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ヘヴンズブルー2:第6話

  
 午後十時五十五分。いつものコンビニに入ったナオは、店内をぶらりと見て回り、窓際のマガジンコーナーに向かった。バイク雑誌を手に取って、目を通す。
 ちらりと窓ガラスの向こう側を気にする。

 何度もナオの視線は雑誌と窓ガラスを往復し、十分も経った頃。
 ナオは慌てたように着ていたパーカーベストのフードを目深に被った。見ていた雑誌をラックに戻し、隣のファッション雑誌を手に取る。窓の外から隠れるように顔を伏せた。

 窓ガラスの向こう側、車の止まっていない駐車場を隔ててスーツ姿の男が歩いていく。よどみない歩行はコンビニの店内など気にも留めず、立ち止まる気配もない。ナオはこっそりと目を上げて、コンビニから漏れる明かりに照らされた彼の端正な横顔が過ぎていくのを見ていた。

 ……コンビニの窓の端まで辿りついた彼の姿が、ナオの視界から消える。
 詰めていた息をゆっくりと吐き出し、ナオは少しだけ微笑む。フードを脱いで雑誌を元の場所に置き、明日の朝食のパンと紙パック飲料を買って外に出た。

 彼の姿はもう既にない。それでも、ナオは彼が消えた方向を気にしながら、反対方向にコンビニの駐車場を横切る。
 不意にナオの前に黒いスーツの男が現れた。

 夜の暗がりからふっと抜け出てきたような男を目にして、ナオは立ち竦む。
 驚いて声も出ないナオの前まで男は歩いてくる。─── 細い目に険しさを宿らせた黒川だった。

「……ここで何を?」
 硬い声で質問され、ナオは俯くしかない。答えないナオに黒川は低く訊ねた。

「……まさか、和臣様を待ち伏せていたわけではないですよね」
「……」
「……そうなんですか?」

 声を失ったかのように言葉が出てこない。ナオは焦って、俯けた頭を横に強く振った。
 態度で否定を示したナオに黒川は冷やかに告げた。
 
「二、三日前からここに来ていらっしゃいますね。─── 私が関知する以前からこういうことを?」
 この時間、このコンビニに自分が訪れるのが今回だけではないことを、黒川は知っている。それに気付き、いくら頭を横に振っても無駄だということをナオは悟った。

 黒川はつけつけと ─── 最初に会った頃の、遠慮があった時とは別人のように口調を尖らせた。
「こういうことをなされると、非常に困ります。和臣様の周辺に近寄らないで下さい、とお願い申し上げたはずです。こっそり様子を窺うなんてまるでストーカーだ」

 ストーカー、という言葉にすっとナオの顔色が青ざめる。
「……僕……あの……」
 視線を足元にさまよわせながら、ナオはおずおずと口を開いた。
 
「……そんなつもりじゃなくて……臣さ……成沢さんがどうしてるか、気に……気になって……それだけ……」
「それをストーカーと言うんですよ、世間では」
「……」

 黒川の断罪にナオは反駁出来ず、自分のスニーカーのつま先を見つめた。コンビニからの明かりが白々しく駐車場に敷かれたラインを浮かび上がらせる。
 
 うな垂れるナオの髪の毛を黙って十秒は見下ろしていた黒川が、ふいに口を開いた。
「……和臣様のご結婚が決まりました」
「……」

 ナオは驚いたが、表情にも声にも出さず、ただ俯いている。
「結納の日取りもすぐに決まる手筈になっています。……あなたにこうして付きまとわれては困るんですよ。そんなに諦められませんか、あの方のことが」

 吐き捨てるような黒川の言葉に、頬が熱くなっていく。……道に外れていると判っていた想いをあからさまに蔑まれ、ナオは目に涙を滲ませた。

「迷惑だということが判らないんですか?」
「……」

「想っているのはあなたの方だけなんですよ。和臣様はすでにもう、婚約者の女性に心を移していらっしゃる。……それとも、お金目当てということなら」
 黒川は財布を取り出し、中身を抜き取ろうとする。

 それを目にすると、ナオは踵を返して走り出した。レイのアパートとは反対の方向だったが、構わない。
 黒川は追っては来なかった。

 

 

  
  

 なんの前触れもなくいきなり玄関のドアが開いた。その勢いに驚き、寝転んでいたベッドから顔を覗かせたレイは、閉められたドアに凭れかかっているナオを見つける。
「……ナオさん?」
 
 声をかけてもナオは俯いたまま、身動ぎもしない。いつもの「夜の散歩」とは違い、様子がおかしいことに気付いたレイはベッドを降りて、ナオのそばに近づいた。
「どうしたんですか?」

