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きみの手を引いて2:第十四話

 

 R-18BL小説です。18歳未満の方、BLに嫌悪感を持たれる方はご遠慮下さい

 
  
 次にハルが目を覚ましたのは、柚月の部屋のベッドの上だった。
「………」
 見慣れた天井は暗かった。夜なのは判ったが、時間の感覚が欠けていて、数時間しか経っていないのか、次の日の夜なのか、それとももっとずっと後なのか、よく判らない。

(オレ、……どうしたんだっけ……?)
 最後に覚えているのは、柚月の温かい感触だった。自分をきつく抱きしめる、逞しい腕。呼び止められて振り返って……和臣と長谷川が何か話している。
(そうだ、成沢さんもいた……車乗って……ナオもいたような……)
 
 記憶が前後しながらも徐々に戻ってくる。
『オレも一緒に帰る、迷惑でも、帰りたい、なんでもする』
 突然、自分の発した言葉が耳に蘇った。動揺して、いても立ってもいられない気持ちになる。

 どさくさに紛れてとんでもないことを言ってしまった。柚月に抱きついて、しがみついて、─── 柚月は抱き返してくれたけれど……。
(熱があったせいだ。……め……迷惑なんて、かけたら……なんでもするって……何も出来ないのに)
 
 おおごとになって柚月に迷惑をかけたくなくて、自分でケリを付けるつもりで長谷川の家に行った。もう子供でない、自分の意志を持ったひとりの人間なのだと落ち着いて話せば、諦めてくれると思っていた。自分と縁を切り、忘れてくれると───……。
(……甘かった)
 
 長谷川があんなに自分に執着しているとは思わなかった。瞠、と何度も長谷川が自分を呼ぶ声が耳をついて離れない。
 結局、柚月や周りの人間を巻き込んで迷惑をかけてしまった。

 しかも、懸念はそれだけではなかった。
(どうしよう)
(……身体、見られた……?)

 着ているものは長谷川の家にいた時から変わっていない。しかし、─── 自分が長谷川にされたことを、柚月が気が付いていないとは思えなかった。
(迷惑かけただけじゃない。こんな……)
 
 長谷川の手が。指が。唇が。─── 拒む自分の声が。悲鳴が。
 あの夜を思い出して、掛けられていたタオルケットを頭の上まで引っ張り上げる。うつ伏せたその仕草で痛みが身体中に走り、ふっと涙が滲む。

 どんな顔をして柚月の前に出たらいいか、判らない。
 
「───……」
 サイドテーブルの目覚まし時計が時を刻む。耳慣れたその音がやけに大きく響き、時間を確かめようとタオルケットの下から手を伸ばして引き寄せた。─── しゃら、と音を立てて、時計の手前にあったものがフローリングの床に落ちる。

 チェーンの切れたドッグタグだった。
 長谷川の存在を、受けた暴力を、まざまざと思い出させるそれを目にして手元が狂う。時計がハルの指先から滑り落ちて床の上で大きな音を立てた。

 ドアがぱっと開け放たれて、リビングからの光源で室内が明るくなる。
「……ミハル?」
 心配そうな柚月の声。ドアが閉まり、近づいてくる柚月の気配にハルはタオルケットの下で息を殺した。
 
 暗闇の中、ベッドのそばにしゃがんで時計とドッグタグを拾い上げた柚月は、それらを元の位置に戻すと、頭まですっぽりとタオルケットを被ったハルを見下ろした。
「……起きたのか?……」
 
 ベッドに腰掛けた柚月の手がタオルケットの上からハルの頭に触れる。その感触にハルは、びく、と身体を振るわせた。
「……さっきまでひどい熱だった。明日、環さんに電話しておくから、……ゆっくり休むんだぞ」
 タオルケットの端からわずかに出ているハルの髪の毛が、柚月の長い指で慈しむように梳かれる。

