなら安いもんです」
「……ほらみろあんなこと言ってる! 缶コーヒーより家に連れ込むことがメインになってる、おかしいだろうっ!?」
 
 ドリンク代身体で払えって押し倒されてからじゃ遅いんだぞ、と和臣は小さく口走る。ナオは、はあ、とため息を吐いた。
「まーたそんなこと言って、……レイみたいにキレイな顔したコが僕みたいの、相手にするわけないでしょ。僕よりずーっとキレイなんだから、……どうして僕のことも、レイのことも、信用してくれないの?」
 口を尖らせて、不満そうな視線を向ける。
 
 ひとのいない間にひとのものに触りまくるような奴を、そしてそいつにほいほい付いて行こうとしてるお前を、どうして信用出来るんだっ、と言いかけた和臣をいつの間にか近づいてきたレイが遮った。
「まあまあ。……オーナーはナオさんのこと心配してるんですよ。俺にぺろっと食べられちゃうんじゃないかって」
 
「あははっ、そんなことあるわけないのにねー」
「ねー」
 和やかなムードが醸し出される。……自分で食うとか本音を暴露しといて人畜無害を装う厚顔さ、さすがにオーナー相手に一歩も引かないだけはあるよなー、とハルは畏怖を込めてナオに微笑みかけるレイを見つめた。
 
 ちょっとした軽い冗談、という扱いになりつつあるレイの下心を追求するわけにもいかず、和臣は押し黙った。
 そんなヘヴンのオーナーを横目に見て、レイは何事かをナオに囁く。頬を染めてレイを見上げるナオに和臣は渋面を作った。
 
 ─── 嫉妬や独占欲をこれ以上剥き出しにしては、ナオに逃げられてしまうかもしれない。ここはひとつ、大人の対応で寛容なところを見せなければ。
 そう思い、「何話したんだ」と詰め寄りたいのを堪えていた和臣に、レイはすっと近づいて来て言った。
 
「……今夜みたいにひとりにしとくんなら、次は缶コーヒーと一緒にありがたくナオさん自身をゴチになりますから」
「なっ……」
 不穏な言葉を耳にして、和臣はまじまじとレイを見る。
 
「オゴってって言ったら、簡単に俺んちまで来てくれそーだし。……ナオさん手放したらいつでも俺が食っちゃいますよ?」
 くす、と綺麗な顔で笑うレイに和臣は絶句した。─── こんな。こんな、美形ってだけのケダモノのよーな奴になんでナオはなついてるんだ!?
 
「絶対、泣かさないで下さいね」
「……ナオと何話した。─── こっそり呼び出そうなんて考えてんじゃ」
「秘密です」
 思わず詰め寄った和臣にきっぱりと告げたレイは、蕩けるような笑みをナオに向けた。
 
「……それじゃ、ナオさん、また今度」
「うん。じゃーねー」
 にこにこと笑って手を振るナオにレイは軽く頭を下げる。如才なくハルと柚月にも会釈をしてカウンターに向かっていった。
 
「……何話したんだ」
 レイに煽られ、我慢できなくなって低く問う和臣をナオは少し赤らんだ顔で見上げた。
「内緒」
 
 そんなナオの様子に、みるみるうちに眉間に皺を寄せたヘヴンのオーナーを目の当たりにして、顔を見合わせたハルと柚月は「もう関わるのはやめよう」と互いの意思を確認しあった……。
 
 
                           
            
            
       .。.:**:.。..。.:**:.。..。.:**:.。..。.:**:.。..。.:**:.。..。.:**:.。..。.:**:.。..。.:**:.。. 
                              
                                           
 
 
 
 ナオの両手首にくるくるとネクタイを巻きつける。首を傾げたナオはぼんやりと酔った眼差しをそれへ向けた。
「……なにしてるの? 臣さん」
 あどけない声。自分の置かれている状況が今ひとつ判っていないようだった。
 
 和臣の部屋、キングサイズのベッドの上。もう寝るばかりにTシャツとパジャマでそこに座り込んでいたナオは、やはり同じように寝巻き代わりのスウェットでベッドに上がりこんできた和臣が無言で、胸の前で合わせた自分の両手首を儀式のようにネクタイで縛るのをじっと見つめた。
 
 一回巻いて結わえ、もう一巻きして二度結ぶ。合わせた手首の間に通して、きっちりと結んだ。
「……ねえ、アルマーニ、しわくちゃになって使えなくなっちゃうよ?……」
 悠長にネクタイの心配をしている。ナオは手首を捻って、全然解けないんだね、コレ、と朗らかに言った。
 
 ネクタイの端を掴んで引っ張る。自分の胸に転がり込んできたナオを和臣は抱きとめ、キスをした。
 たやすく舌を侵入させて歯列を割り、強引に中を掻き混ぜて甘い舌を追い回す。息苦しさで顔を背けたナオをころりとベッドに押し倒した。

 Tシャツの裾から手を侵入させて、滑らかな肌を味わう。ナオは戒められた両手を頭の上に上げた無防備な姿勢でされるがままだ。Tシャツを捲り上げて胸の突起を唇と舌で弄りながら、下着ごとパジャマのズボンを脱がせた。
 
「……あ……っ」
 性急な和臣の仕草にナオは身を捩る。膝を折ろうとしたナオの足首を掴んで開かせ、その間に身体を進めた和臣は、胸からなめらかな腹部、腰骨まで撫で回し、唇を這わせた。
「あっ……ん、や、……あ……っ」
 
