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2011年2月

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ヘヴン2第8話更新

 ヘヴン2第8話更新しました。

 ええと、書くことがないですね……更新するとその記事が最新記事となってニフティのブログ広場を飾ってしまうので、それを流そうと思って「更新しました」記事を毎回UPしてるのですが(だって日常生活の心温まるほのぼのブログとかならともかく……(@Д@;)何も話題がないこともしばしば。

 うーん、あ、3月18日(トップページ日付)がブログを立ち上げた記念日ということにしているのですが、なんとその日、長男の卒業式です。偶然にもΣ(゚д゚;)

 そんなこともあるんだなあ……というか、それくらいしか話題がないって┐(´д`)┌ヤレヤレ

  
                                  

ヘヴンズブルー2:第8話

 
 半ば押し出されるような形でレイのアパートを出たナオは、覚束ない足取りで路地を歩いていた。
 アスファルトに映った濃い影が、迷っているように少し歩いては歩調を緩め、アパートを振り返る。
 レイが自分に吸わない煙草を買いに行かせたわけは、判っていた。ヘヴンに、和臣が待っている場所に自分を向わせるためだ。
 
 その約束も、自分のためにレイが取り付けてくれたのだろう。なんと言って取り付けたのか……レイが自分にとって不利なことを言うはずがないから、きっと、綺麗にまとめてくれたに違いない。
 そう考え、レイに感謝する気持ちももちろんあったが、足を進めるうちに、和臣のことがナオの心の大半を占めていった。

(臣さん)
 会いたい。……会える。
 このまま道なりにいって右手に曲がり、横断歩道を渡って左に曲がれば、……すぐ。
 周りの人波も、レイと暮らす間に見慣れた風景も、視界に入らず行き過ぎる。夏の日差しの中、ナオの足は自然と駆け出していた。
 
 階段を足早に下りたナオはその勢いのまま、ヘヴンズブルーのドアを押し開けた。
 店内はひんやりと空調が効いていて、薄暗かった。元々、照明の明るさは落としてある店ではあるが、それでも暗い。店の一角にしか照明が点いていないことにナオは気付いた。

 その一角に ─── 。
 和臣がいた。いつも座るカウンター席ではなく、テーブル席に着いている。はっとしたように見開かれた目がこちらを向いていた。

 いつものブランド物のスーツにネクタイ姿の彼だったが、ほんの少し、やつれたように感じる。コンビニの中で外を通る彼を盗み見ていた時より、正面から目にするせいか、それは顕著だった。
 目を離せなくなる前にナオは視線を逸らした。─── 和臣と自分は、もうなんでもないのだ。もう、心配する必要はない。……心配してはいけない。

 ナオは自分の息が上がっていることに気付き、整えようと深呼吸した。走ったせいで汗も掻いている。何気なさを装って手の甲で額の汗を拭った。─── 和臣に会いたくて、会いたくて、駆けて来てしまったことを知られたくない。
 和臣には、迷惑なことだろうから。

「……」
 その考えにナオは目を伏せ、おずおずとテーブルに近付く。和臣と向かい合った席に座り、目を伏せたまま対峙した時には、すでに身の置き所がないような気持ちになっていた。
「……ナオ」

 和臣が、呼ぶ。
 その声にどうしようもなく引き寄せられる。何度も、何度も、自分を呼んだその声。その呼び方。
 ナオはごくんと喉を鳴らし、落ち着け、と自分に言い聞かせて、大きく息を吐いた。
「あ、……えーと」

「黒川が何を言ったか知らないが」
 ナオが口を開いたのと同時だった。和臣の掠れた声が唐突に薄暗い店内に響く。
「……お前を縛り付けるつもりは、その、ないから……自由に……」
 
 歯切れの悪い和臣の言葉を聞いてナオは頭の中が真っ白になった。─── 和臣はやはり黒川と繋がっていて、彼から何かを聞かされたのだ。

(当たり前だ。黒川さんが話したっておかしくない。……こないだの、夜の……)
 みるみる赤くなっていく顔をナオは伏せた。
「あ……あ……あの……コンビニで……黒川さんに会ったのは……」

「……コンビニ?」
 和臣の表情が不審そうに曇る。
「……その……偶然……偶然、臣さ……成沢さんのマンションの近くの、コンビニで……ほんとに、偶然……」
 小さなナオの声が尻すぼみに消えていく。

 しん、と静寂が訪れる。ナオはその静けさに耐えられず、無理やりに話を続けた。
「ご……ご結婚、おめでとうございます。あの……く、黒川さんに聞いて……こないだ、コンビニで会ったとき……結納、とか、もうすぐだって……」