 小さなハルの声が、柚月の仕草を拒んだ。
「さわ……触んないで……」
「………」
「オレ、ロフト行くから……目、つぶってて……見ないで……」

 ハルの言葉が聞こえないのか、その指は髪の毛を探るのをやめようとしない。─── 柚月はひょっとしたら、自分の身体の異変に気が付いていない、振りをしてくれようとしているのかもしれない、とハルは思った。
 それほど、優しい手だった。
 
 ─── 自分を愛しい、と……好きだと思ってくれているその手に、嘘を吐かせたくない。

 ハルは頭を振り、柚月の手から逃れた。
「あ、……あの、オレさあ、」

 擦れた、そのくせやたらに明るい声をタオルケットの下からハルは発した。
「ゆ……柚月さんも、想像ついてると思うけど、ご……ゴーカンされちゃってさ、長谷川さんに、……あの、だから、……」

 言いよどみ、ごくん、と喉を鳴らす。タオルケットを握りしめた指が震える。
「どん引きってカンジ……? はは、笑うしかないよね、……一人で、どうにかしようと思って、行ったんだけど、……ダメで……」
「………」
 柚月は何も言わず、黙ったままだった。その沈黙が怖くて言葉を重ねる。

「……柚月さんになんかするって言うからさ、最初大人しくしてたんだけど、あの……オレ……触られんのイヤで、我慢できなくて、……抵抗して、そしたら、」
(「や……っいや、いたい、やめて、や……」)
 すすり泣く自分の声が何度も柚月を呼ぶ。

「……だから……もう……オレに触りたくなかったら……イヤになったら……言っ……環さんとこ、置いてもら……っ」
 ─── 涙で語尾が消えた。

 一度あふれた涙は歯止めが利かず、ぽろぽろとこぼれる。ハルは、ぎゅっと目を閉じた。
 ─── きっと柚月は自分に触れることを厭う。
(痕が、ついている)
 長谷川に所有された痕が、身体中に。

 それだけではない。無理やり押し入られ、未だ傷ついて痛む場所を柚月に見られたら。
(……もう生きていられない)
 ひっく、とハルはしゃくり上げた。

「………」
 黙ってハルを見下ろしていた柚月は、サイドテーブルのクリップ式のランプを点けた。目に沁みないよう柔らかく光量を調節して、ベッドに上がる。その膝の下でスプリングが軋んだ。

 不意に柚月は泣きじゃくるハルをタオルケットごと抱きしめた。しばらくそうしていて、ハルの顔を覆っていたタオルケットを取り去る。額に、瞼に、頬に、そっと唇を落とした。
 触れてくる柚月の優しい感触に、ハルはぼうっとなり、タオルケットが取り払われたことに気付くのが遅れた。

 ハルの身に着けているTシャツの裾が捲り上げられる。事態に気付き、慌てて抗った。
「……っや、柚月さん、やだ、見ないで……っ」
 Tシャツを胸の上まで引っ張り上げようとする柚月の手と、下に下ろそうとするハルの手が争う。

「……痕……っ痕が付いてるからっ……やだ……!」
 拒む言葉を発するハルの唇を柚月は深いくちづけで塞いだ。宥めるように胸に手を這わせ、ハルの抵抗を奪った柚月は、ほんの僅かな隙を突いてTシャツを脱がせる。同時にスウェットパンツごと下着も取り去った。
「っ……」

 ハルは柚月の手を逃れ、ベッドの壁際で膝を折り曲げて身体を隠そうとする。見られた。身体中に付けられた唇の痕も、擦れて赤くなった手首の傷も、無数の噛み痕も、押さえつけられた腕の青痣も ─── ……。
 
(もうダメだ。見られた)
(触りたくないって)
 ハルは必死でタオルケットを手繰り寄せる。─── それも、取り上げられた。
  
 どうして、と驚いて柚月を見上げる。
 柚月が怒ったように自分の身体を見下ろしていることに気付いて、ハルはまた泣きたくなった。

 柚月の表情はまるでひとが変わったように冷淡だった。
(信じなかった、から……?)