 一方的な愛撫。自由の利かない両手や一言も口を利かない和臣の貪るような手付きと唇に、ナオは乱暴されているような錯誤を覚える。それでも、自分の身体を知り尽くしている和臣の手管の前に為す術もなく、あえかな声が洩れてしまう。
 
 冷静にことを進めているといった和臣の態度に、自分だけが追い詰められているような気がして、ナオは縛られた両手で自分の口を塞いだ。
 気付いた和臣は、ナオの唇から両手を引き剥がした。
「……やだっ、臣さん、イヤ、……これ解いて……」
 
 懇願するナオに和臣は目を眇める。─── ネクタイの端の長い方をベッドヘッドのパイプに結んだ。
「……臣さん……っ」
 すぐに、ナオの唇は和臣の唇に塞がれた。乱暴に入り込んでくる和臣の舌に掻き混ぜられ、混ざった唾液を無理やり飲まされる。
 
 むしり取るように脱がされたTシャツが頭上に括りつけられた両手にわだかまる。抗うことも出来ず、膝を立てるように押し開かれたナオの両足の内側を、その中心を、和臣の舌が這い、吸い上げた。
「……んん……っあ……っん、……ひ、ぅ……や…あ……っ」
 
 たっぷりと濡らした指をナオの中に埋めて、蠢かす。泣くようなナオの甘い声を、和臣は愛しく聞いた。
 

 

     

      目次第三話
  

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In heaven on a certain night:目次

 

 和臣の留守中、ひとりでヘヴンズブルーを訪れたナオは、柚月と共にやってきたハルと再会する。仲の良い柚月とハルを冷やかすナオの前に、レイが現れて……。

 

 ヘヴンズブルー、きみの手を引いての共通続編です。「きみの2」の一話単発お礼小説だったのですが、評判が良かったので続きを書いちゃいました

 時系列は、「きみの番外編」→「きみの」「ヘヴン」→「ありふれた…」→「それさえも…」→「In heaven…」→「息も…」「きみの2」となります。

 こんなややこしいことになってしまってすいません……(´Д⊂グスン

 この不手際は別として、甘々ラブラブ18禁(…)なので苦手な方はご遠慮くださいm(_ _)m

 「きみの2」を読む分には支障はないと思います。

  

  第一話

  第二話

  第三話

  第四話

  最終話

 

    

 

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in heaven on a certain night:第一話

 

「─── え? ハル、来てるの?」
 驚いて、カウンター越しにナオは牧田を見上げた。牧田は目線でハルのいる場所を示す。
 ナオは振り返り、ハルと、ハルの恋人が共に壁際にいることを確認した。

 夜八時過ぎ、ヘヴンズブルーの店内。元々は、この店のオーナーの占有だった一番右端のカウンターチェアに腰掛けたナオは、牧田と雑談を交わしていた。その最中、ハルが現れたことに気付いた牧田はナオにそれを告げる。

 混み合う店内に紛れる壁際の二人の様子に、目を凝らすナオ。牧田は穏やかに呟いた。
「……仲、良さそうだね」
「ほんと。ちょっと、話してこようかな。……あのさ、オーナー来たら」
「うん。ハルくんと話してるって言っとく。……もう「臣さん」て呼んでもいいんじゃない?」

「……なんか、ヘヴンじゃ呼びづらいよ……」
 ま、そうかもね、と牧田は軽く笑ってフレームレスの眼鏡を指で押し上げた。

 ヘヴンズブルーのオーナーで、ナオの恋人でもある和臣は朝早くから実家に帰省している。今日中に、いや午後の九時までには戻る、と言うので、ナオは久しぶりに一人でヘヴンに足を向け、牧田特製のリゾットに舌鼓を打っていた。

 ヘヴンで待ち合わせようと電話したナオに、和臣はひどく慌てていた。
『え? ヘヴンに? 一人で? 待ってる? 一人でか?……駄目だ、一人でなんか絶対駄目だ家にいろ、……どうしても行くって、じゃあ、じゃあ牧田か河合と一緒にいるんだぞいいか間違ってもレイに奢らせるなよ!?』

 なんでレイが出て来るんだかさっぱり判らない、とナオは携帯電話の送話口にため息を吐いた。ひとりがダメって、心配性過ぎる。
『……判りました、臣さん。カウンターで牧さんといるから。それならいいでしょ?』
 渋々承知した和臣が名残惜しげにしているのを知っていて通話を終えた。

 ……まあ、でも、臣さんが心配するのも無理ないか、とナオはちらりと思う。
 以前、ナオは、ヘヴンで声をかけられればよほど悪い相手ではない限り付いていき、……色々なことをさせて収入を得ていた。それが元で、幼馴染みの男に付き纏われたことさえあったのだ。

 今は和臣以外の男とそんな行為に及ぼうとは夢にも思わないが、和臣にしてみれば、自分が一人でヘヴンズブルーに行くというのは不安なものなのだろう。
(……ダレに声かけられたって、ついてかないのに)

 信用、してくれないんだから、とナオは少し不満に思う。─── 今回、一人でヘヴンに行き、和臣と待ち合わせが出来れば少しは信用してくれるんじゃないだろうか。
 ナオが一人でヘヴンズブルーにいたのはそういう訳だった。

