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ヘヴンズブルー2:第2話

 
 レイの目の前に座っていたナオは、躊躇いながらも告白した。
「臣さん、最近ヘンなんだ」
「はあ?」

 とあるホテルの一階ラウンジのレストラン。昨夜はこのホテルの一室でふたりきり、一夜を過ご……せてたら良かったな、と思ったのはレイだったが、無論、そんなことはあるはずもない。

 以前からナオを食事という名のデートに誘っていたレイの努力は実り、やっとここまでこぎつけていた。とは言っても、真っ昼間のランチバイキングであったし、ナオにしてみれば友人と一緒に昼メシを食べに来ただけ、ということはレイには良く判っていた。

 ナオには、大好きな、大好きな、恋人がいるからだ。
 その恋人の名は成沢 和臣という。浅黒い肌に、まあ端正と言ってもいい顔立ち、背もそこそこ、実家は金持ちで多分権力者、そしてナオより十四も年上、三十三歳の大人の男だった。

 その男のことを脳裏に思い浮かべるたびに、レイは整った目鼻立ちを歪めてしまう。
(……俺なんか、ナオさんより年下のガキだけど)
 だから、ナオさんが俺よりあの人のほうがいいって思うのは仕方ないかもしれないけど。

(それでも、俺がナオさんを諦める理由にはならないはずだ)
 
 力強くそう考え、たゆまぬ努力の末デート(?)に成功していたレイだったが、食事の間中なんとなく元気のない想い人にわけを訊ねてみれば、その大好きな恋人の様子がおかしい、と言う。

 大体、万事が万事この調子で、最終的にナオの口から出るのは「臣さん」の名前なので、その度にレイは敗北感と達観にも似た諦めを味わうことになる。

 また今回も同じ気持ちを味わうのだろう、とレイは一旦は不機嫌そうに歪みかけた唇の端を上げて、皮肉っぽい笑みを浮かべた。
「ヘン、って何がです?」
「んー、上手く言えないんだけど、……なんかよそよそしいっていうか……他人行儀っていうか……」

 言ってしまえば確定的になってしまうその微妙な雰囲気を認めたくないのだろう、ナオは目を伏せて口ごもる。それを察したレイはまなじりを優しく下げて、ナオを制した。
「話したくなかったらムリに話さなくてもいいですよ。元気ないみたいだから、気になっただけ」

「別にムリってわけじゃないよ、……それに、そうだ、聞いてもらったほうがいいかも」
「そうですか? ナオさんの気が晴れるなら、どんな惚気でも付き合いますけどね」
「ノロケじゃないよー」

 ナオは拗ねたように唇を尖らせた。そんなナオが可愛らしくてたまらず、レイは口元を綻ばせる。
 テーブルに所狭しと並んだ空の皿に視線を落として、ナオは小さく話し出した。
 
「……臣さんさ、こないだっからヘンなんだ。僕のこと、なんか、……避けてるっていうか……遠ざけようとしてる、ような気がするんだ。ケータイのこととか、なんにも言わなくなったし……メール来ても全然、気にしないし……今日だって、誰と会うとか訊かないで、出かけるって言っても、ああ、って……ああ、そうか、って……」

「今までヤキモチ焼いてくれるのが嬉しかったのに、そうじゃなくなったから淋しいってことですか?」
「そんなんじゃないけどさー……」
 そんなんなのだろう。レイは視線を泳がせるナオを眺めた。

 これだから、ヘヴンのオーナー ─── 成沢には勝てない、と思う。ナオは恋人と他人とで表す態度を露骨に変えたりしない人間だが、 ─── 二人きりの時は別なのだろうけど ─── それは要するに体面を気にして格好を付けているだけで、結局のところあのオーナーにメロメロに恋をしている。
 
 ちぇ、とレイは心の中で舌打ちをした。
 損な役回りではあるけれど、仕方がない。何より自分が、ナオの浮かない顔を見たくない。
「……大丈夫ですよ。あのオーナーが心変わりなんて、ありえない」

「ありえない、なんて……」
 どうして判るの? とナオは小さく訊く。不安な気持ちを表に出すのがみっともない、と思っているのだろう。
 レイは安心させるように微笑んだ。

「だってただの友達でしかない俺にまで嫉妬してるでしょう。あの人。ちょっとヘヴンで俺と話しただけで目の色変えちゃって。俺のメール、ケータイ取り上げられて消されたんでしょう、ナオさん」
 
 それはほんの二週間ほど前のことだった。たゆまぬ努力の一環で、ナオを食事に誘うべく、ウザいと思われない程度に何回かメールを送ってみたりしたレイの下心を感知したのか、ものの見事にそのお誘いメールはナオの恋人に見つかり、あえなく消去される、という事件が起きた。
 
「びっくりしましたよ、メール消された、ごめん、って返って来た時には」
 いや、本当はあのオーナーならやりかねない、と思ったけど。レイは心の中で呟き、その時のことを反芻する。
 