(柚月さんのこと信じないで、─── 柚月さんはオレよりも自分の方が大事だって決め付けて、それを思い知るのがイヤで、柚月さんを傷つけられるのもイヤで、長谷川さんの前で頷いて、……だから、)
(柚月さんは怒っている)

 嫌われた。
 
 ハルは抱えた膝に顔を埋めて声を上げないように泣いた。─── あきれた柚月はきっと部屋を出て行ってしまう。自分を信じずに他の男に触らせて、ひどい痕を付けられて、犯されて ───………。
 
「……くそ」
 柚月の声が吐き捨てるように呟く。その声の強さにハルは、びくん、と身体を震わせた。
 顔を伏せていたハルは柚月の手が伸びてくることに気付かなかった。

 いきなり腕を掴まれ、引き寄せられる。抗う間もなく柚月の身体がのしかかってきた。
「やー……っ」
 涙声で悲鳴を上げながら、ハルは身を捩る。力強い柚月の手がその肩をベッドに押さえつけた。

 突然の柚月の暴力的な行動にハルは怯え、混乱した。
 柚月は、─── この身体を見て、もう大事にするに値しない、と ─── 自分を信じなかったのだから、乱暴してもいいのだ、と思ったのだろうか。
 
(もう、……す、……好きじゃなくなった、から、)
(大事に、しなくてもいい、って、……オレのこと、嫌いに、なったから、)

「……っ」
 溢れた涙で視界が霞む。乱暴されるのだ、とハルは思った。柚月に嫌われて、蔑みに無理やり犯されるのは辛いけれど、自業自得だ。
(仕方がない)
 
 ─── 柚月を信じなかった罰だ。

 柚月に組み敷かれたハルは力を抜いた。
 浅い呼吸を繰り返し、涙をこぼすハルを柚月の瞳が捉える。
「……ミハル」

 その声は、─── 驚くほど優しかった。慈しむような眼差しを、ハルは涙に濡れた目でぼんやりと見上げる。
 柚月の指が耳まで流れたハルの涙をそっと拭う。優しい仕草に戸惑ったハルは何度も瞬きを繰り返した。
 
 柚月が体重をかけていないことに気付く。
 安心させるように微笑んだ柚月は、上体を起こし、ジャージの上衣を脱いだ。柚月の厚みのある胸が、ハルの胸に重なる。
 
 鼓動が ───。
 互いの体温と鼓動が混ざり合い、どちらのものか判らなくなった。
 
 柚月の長い指がハルの髪の毛に差し入れられ、柔らかく乱す。唇に降りてきた柚月の唇をハルは受け入れた。
 何度もキスを繰り返し、きつく抱き合う。ハルの髪に触れていたその手は、頬に触れ、首筋を降りていき、肩を、胸を撫でる。

「ん……っ……ゆ……づき……さ……」
 官能を煽られ、ハルは掠れた声を上げる。
 その声でハルが拒んでいないことを知った柚月は、細い腕の内側の吸い痕に舌を這わせた。
   
 柚月の行為に気付いたハルは一瞬、腕を引こうとして、─── あえなく力強い手に阻まれる。
 柚月はハルの身体中に散っている無残な痕に次々と舌を這わせ始めた。嫌がるハルが頭を振って力無く抵抗するのを、優しい口付けで宥め、また身体に唇を戻す。

 噛み痕を労るように丹念に舐め、「痛かったか?」とハルの耳元で囁く。柚月の優しい唇と舌はハルの心と身体を容易く溶かし、「今、は、痛くない……柚月さんにそうされると、すげー気持ちいい……」と言わずもがなのことまで口走らせてしまう。
 
 満足気な笑みを浮かべた柚月はハルの膝に手をかけた。
「やっ……柚月さん、お願い、見ないで……灯り消して、挿れたかったら、何もしないで、挿れていいから、……見ないで……」
「………」
 
 膝を頑なに閉じたハルの泣きそうな顔を柚月はじっと見つめ、─── 自分の手を引き剥がそうとするハルの手の甲をぺろりと舐めた。
「……ひゃ……っ」
 細い指を一本ずつ口に含み、柚月はわざと音を立てて舌を絡める。ハルは背筋を走るぞくぞくとした官能に耐え切れず、手をどかした。
 