「ハルー」
「ナオ!……」
 近づき、声をかけたナオにハルは笑みを向けて、その背後を窺うような上目遣いを見せた。
 
「アレ? ここのオーナーは一緒じゃないの」
「今日は私用でいないんだー」
 苦笑いしながら言うナオに、ハルは目を瞠る。
 
「え、じゃあナオひとり? よく許したねー、独占欲のカタマリみてーなオーナーが」
「そ、そんなんじゃないけどさ、……」
 薄らと頬を染めたナオは、ハルの隣にナイトよろしく付き従っている柚月に会釈した。なんとなく、柚月も微笑んで会釈を返す。
 
 ハルは少し背伸びして柚月の耳に何事か囁いた。頷いた柚月は、カウンターの牧田の元へ向かう。
「……ふーん」
 ふたりの一連の仕草を目の当たりにしたナオは、腕を組んでしげしげとハルを見つめた。

「なに、今日は見せつけに来たの? カレシと仲良しだって」
 さっきのお返しとばかりそばかすのある顔に、いたずらっぽい表情を浮かべるナオ。ハルはうッと言葉に詰まった。
「そんなんじゃねーけど、……」

 恥ずかしそうに目を逸らすハルにナオは追い討ちをかける。
「けど? つい、いちゃいちゃしちゃう?」
「ちがうってッ……イチャついてねーよっ。なんかナオ、性格悪くなったぞ!? あのどSのエロオヤジのせいだろ!」
「違うよー、もともとこんなだもん」

 しれっと受け流すナオにハルは、ウソだ、ゼッタイあいつのせいだ、とぶつぶつ呟く。それから観念したように、ヘヴンに来た経緯を話し始めた。
「……柚月さんさ、オレがいて、……あんま飲みにいけないんじゃないか、と思って。友達と飲み会とかさ、行っていいって言ったんだけど、……オレがハタチになったら一緒に飲みに行こうって、……言ってくれて」

「ハタチ? ハタチって、ハルまだ十六かそこらでしょ」
「……もうちょっとで十七んなる」
「三年以上も先じゃん。ほとんどプロポーズだよねー」

「もうっそんな話じゃないって!……だから、オレが一緒に行って、ソフトドリンクにすればいいんじゃないかって、……思って、柚月さん連れてきたんだ、……」
 それはまだ公にはアルコールを口にすることの出来ない、ハルの意地だった。

 柚月と対等ではない子供の自分がいやで、でもそれを知られたくなくて「飲みにいっていい」と寛容なところを見せた。しかし、ハルが無理をしていることを柚月はちゃんと知っていて、「二十歳になったら、一緒に飲みに行こうな」と優しく言って笑う。
 
 その言葉が嬉しくてたまらないのに、ハルはつい、「ガキ扱いすんなっ、酒じゃなかったら今でも行ける!」と言ってしまっていた。困り顔の柚月と家を出たものの、ヘヴンズブルーぐらいしか行く当てが思いつかず、こうして、ナオにからかわれる羽目になった。

「─── ミハル、……コーラでいいか?」
「あ、うん」
 自分とハルの分のドリンクを両手に持ち、戻って来た柚月の台詞を聞いて、ナオは更ににやにやと笑う。

「……なんだよ。またそんな、へんな笑い方」
 ドリンクを受け取りながら、ハルは口をへの字に曲げた。
 ハルの、以前と変わらぬその生意気な表情が照れ隠しだとナオは気付いている。

「カーワイイ名前。ミハルって呼んでもらってるんだー?」
「……!」
 指摘されるとめちゃくちゃ恥ずかしい。ハルは顔を赤くして俯いた。
 目を逸らし、細長いタンブラーに注がれたビールを黙って飲む柚月を、ハルは少し睨んで小声で詰る。

「……今呼ぶことないじゃん」
「なにを。何が?─── お前をミハルって呼んじゃまずいのか?」
「……恥ずかしいんだよっ……」
「呼びたかったんだ」

 俺だけだろう、お前のこと、ミハルって呼ぶの。
 やはり小さい声で返す柚月の言葉にハルはますます顔を赤くし、ナオは片手で自分を扇いだ。
 
「あー、あっついねえ。僕、邪魔みたいだからカウンター帰るー」
「ああっ待って、待てってナオ、邪魔じゃないってッ」
 ナオの首に腕を回してハルは引き止める。ナオはその腕に手をかけて笑った。
「気ィ使わなくていいようー」

「……何やってんですか、ナオさん」
「あっレイー」
 ふざけてじゃれあうナオとハルの前に、今、店にやってきたばかりらしいレイが現れた。
 
 目顔で柚月に会釈し、柚月も同じように返す。ナオに向き直ったレイは、すっかり高くなった背丈で ─── それでも柚月よりかは幾分低い ─── 見下ろした。
「聞いてよう、ハルがわざわざカレシ見せつけに来たんだよー。超仲良し、当てられてのぼせそー」

 ハルの腕を解いてレイに近づき、見上げるナオ。本人にそのつもりがなくとも、甘えてるように見える仕草と口調にレイは目を細めた。
「オーナーはどうしたんです? ナオさんほったらかして」
「今日ね、私用。九時ぐらいには帰るって言うから、ここで待ち合わせしてるんだけど」

「……まだみたいですね。じゃあ、ナオさんは俺と仲良くして見せつけときますか」
「えーっ、何言ってんのー」
 明るく笑うナオに、レイはあからさまに見惚れている。レイの気持ちを知っているハルは、少しヒヤヒヤしながら面白くその様子を眺めた。─── ナオって、そういうとこ鈍感だよなー。
 