「あ、……」
 初めてレイに気付いたようにナオは、はっと顔を上げた。─── その目が赤く、潤んでいた。
「ナオさ……」
「なんでもない」

 顔を伏せて、レイの傍らを足早に駆け抜ける。その足がもつれたようにラグの上に座り込んだ。
 投げ出される格好になったコンビニの袋から、パンの包みとジュースの紙パックがこぼれる。ナオはがさがさと音を立てて、それらを袋に戻した。
 
 そんなナオのそばにしゃがみ込みながら、レイはその顔を覗き込んだ。
「どうしたんですか、ナオさん。何かあっ……」
「なんでもないって」
「……なんでもなくないじゃないですか!」
 
 思わずレイは声を荒げた。……ぼんやりとしたナオの瞳に涙が浮かんでいた。
「この前だってそうだ。なんでなんにも言ってくんないんですか? 俺が年下で頼りにならないからですか!?」
「ちが……違うよ、レイは僕よりずっとしっかりしてるし、落ち着いてるし、だから……」
 
「だから!?」
「……こういうの、みっともないと思うから……」
「みっともなくてなんで悪いんですか! ちゃんと話してくれなきゃ判らない……!」

 レイはぐっと握りこぶしを作った。─── あの男のマンションを出てきた時も、そうだった。こっちから電話をしなければナオはレイにその事実を報せなかっただろうし、また駆け付けたレイが事実を知っても、感情を露わにすることはなかった。
 
 公園にひとりで佇み、なんでもないように笑ってみせたあの時。あの時と同じように今もまたナオは、なんでもないと言い張ろうとしている。
 自分には、感情を表に出したナオを知るその権利さえないのか、とレイは歯がゆい思いで唇を噛みしめた。
 
「……どうして俺には本当のこと、言ってくれないんですか……!」
「……」
 ナオはレイの言葉に目を伏せる。その拍子に涙が、ジーンズに覆われた膝の上にぽつんと落ちた。
 
「……すぐ ───……」
「え?……」
「……すぐ、なんでもなくなると思ってたんだ。元々、臣さんが僕のこと好きになってくれるわけないんだから、……こんなの、大したことないって……前に戻るだけだ、って……なのに……」

「……ナオさん」
「……きなんだ」
 ナオの声は掠れていた。歯止めが利かなくなったように、言葉がその唇から次々にこぼれ落ちる。

「臣さんが好きなんだ。あいたくて、顔見たくて、ちょっとでもいいから見たくて、臣さんがいつも通る、コンビニの中で待ってて、窓からそと見て、…毎日、あいたくて、どうしようもなくて、話したりできないけど、それでも、気になって、あいたくて、……」

 ふっと新たな涙を浮かべたナオは、ぼう然とレイを見つめる。
「さっき、黒川さんに見つかって、ストーカーだって……迷惑だから、付きまとうのやめて下さいって……僕、ただ、ちょっとだけ、顔見たくて……付きまとったりとか、そんなんじゃなくて……」

「……ナオさん」
 切ないナオの言葉がレイの胸に沁みこんでくる。─── 不自然なほどそわそわしてナオが夜の散歩に出かける理由はそれだったのか、と合点がいく。コンビニの中でこっそり待っていたとしても、同じ時間、同じようにあの男が窓の外を通る可能性はそれほど高くはなかったはずだ。それでも、一目見たさにナオは毎日、待っていた。

 声をかけることはおろか、見つかってもいけないというのに。
 そんなほんの少しのあの男を想う気持ちも黒川に否定され、逃げるようにナオは戻ってきたのだ……。
 
 ナオは目に涙をためたまま、笑顔を作ろうと口角を上げた。
「……ぼく……付きまとってたのかな……? どうしよう……迷惑、だったよね?……」
 すぐにこぼれた涙にその笑みはかき消され、泣き顔に取って代わる。

「……どうしよう……臣さんのこと、こんなに、……好きになっ……」
 どうしよう、と涙声でナオはもう一度言った。

「……ナオさん」
「ごめん……こんな、みっともなくて、ごめん……」
 腕で顔を隠したナオの頭を抱えるようにレイは抱きしめる。
 ナオは声を殺して泣き続けた。

      
 

       

       目次第7話

  

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コメント

ナオが意地らしくて涙しちゃいました。
黒川さんひどい・・・ストーカーだなんて~
あなたの仕事なのかもしれないけど・・・
でもナオみたいな性格の子大好きなんです。
早く更新ないかなって毎日楽しみにしています。

八月>コメントありがとうございます(o^-^o) ナオが可哀想でごめんなさい……そういったコメントを結構頂くので、申し訳ない気持ちで一杯です。でも、皆さんがナオのことを思って下さってるんだなあ、と思うと大変嬉しいですヽ(´▽`)/

黒川さんはそれがお仕事なので仕方ないですね……ここはひとつレイに頑張ってもらう、ということで。いや、カラダで慰める、とかいうことじゃないですよ!(←言ってない、ダレも(^-^;)

週一更新で申し訳ないのですが、次回もよろしくお願いします。o(_ _)oペコッ

 

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