 閉じられた膝や腿の隙間にも舌での愛撫を施す。力の入らなくなったハルの脚を開き、柚月はその付け根にも唇を落とした。
(どうしよう、見られた)

 傷つけられたその場所を柚月に見られたら生きていられない、とさえ思っていたハルだったが、柚月は一切の躊躇なく舌を這わせてくる。
 引き攣れるような痛みと熱を持ったそこは、柚月の舌で癒されていった。

 決して無理強いしない柚月の行為はハルに安堵をもたらす。徐々に身体が解れていき、痛みではない別の感覚が芽生え ───。
「や……っやっ、柚月さん、ダメ」
 
「痛いのか……?」
「い……痛くないけど……痛くないから、ダメ……だって……」
 身体中に唇と舌での優しい愛撫を受けて、もう限界だった。イっちゃうよ、とハルが泣き出しそうに告白すると、柚月は殊更その場所を舌で撫でながら、ずいぶん前から勃ち上がっていたものに手を伸ばした。

「あっあっ、や、イヤあ ───……っ」
 信じられない。ちょっと触れられただけで達してしまった。身体中、真っ赤になったハルの目に涙が浮かぶ。
 柚月に見られたくなくて、腕で顔を覆った。
 
 口元に笑みを浮かべた柚月はハルの後始末を終えると、その腕を引き剥がしにかかった。
「やっ、……みっともないから、見ないで……っ」
「みっともなくない。……気持ち良くなった顔、見せろ」
 
「やだやだやだっ……」
 柚月がなぜこんなことをしたのか判らなかった。自分の身体になど触れたいはずがないのに、柚月は隈なく全身に触れ、ダメだと言っても ─── 無論それは羞恥から出た言葉で、本当にダメなわけではなかったが ─── 止めなかった。

 他の男との情交の痕を見られ、傷つけられた痕も見られ、あっけなく達してしまった自分が死にたいほど恥ずかしい。
 そう考えながらハルは、もうやだ、と涙声を出した。
 
「………」
 柚月は諦めたのか、ハルの腕から手を離した。代わりにその身体を抱きしめると、一度は奪い取ったタオルケットを肩まで引き上げる。
「……俺にされて、気持ち良かったか?」
 
 耳元で囁く。ハルは顔を隠したまま、こくこくと何度も頷いた。
「そうか」
 満足そうに呟いた柚月は、ちょっと待ってろ、と言い置いて、ベッドを下りる。不安な気持ちになったハルはタオルケットの隙間から目だけを出して、その様子を見ていた。
 
 戻って来た柚月は手に軟膏の小さなプラスチック容器を持っていた。
 ベッドに上がり、タオルケットをはぐると、横向きになっていたハルの身体をうつ伏せにさせ、その場所に容器の中身を塗りつける。

「……っ」
 その感覚にハルはびくっと背中を反らせた。柚月の指は優しく、痛みはほとんどない。するりと入り込んで来た指先に思わず声が漏れた。
「ん……っ、あ、んっ……」

 本当に怪我の手当ての為らしく、奥まで侵入してこようとはしない。それはじれったさを生み、ハルは誘うように身体を捩らせた。
 背中に汗を滲ませ、シーツを両手で掴んだ自分の姿態が柚月の目にどう映っているか、不安になる。イヤらしいと思われていないだろうか。柚月に嫌われたくない一心で、ハルは声を殺した。

 後ろから手が伸びてきて、再び勃ち上がり始めたハルの中心を包み込んだ。
「……っやだ……っ柚月さん……っ」
 拒む、悲鳴のような声がハルの唇からこぼれる。
  
 羞恥に赤く染まったハルの耳元で、柚月が囁いた。
「……痛いことは、しないから、……」
 優しい柚月の手と指先に二度目も他愛なく達してしまったハルは、眠るように意識を失った。

 

 
     

      目次第十五話

 

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