 恋人でもない相手に無意識に思わせぶりな態度しといて、惚れられてるのに全く気付かない。だからあんなエロオヤジに全力で落とされる羽目になったり、年下の男に横恋慕されるようなことになる……。

(ま、オレは柚月さんだけでいいけど)
 隣で黙々とビールを飲む柚月をちらりと見る。ハルとナオがじゃれあっても、そこにレイが加わっても穏やかな表情を崩さず、ハルに寄り添っている。
 ハルの視線に気付いて、更に目尻を下げて微笑んだ。

「どうした?」
「えっ、ううん、なんでもない」
 照れくさくて、ハルは目を逸らした。柚月の優しい表情に見惚れていた、とは言えない。
 
 そんなハルにナオは唇を尖らせた。
「あー、またイチャついてるー」
「ほんとですね。俺らもイチャついときます?」
 
 冗談口調で言って、レイはナオの脇腹に手をまわしてくすぐった。ナオの笑う声がその場の雰囲気を明るくする。
「やっ、くすぐったいって」
 笑いながらレイの手から逃れたナオは、どん、とスーツを着た厚い胸にぶつかった。

「……あ」
「あ」
「…………」

「臣さん、じゃなかった、オーナー、お帰りなさいっ」
 たった今、帰還したばかりのこの店のオーナーの仏頂面を見上げて、ナオは嬉しそうに微笑んだ。
 
 
 
 
       

     目次第二話

  

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きみの2第十一話更新&8万アクセスo(_ _)oペコッ&近況

 きみの2第十一話更新しました♪

 8万アクセスありがとうございます(≧∇≦)

 たくさんの方にアクセス頂いて大変嬉しいです

 これからも楽しんで頂けるようなものを書いて行けたらいいな、と思っているので、よろしくお願いしますo(_ _)oペコッ

 近況です↓

続きを読む "きみの2第十一話更新&8万アクセスo(_ _)oペコッ&近況" »

きみの手を引いて2:第十一話

 

 ─── 二時間後。長谷川の家の近くに、スモークを貼った黒いクラウンが静かに停車した。中には柚月と和臣、ナオが乗っている。
 先程の発作的な感情の爆発はすでに柚月の元を去り、二人と一緒にいることで平静を取り戻していた。
 
 日も暮れ始めた薄闇の中、三人の見つめる先の家は一階部分だけ灯りが点いている。
 後部座席の柚月は逸る気持ちを抑えて、エンジンを止めた和臣に話しかけた。
「成沢さん、……やっぱり、ナオくんはどこか別の場所にいた方が。……もしかしたら警察沙汰になるかもしれないし」
 
「僕、大丈夫です」
 ナビシートのナオが振り返って柚月の言葉を遮る。
「後ろに移れば外からほとんど見えないし。……長谷川ってひとが来たら窓開けて、適当に話して時間稼ぐ。その間に柚月さんがハルを連れ出す。連れ出せなくても」
 言いよどんだナオの後を和臣が引き取った。

「監禁の証拠を掴む。ケータイがあるのにハルの奴が通報しないなら脅されてる可能性が高いだろう。柚月くんが巻き込まれるのを怖がってるって場合もあるがな。……むしろそっちだと俺は思う。なら、きみが現場に踏み込んで明るみにしてやればいい」

 後のことはどうにかしてやるよ、と和臣はステアリングに両腕を乗せ、じっと長谷川の家をフロントガラス越しに見つめた。その姿はさっきまでのブランド物のスーツではなく、普通の会社員然とした目立たないスーツを身に着けている。長谷川に警戒心を持たれない為にわざわざ調達したものだった。

「要は長谷川とハルが切れればいいわけだからな。親子の縁ってのは厄介だが、こういうことになった以上切れるしかねえだろう。最悪、警察沙汰になったところで内々に処理してやるさ。もっと早く俺んとこ来たらいくらでも弁護士立ててやったのに」
「……すいません」
 
 素直に柚月は頭を垂れた。
 和臣に対する嫉妬が反感となり、手を借りることなど思いも寄らなかった。環の言葉が柚月の耳に蘇る。
 
(「ふたりだけでどうにかしようとするな」)
(……この世界は俺とミハルだけじゃない。環さんも成沢さんも、ナオくんも、……他のたくさんのひとがいて、その手を借りてもいいんだ……)

 すっと胸の中を風が吹き抜け、目の前が開けていくような気がした。
(ひとりじゃない。ふたりだけでも、ない)
 きっと、ミハルに会える。

 協力してくれる二人に礼を言おうと口を開きかけた柚月に、和臣はバックミラーから視線を送った。
「関係がないってわけじゃねえし。ま、そのせいで柚月くんには信頼してもらえないんだろうけどねー」
 ……かつてのハルとの「関係」を仄めかされ、和臣に抱いた感謝の念がみるみる内に薄れていく。ちりちりと焼けつくような感情を持て余した柚月は返事もせず、窓の外に目を向けた。

「あ」
 ナオが助手席で声を上げる。長谷川の家の二階に灯りが点いた。
「……多分、あの部屋だな。一階に監禁してる奴を置いとくとは思えない」

「成沢さん」
「行くか。柚月くんは庭に隠れて。判ってるね、俺が長谷川を誘き出すから合図したら家の中に入る。……いいか、この計画は穴だらけだ。家の中が ─── ハルの奴が、どうなってるか判らねえんだからな。俺も含めて、それぞれ臨機応変に対処する。……ナオ」
「うん。ちゃんと気ィ引くよ。大丈夫、ハルから長谷川さんのこと聞いたって言えば、無下に出来ないでしょ」