「───」
 和臣の顔色がすっと変わった。まるで、何を言ったらいいのか判らない、というように息を詰めている。

「……あの……だから、僕……邪魔とかするつもりじゃなくて……迷惑かけたり、とか……そんなんじゃなくて……僕がいないほうがいい、って、判ってるし……」
 また、ナオの声はだんだん小さくなり消えた。和臣は言葉を失ったように黙り込んでいる。
 
(どうしよう)
 黒川は、和臣になんと言ったのだろう。待ち伏せしてこっそりと和臣の姿を眺めていた ─── 迷惑な、ストーカー。ただ見ていただけでも、和臣にしてみれば気味が悪かったに違いない。
 無言の和臣に気圧され、言い訳が口を突いた。
 
「……黒川さんにも言われたんだけど、あの、付きまとうのはやめて下さいって、……あの、僕、そんなつもりじゃなくて、ただ、な、成沢さんのこと、気になって、……元気にしてるかなって、ちょっと、顔見たくて……す、少しだけ、顔見るだけって……会ったりとか、しないし、しゃべったり、出来なくても、ちょっとだけ、顔見れたらって……」
 
 言いながらナオの頬に血が昇っていく。こんな言い訳は逆効果だ、と遅ればせながら気が付いた。和臣はきっと気持ち悪いと思っているに違いない。とても顔が上げられない。

 見慣れた店のテーブルがぼやけてくる。和臣にそれが気付かれないよう、ずっとテーブルの一点を見続けた。
「……だから、あの、コンビニで、成沢さんが通るかもしれないって……見たり、したのは……悪気、あったんじゃなくて……迷惑、とか、かけるつもりじゃなくて……」

 ─── いつから、こんなに好きになっていたのだろう、とナオは考える。待ち伏せたことをしどろもどろで弁解し、和臣の気持ちをなんとか取り成そうと必死になり……。
 そんなことをしても無駄だ、と判るのに時間はかからない。

「……ごめんなさい……」
 ナオは頭を下げた。結婚が決まった和臣が、自分に会いたがる理由。……会いたい一心で駆けてきてしまったが、よくよく考えてみれば。

「……もう、そんなことしない」
 和臣は自分の口からこの言葉が聞きたくて、聞いて安心したくて、仕方なく会うことにしたのだろう。
「付きまとったりしない。ごめんなさい。もう、そんなことしません。……もう会いに行ったりしないから」

 ナオは声が震えないように、ゆっくりと穏やかに言った。
「だから、安心して ─── ……」
 ガタン、と椅子が鳴った。突然、和臣が立ち上がったのだ。

 涙を滲ませた目でナオはぼんやりと和臣を見上げる。和臣はギリギリと歯の軋る音が聞こえそうな形相でナオを睨んでいた。
 
 すうっとナオの顔から血の気が引いていく。─── 和臣を怒らせた、と気付いた。
「─── 臣さ……」
 ずかずかとテーブルを回ってきた和臣はナオの腕を掴んだ。

「ご、ごめ……ごめんなさい、あの、僕」
 何か言い訳を、と考える間もなくナオは無理やり立たされる。そのまま腕を引かれ、強い力でドアの外へ連れ出された。

「待って、ちゃんと謝るから、もう二度と付きまとったりしないからっ……」
 悲鳴のような自分の声が狭く薄暗い階段に反響する。そのことでナオの恐怖は募り、段差に足がもつれた。
 それでも和臣は振り返りもしない。

 階段を上がって路地に出ても和臣はナオの腕を離さず、大通りに向かった。
 道を行き交うたくさんの人が、和臣に腕を引かれたナオを好奇の視線で見つめる。それに耐えられず、ナオは消え入りたいような気持で目を伏せた。

 車道から熱い空気が吹き付けてくる。
 不意に立ち止まった和臣は、ちょうど客を下ろしてドアが開いたままだったタクシーにナオを押し込み、自身も乗り込んだ。
「……臣さん、話聞い……」

「黙ってろ」
 口を開きかけたナオを遮ったのは、和臣の硬い声だった。その声のまま、行き先をドライバーに告げる。今まで聞いたことのない和臣の冷たい口調に、ナオは何も考えられず、目的地を聞き逃した。

 和臣を激昂させてしまったショックでぼう然としているナオを乗せて、タクシーは走り出した。

   

       

      目次第9話
  

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第7話へのコメントとレスです♪

 いつも、たくさんの拍手やコメントありがとうございますo(_ _)oペコッ 

 親戚に法事があって新幹線で東京に行ったらすごい疲れました…このご老体で礼装一式運ぶのはちょっとムリが(;´д`)トホホ…

 

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コメレスです(*^-^)