 それが元でナオとその恋人は軽いケンカになったそうだが、犬も食わないというアレで、結局は前以上にラブラブになったらしい。面白くもなんともない。
 ナオに本心を悟られないようにレイはにっこりと笑った。

「あの人、ナオさんのことマジなんですね。メールひとつでそんなに慌てるなんて。……こんなに想われてるのにその気持ちを疑うなんて、あんまりだと思いますけど」
「……そうかなあ……? そう言われたら、そうかもしんないけど……」
 
「オーナーだってそろそろナオさんが自分のものだって判って来たんじゃないですか? だから、ダレと会っても構わないって」
「……自分のものって……」
 ナオはそばかすのある白い頬を赤らめた。そんなナオの恥ずかしそうな顔を見るたびに、レイは、ああチクショウ、と思う。

 恋人とのことを冷やかされたナオが自分に見せるその表情は、半端なく可愛い。しかし、その表情は冷やかされた恋人のものなのだ。
 もし自分が ───。
 
 その恋人になりたいと思って行動したら。
 
 レイは心の中でため息を吐いた。戸惑ったナオが自分から離れていくことは判り切っていた。
 ナオが恋をしているのはヘヴンのオーナーであって、自分ではない。

「……そうですよ。ナオさんはオーナーのものでしょう」
 心も身体も。全部。
(ナオさんはあのひとのものになりたい、と思っている)
 自虐的だなあ、と判っていながら、レイはその考えを胸の中で噛みしめた。
 
「……僕は、臣さんのものかもしんないけど」
 おずおずと言い出したナオに、ほらみろ、とレイは苦笑した。まったく俺の入り込む隙なんてない。
 好きな相手が、他の男のことを心の底から想うのを目の当たりにするのはいっそ清々しかった。
 
 そんな悟りを開いたかのように穏やかなレイを、思い詰めた目で見て、ナオは口を開いた。
「臣さんが、僕だけとは限らないだろ」
 
「ナオさんだけじゃなかったらダレがいるっていうんです?」
「……レイ、とか」
「マジですか。やめてください」
 
 ……どうして。どうして、俺とアレがどうかなってると思うんだっ?
 レイは肩を落として、今度は心の中でなく、現実にため息を吐いた。
 
「本当に、ほんっとーにやめてください。俺とあのひとがどうとか想像もしないでください。マジで」
「だって、だってさあ、レイってキレイだし、なんか雰囲気あるし、臣さんがレイのメール気にするのってそういう」
「違いますっ!」
 
 ナオさんに綺麗とか雰囲気ある ─── 多分その雰囲気はナオさんに対する気持ちだろうけど ─── とか言われるのは、気にされてるみたいで正直嬉しい。嬉しい、けど。
(あの男と俺がデキてるとか思われるのは死んでもいやだ!)
 錯乱しそうなる気持ちを抑えながらレイは冷静に言った。
 
「絶対違います死んでも違いますそんな誤解されるくらいなら死んだ方がマシです」
「……そこまで言わなくても……」
 
 そこまで言うほどのことだ、とレイは苦笑いするナオに面白くない顔を向けた。─── 大好きな臣さんの気持ちが離れてしまったのかもしれない、という不安で、想像力がおかしな方向へ働いたのだろうが、それにしてもあんまりではないだろうか。

(……あーあ。なんで俺、このひとのこと好きなんだろうな……)
 カレシいるのに。俺なんて弟ぐらいにしか思われてないのに。小さいし、顔なんかも小作りだし、華奢で細くて乱暴になんか扱えない感じで、でも芯が強くて、他人の気持ちに寄り添うようなとこあるくせに俺の気持ちには鈍感で。

(……やっぱり好きだなあ……)
 冗談でもいいからいっぺんチュウさしてくんないかな。百歩譲って抱きしめるだけでもいいや。……千歩譲って手ェ繋ぐだけでも……。
(……て中学生か、俺……)
 
 つい自嘲気味に笑ってしまったレイに、ナオはほっとしたような笑みを向けた。
「……怒ってないよね? レイ」
「怒ってませんよ」
 要するに、ナオはヘヴンのオーナーのことが大好きだ、というだけなのだから。レイは自分の気持ちなどおくびにも出さず、席を立った。

「アイスコーヒーでいいですか。取ってきます」
「あ、うん」
 二人分のコーヒーを手に戻ってきた時には、次の客を入れる為にテーブルの上がすっかり片付いていた。

 席に座ってからレイは肩を竦めた。
「やっぱり落ち着きませんね」
「まあねー、こういうとこだからね。ゴハン美味しかったからなんでもいいいけど、……もう出る?」
「そうですね、……映画でも、どうですか?」

「うん。いいよ。なに観る? 観たいのある?」
 ……ほらこうやって断らないところが期待させるんだよな、とくったくなく微笑むナオから目を逸らして、レイはストローに口を付けた。
 
 
 
 
       

      目次第3話
  

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