 和臣ははっきりと眉をしかめてナオに目を向けた。
「……あんまり、長谷川を挑発するな。やっぱり柚月くんの言うとおり留守番させてれば良かった」
「あッ何それ、僕だけのけ者にしようとしてる! 僕だって役に立てるよっ」

 ちッと舌打ちする和臣と真っ向睨み合うナオの間で柚月は軽く咳払いをする。
「……あの、そろそろいいですか?」
 痴話ゲンカが始まりそうなのを察して、柚月は車のドアを開けた。

 

 
 
 
 

 階段を昇ってくる足音で長谷川の帰宅を知ったハルは、夢うつつのまま、ベッドの上で力なく身体を起こした。生気を失った目が薄暗い部屋に入ってきて灯りを点ける長谷川をぼんやりと追う。
 
 小さな箱をローテーブルに置いた長谷川はハルに向き直った。
「……その髪の毛をどうにかしないとね」
「え……」
 
 何を言われているのかよく理解出来ず、ハルはゆっくりと瞬きをしてその箱を見つめる。黒色の染毛剤だった。
「自分で出来る? それとも、僕が手伝おうか?……遠慮しなくていい」
 
 近づいてきた長谷川はハルの髪の毛に触れた。その感触を味わうように指先で探る。
(そうか……髪の色)
 長谷川が気に入らない髪の色をそのままにして置くわけがない。
 
「……自分で出来ます」
 長谷川の指から逃れ、ベッドを降りたハルは震える指先を箱に触れさせた。そっと手に取る。
 ─── 嫌だ、と言うのは無駄なことだと判っていた。反抗的な態度は、見た目では判らない長谷川の機嫌を損ねる。
 もしも抗えば、柚月に、周囲の人間に、何をされるか判らない。
 
「夕飯の、支度をするからね。その間にお風呂に入りなさい」
 こくり、と頷いたハルに見て、満足げに長谷川は微笑んだ。風呂は昼間に入ったが、髪の毛を染め直す為にハルは長谷川の後について階段を下りていく。
 
 視界が、ぐらり、と揺れて手摺りに掴まった。身体が熱っぽくめまいがする。
 ハルの様子に気付かない長谷川が階段を下り切った時、ドアチャイムの明るい音が場違いに鳴り響いた。
 
 長谷川は目の前の玄関ドアを凝視し、─── 階段途中で手摺りにすがるハルを見上げる。
「……部屋に戻っていなさい」
 真っ青になったハルは目を閉じて頷く。肩で息をしながら階段の上に行き、そこで力無くしゃがみこんだ。
 
(……部屋、……行かなきゃ……)
 思っていても身体が動かない。長谷川から受けた暴力と、それに晒されたストレスで発熱していた。
「……はい。どちらさまでしょうか」
 
 階下ではドアを開けて長谷川が応対している。声が、聞こえた。
「長谷川 昌樹さんですね? 児童相談所の者ですが」
「……何のご用件でしょうか」

 訝しむ長谷川の声。そして。
「長谷川 瞠くんを保護しています。本人かどうかの確認をして頂きたくお伺いしました」
 聞き覚えのある慇懃無礼な声にハルは階段上から身を乗り出して、玄関を見た。
 
 そこには思ったとおり、ヘヴンズブルーのオーナーの姿があった。
(……成沢さん。マジか……)
 どこにでもある灰色のスーツに地味なネクタイを締めて、長谷川の背中の向こうでもっともらしい顔をしている。その顔がふっと上を向いた。
 
 自分に気付いた鋭い目が眇められる。
 ハルは慌てて身体を引いた。 

「瞠、……瞠は家に帰って来ています」
「それはおかしいですね。会わせて頂くことは出来ますか?」
「……今は二階で休んでいるので……」

「そうですか。しかし確認を取りたいので出来れば会わせて頂きたいのですが」
「……瞠、と名乗っている子はここへ来ているのですか」
「ええ。あの車に乗せています」
 
 和臣が外の車を示し、それを長谷川が見つめている様子が手に取るように判る。
(何が児相だよ……拾ったその日の内にヤったくせに)
 思いながらハルは、どうしようもない懐かしさと慕わしさを感じていた。和臣がつまらない嘘を用意してここにやってきたのは、自分のためであるに違いなかった。
 
(車の中に「長谷川 瞠」がいるって?……)
 いるわけがない。自分はここにいる。
(すげーハッタリかますなあ……ダレかほんとに乗ってんのか)
 ナオかもしれない、とハルは思った。面倒見が良く、初めて会った時からなにくれとなくハルを気にかけてくれた彼なら車の中での「瞠」の役を買って出てもおかしくない。

(……きっと柚月さんは来ない。顔、知られてるし、……来ないほうがいい)
 柚月は和臣に相談したのだろう。ハルが帰って来ない、義父のところかもしれない、と。
(柚月さんは来ちゃダメだ。なにされるか、判んないから)

「……車に乗っている子が瞠でない、と判れば、引き取って頂けますか」
「ええ、それはもちろん」
 長谷川が外に出て行く気配がした。
 
 何とか立ち上がったハルは、壁伝いに覚束ない足取りで部屋へ入る。灯りは点けたが、ドアを開け放したまま、手にしていた染毛剤の箱が落ちるのも気付かない。
 和臣に、電話をして、─── 自分のことは放って置くように伝えなければ。
 
 机の引き出しを開けるとすぐにドッグタグが目に入る。それから目を逸らし、隣にあった携帯電話を手に取った。
(え、……と、な……なるさわ……)
 熱のせいか、頭の芯が揺れる。もたもたとアドレスから「成沢さん」の電話番号を捜し出し、発信ボタンに指を乗せた。

 ─── 開けたままのドアから廊下に、人の気配を感じた。ハルは反射的に視線を向ける。 
 
 顔色を失った柚月がそこにいた。

 
 

      

      目次第十二話
 

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第十話更新

 きみの2第十話、更新しました♪

 ネタバレしてます

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きみの手を引いて2:第十話

 
 遮光カーテンを閉め切った薄暗いホテルの室内に無機質な着信音が響き渡る。その音で目を覚ましたナオは、部屋の中央にある大きなベッドの上から携帯電話を置いてあるテーブルに手を伸ばした。
 
「……?」
 反射的にそうしたものの、自分の携帯の着信音でないことに気付き、その手がぱたりと糊の効いたシーツの上に落ちる。
 そのまま身体ごと、隣に寝そべる恋人の背中に柔らかくしがみついた。
 
「……臣さん、ケータイ……鳴ってるようー……」
 そばかすのある白い頬を、広く逞しい背中に擦り付ける。その感触にナオの心は温かく満たされ、ナイトシャツを身に着けた身体を未だ起きない恋人に添わせた。 
 
「……ね、起きてよ……ケータイ……」
 いきなりナオの視界が仰向けにひっくり返った。腕をベッドに押さえつけられながらその唇を乱暴に塞がれ、口の中を熱い舌でさんざんに蹂躙される。寝起きとは思えないような官能的な口づけにナオは息を上げた。

「─── よし起きた」
 満足げに、にやりと笑った恋人 ─── 和臣は、長いキスのせいで切れてしまった携帯電話を手に取る。顔を真っ赤にしたナオは恨みがましい目を和臣に向けて、濡れた唇を手の甲で拭った。

「……朝っぱらからエロいチュウすんのやめてよっ」
「そっちこそ朝っぱらから煽るのやめろ。犯されたいのか?」
 言いながら、和臣は携帯電話のフラップを開けて着信履歴を確かめる。─── 画面に出た「柚月 要」という表示を思わず凝視した。

「どしたの?」
 首を傾げたナオが和臣の腕に寄り添う。その華奢な肩に手を回した和臣は、さあなんだろうな、と面白がるように呟いた。
 
 
 ふたりがいるのは和臣の実家にほど近い、避暑地にあるホテルだった。この近辺では最も格式が高いホテルのインペリアルスイートにチェックインしたのは昨日のことで、和臣はそのやたらに広い部屋にナオを押し込むと「外に出るな」と言い含めた。和臣がそんな行動に出た背景には、前回実家を訪れる際やむなくナオから目を離したところ、ヘヴンでろくでもないくそガキとイチャついていた、ということがあったからだった。
 
 ナオにとってそれは単なる「可愛い弟」でなんの他意もなく、想っているのは和臣だけ、ということはその日の夜、さんざん泣かせて白状させた。それはそれで和臣の独占欲を満たしたが、「可愛い弟」の方が自分を「弟」だと思っているとは限らない。はっきり言えば和臣はその「可愛い弟」に、「今度ナオさんをひとりにしたらありがたくゴチになる」と宣言されていた。
 
 そんなケダモノのような「可愛い弟」のそばにナオをひとり残していくわけにも行かず。
 またもや実家に呼び付けられた和臣は「ヘヴンで待ってる」と言うナオを説き伏せて車に乗せ、このホテルに直行した。チェックインの際までなんとなくつまらなそうにしていたナオだったが、その部屋の豪奢な広さと大きな窓から水平線と緑の山々両方が眺望出来るのが気に入ったのか、笑顔で実家に向かう和臣を送り出した。

 午後七時には戻ってきた和臣とルームサービスの食事を取り、そのホテルで一夜を過ごして、──── そして次の日の朝、十時半。
 和臣の携帯電話に柚月から着信があったのは、そんな状況だった。
 
 
 かけ直そうか迷っていると、またもや着信音が鳴り出す。
「柚月って、ハルのカレシの?……」
 液晶画面に表れた名前を見て、ナオは不思議そうに首を傾げる。ああ、と短く答えた和臣は通話ボタンを押して電話に出た。
 
「……はい。柚月く」
『成沢さんお忙しいところすいません、ミハルの家の住所知りませんか』
 余裕なく切羽詰まった柚月の声に虚を突かれる。ハルに何か良くないことが起きた、と勘付いた和臣は言葉を失い、黙り込んだ。

 
 
 

「……なるほどね」 
 大体のあらましを聞いた和臣は、すでに服に着替えたナオから淹れたてのコーヒーの入ったカップを受け取って頷いた。
「その、男のところに行ったわけだ。ハルの奴は」
 
『……帰ったわけじゃない。誤解しないで欲しいんです。迷惑になるから、とかそんな理由で帰ったんじゃない、何か違う理由であの男の家に行ったんです。……ミハルは、俺と一緒に暮らすのを望んでいた』
「惚気てくれるね」
 
『事実です』
 苦笑しながら茶化した和臣は、きっぱりとした柚月の口調に気圧される。全くまあ、あいつに好かれてるって確信があるだけでこんなに強気になれるなんて羨ましい限りだね、と和臣は心の中で呟きつつ、柚月の最初の質問に答えた。

「ハルの家、……長谷川の住所なら知っている」
『本当ですか』
 思いがけない、という声音の後、柚月の脱力したように絶句した気配が伝わってくる。和臣はコーヒーを飲みながら続けた。
 
「あいつを拾ったときに保険証取り上げて、住所も生年月日も手帳に写した。勝手にやったもんだからサイテーって罵られたけどな。もう時効だろう?」
『……ミハルに訊いて下さい』
「あれ、妬いてる?」
 
 ますます柚月くんに嫌われそうだな、と考えながら和臣は嘆息した。ハルを引き取ってもらって感謝している和臣の気持ちは、少しも柚月に伝わっていないようだった。
『……そんなことより住所を教えて下さい、今すぐ』
「去年の手帳だから今すぐは無理だ。ちょっと、……遠出していてね」

 遠出、と柚月の途方に暮れたような声が送話口から漏れてくる。タイミングが悪いな、と和臣が考えていると、諦めずに気を取り直した柚月の声が聞こえた。
 
『マンションの前で待っていてもいいですか』
「いいけど、三時過ぎになると思う」
『……判りました。じゃ三時過ぎに伺います』
 
 すぐには住所が判らないと知り、落胆する柚月の声を最後に通話を終えた。
「……」
 コーヒーを飲み干して、和臣は思い切り舌打ちをする。─── あのガキは一体いつまでひとに心配させれば気が済むんだ?

「……せっかく柚月くんのところに嫁がせてやったってのに」
「臣さん」
 電話が終わるまで邪魔にならないよう、別室にいたナオがそばに近寄って来て、不安な目を向けた。
 
「……ハル、どうしたの?……」
 友人の身を案じるその小さな声に切なさを覚えた和臣は、ナオの身体を引き寄せる。ベッドに座ったまま抱きしめ、言い聞かせるように、心配するな、と囁いた。

 

 

  
 緩く傾斜する坂道を上がった柚月は和臣が所有するマンションを見上げた。ここに来るのは二度目だった。
「……」
 
 環に「ハルくんの家の住所、知っていそうなひとは?」と訊かれて真っ先に思いついたのがヘヴンズブルーのオーナーだった。ハルと深く関わり、一緒に暮らしたこともある彼なら知っていてもおかしくはない、と瞬間的に考え、─── それはほんの少し、ちりっと焦げるような胸の痛みを伴う。

 逡巡は一瞬のことだった。頭を振って余計な思いを追い出し、和臣に電話をした。
 間の悪いことに、出先だと告げられたのでマンションの前で待つことにした。

 何人かのマンションの住人が出入りし、柚月を怪訝そうに見る。長谷川の家に乗り込む前に警察のお世話になりそうだな、と自棄気味に考えていた時、車寄せに入ってきたアウディからTシャツにカーゴパンツの一人の少年が降りて駆け寄ってきた。
「柚月さん、……」

 ナオだった。心配そうに柚月を見上げて、その目が伏せられる。
 成沢が事情を話したのだろう、と察した柚月は、無理やりに笑顔を作った。
「デートの邪魔をしてすまない。……ミハルを迎えに行きたいんだ」

 その悲壮な表情を目にしたナオは、こく、と頷き、最上階の和臣の部屋へ柚月を案内した。
 
 地下駐車場に車を止めた和臣は、部屋に来るとすぐに書斎として使っているベッドルームの隣室に入り、手帳を捜し始めた。
 リビングに通された柚月は所在無さげにうろうろと歩き回っていたが、直にソファーにくず折れるように座り込んで、顔を両手で覆う。
 
 ハルを思う心労で疲れ果てていた。環の店で仮眠を取らせてもらったものの、全く眠った気がしない。
(……ミハル。もうすぐ迎えにいく)
 その思いだけにすがって、ここにいる。
 
 うな垂れる柚月の目の前のガラステーブルに、アイスコーヒーが差し出された。目線を上げるとナオが傍らで痛ましそうに柚月を見つめている。
 何も言わない。─── 自分もハルのことを心配しているのに、慰めも責めもしないナオが柚月にはありがたかった。
 
(……成沢さんや、他の……レイ、だったか……夢中なわけが、なんとなく判る)
 柚月がそう感心したように思った時、ナオの白い小さな顔がベッドルームの方に振り返った。和臣が出てきたのだ。
 真っすぐ柚月の前に来た和臣はその場で手帳の一ページを破り取る。アイスコーヒーの隣にそれを置くと、スーツのジャケットを脱いでソファーの背に掛けた。
 
「─── すぐに行くつもり?」
 向かいのソファーに腰を下ろしながら和臣が言うのに、柚月は大きく頷く。そっと破り取られた手帳の一片を手にした。

「お手数かけてすいませんでした。失礼します」
「まあ待ちなよ」
 立ち上がった柚月を和臣は制した。座って、と強い口調に、柚月はしぶしぶ従う。
 
「─── このまま行っても門前払いを食らうだけだ」
 冷静に切り出した和臣の言葉に、薄々判っていた事実を突きつけられる。
「判ってるだろう。……ハルの義理の父親が、ハルと君を会わせるわけがない」
 
「…………」
 柚月は唇を噛みしめた。─── 長谷川がなんらかの手段を使ってハルを自分の所に帰さないこの現状は、自分が長谷川の家に行ってもハルとは話どころか、会えもしないということを示していた。

 思わず紙片を握り潰してしまい、その手を開く。細い走り書きの文字がハルの居場所を、その存在を明確に伝え、─── それでも手の届かないもどかしさに柚月はうな垂れた。
 ─── どうしたら、ミハルに会える。
 
 和臣の手が煙草を一本抜き取り、火を点けた。咥えた煙草の先から煙が白く流れ、沈黙の間を持たせる。
 唐突に、柚月の携帯電話の着信音が鳴った。
 
 静かな部屋にそれは大きく響き、柚月はジーンズの後ろポケットから携帯電話を引っ張り出す。ハルかもしれない、という期待から確かめもせずフラップを開いた。
『あ、要ちゃん? あたし、あや』

 明るい幼馴染みの声に、がくり、と力が抜ける。返事も出来ずにため息が口をついた。
 しかし。
『ハル、どうかしたの?』
 続いたあやの言葉に柚月の心臓は跳ね上がった。

「どう、どうしたって、なんでお前が、ミハルのこと」
『? なんでって、ケータイかかってきたのよ、さっき。なんか、要ちゃんに伝えて欲しいって』
 混乱してうまく頭が回らない。ミハルが、あやに電話をして、俺に伝えて欲しいって?

『ええとねー、ドッグタグ、……誕プレのドッグタグ、嬉しかった、ありがとう、って。云えなかったから、伝えて欲しいって』
 誕生日プレゼントの、ドッグタグ。一度も欲しいとねだったことはなかったハルだが、柚月はその目がいつもそれを見ていることに気付いて、プレゼントすることにした。
 
(嬉しかった、って? そんなこと、)
(たとえ大げさに嬉しがってもらえなくたって、ただ、あいつにプレゼントするだけで、俺は満足だった)
 だから、受け取ってくれただけでよかったのに。
 
 放心状態の柚月の耳にあやの声が流れ込む。
『ねえ、あの子、どこか行ってるの? それともケンカ中? あたし経由するなんておかしいじゃない』
「……何か、言ってたか。他に何か、あいつ、」
『確か、帰れないって言ってたわよ。それに具合悪そうだった』

 帰れない。帰らない、じゃなくて、帰れない。その言葉に柚月は、長谷川に対して殺意さえ覚えた。
 ミハルは間違いなく長谷川に監禁されている。

『……要ちゃん。ねえ、まさか、ほんとに何かあったの? くだらないケンカなんでしょ?……』
 不意に、明るかった幼馴染みの声が不安に翳る。何かおかしい、と勘付いたその声は柚月にとって最も聞かれたくないことを、訊いた。
『……ハル、どこにいるの……?』

「ミハルは、……」
 必ず連れ戻す、と柚月は歯の間から声を押し出すようにして言い、電話を切った。
 
 もう、一刻の猶予もない。ハルが長谷川の元にいるのは我慢がならない。
(俺でなく、あやに電話をして、俺へ伝えるように言った)
 そのことは、ハルが自分と直接話せないということを示していて。

(乱暴され……)
 出来るだけ考えないようにしていたことが頭に浮かび、目の前が真っ赤になるような怒りがこみ上げてくる。
 柚月は、ふらりと立ち上がった。

「…………」
「柚月くん。待てって」
 軽く頭を下げて背中を向ける柚月に和臣は声をかけた。それも聞こえないのか、柚月は全く無視してリビングを突っ切ろうとする。慌てて立ち上がった和臣は柚月の腕を掴んだ。
 
 柚月はその手を振り払った。
「……もう我慢出来ない……!」
「柚月く……」

「いったいあいつが何をしたっていうんだ! あいつは何も悪くない、何も悪いことはしていない、なのになんでこんな目に遭わなきゃならないんだ!」
「ちょっと、……落ち着けよ」
「あの男が会わせないと言っても無理やりにでもミハルを連れ戻します、警察を呼ばれたって構わない……!」

「判った、判ったから、……」
 柚月を宥めながら、和臣は、はーっと嘆息して言った。
「手を貸すよ。……俺も全く関わりがないわけじゃないし、はっきり言って寝覚めが悪い。それに俺が一枚噛んでれば、よもやの警察沙汰だって揉み消せるかもしれねえし」

 ま、事と次第に寄るけどな、と肩を竦めた和臣は、もう一度柚月にソファーに座るように促した。

 

 

       

      目次第十一話
 

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 昨日はフリー参観でした~( ̄ー ̄)ニヤリ 五限目、3等分して15分ずつ観ました。

 授業を受けてる我が子を見るのはそれだけで大変面白いもの(´,_ゝ`)プッですが、教室中の掲示物を見るのも楽しみです。

 このクラスの目当て、係り、図工で制作した粘土、絵、習字、……すんごく面白いです。そして昨日の一番の収穫は、次男の詩。( ̄ー ̄)ニヤリ

 国語で詩を習ってるので、自分でつくった詩を貼り出してあるのですが、なかなか…結構…上手いです。八月より文才あるよ、あいつ……(あッ親バカ発言(^-^;)

 

 前回のつぶやきでご心配おかけしてすいませんでしたo(_ _)oペコッ まだなんの対策も講じてないんですが(^-^;(アレ、のんき過ぎる…?)まあ、大した実害もないのでのんびりやろうと思います。(一生懸命書いた文章を勝手にコピーされて知らないひとのブログに載せられる、というのはなんかちょっとヤな気持ちにはなりますが、結局のところそれだけなので。←神経が信じられないほど図太いヾ(´ε`*)ゝ エヘヘ┐(´д`)┌ヤレヤレ)

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