 いつもたくさんの拍手ありがとうございます♪o(_ _)oペコッ コメレスです↓

 

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ヘヴン2第7話更新

 ヘヴン2第7話更新しました~。

 

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ヘヴンズブルー2:第7話

  
 次の日もナオの態度は今までと変わらなかった。
 レイのアパートにやってきてからと同じ、明るく話し、くったくなく笑う。昨夜のことなど微塵も感じさせないそんなナオの様子は、返ってレイの目には不自然に映った。

 無理をしている。
 それがもっともよく感じられるのは、夜の十一時前、ナオがいつもの夜の散歩に出かけていた時刻になった頃だった。
 
「よし、もう寝ようかな」
 言って立ち上がったナオは、最初から出かけるつもりがなかったようにもう風呂を済ませていた。ローテーブルを一人でずらし、レイのベッドの隣にタオルケットを敷き始める。 

「……」
 レイは黙ったままその様子をただ見つめていた。ナオがどんな想いをしているのか、判ってしまっていた。
 
 ナオの本当の気持ちが知りたい、と望んだのは自分だ。一生懸命ナオが隠し、取り繕うとした心を暴き、自分の前に晒させた。そのことに後悔はない。
 しかし、それは同時にナオの気持ちを、ナオがあの男を想う痛々しいまでの気持ちを共有することに他ならなかった。

「おやすみー、……」
 軽く笑ってタオルケットに潜りこんだナオにかける言葉もなく、レイは一緒に観ていたTVを消した。

 

 

 

 
 レイがヘヴンズブルーに電話をしたのはナオの為ではない。ただ、この憤りを直接本人にぶつけてやろうと思っただけだった。
「牧田さん、オーナーに話あるんでケー番教えて下さい」
『……レイくん』

 送話口の向こうで牧田は押し黙る。その様子で、ナオがあの男の元を離れたことを知っている、と知れた。案の定、
『よかった、電話くれて。……ナオくん、きみのとこにいるんだろう』
 と、訊いてくる。
 
 ナオは買い物に出ていていなかった。一人きりの部屋を見渡して、レイは白々しく答える。
「……ナオさんはオーナーのマンションにいるんじゃないですか?」
『そういう意地の悪いこと言わないで、……」
 
 声を潜めた牧田の懇願にレイは折れて、ため息を吐いた。
「……うちにいますけど」
『そう、……そうだと思ってた。レイくんのとこなら大丈夫だって』
「うちが一番ヤバいんじゃないですか? オオカミの家に転がりこんだヒツジも同然。毎晩優しく慰めたりして」

『……なんにもしてないんじゃない? レイくん』
「なんで判っ……」
 鋭い牧田の指摘に肯定しかけて口を噤む。レイの言葉を聞き逃さず、牧田は訳知り口調で続けた。
『……やっぱりね。きみはナオくんに弱いから。……弱っているあの子につけこんだり出来ない。そうだろう』
 ちぇっとレイは舌打ちした。

「なんでも知ってるんですね。俺、牧田さんのそういうとこキライだなー」
『悪かったね』
「でも、誤解のないよう言っときますけど、弱ってるナオさんにつけこみたくない、とかそんなキレイごとじゃないですから。単に気が乗らなかっただけ」

『……だんだん、レイくんの本性が純粋で純情だってことが判ってきたよ』
「ちょっとー! 切りますよ!?」
 笑いを含んだ牧田の暴言に携帯電話の電源ボタンを押しかける。引き留めたのはその牧田の声だった。

『うちのオーナーに、ナオくんを返してやってくれないか』
 思わずレイはむっとして唇を引き結んだ。
「……まるで俺が、ナオさんを無理やり拉致ったみたいな言い方だ」
『気を悪くしたなら謝る。きみのせいじゃないって判ってるよ。……一緒に暮らして、どう』

 どうって、とレイはここ数日に思いを馳せる。─── ナオはいつだってあの男のことを想っていた。一緒に買い物に行く時も、食事を作ってくれる時も、食べる時も、掃除をしていても、眠っている時も。
 うちへ来てから全くあの男のことを話さず、考えてもいないような顔をしていて、それでもナオはずっと。

「……」
 それがはっきりと露呈したのはあの夜だ。ナオは、こんなに好きになってた、と泣いた……。

『─── ナオくんはきみのこと、少しでもちゃんと見てくれた?』
「……見てるに決まってるでしょう。毎日、目の前にいて」
『そういうことじゃなくて。……視界に入れてくれたかってことだよ』

 ナオが ───。
 自分のことを全く想っていないのは初めから判っていた。というより、ナオの心を占めていたのは、親しくなった当初からあの男だった。
(……俺がどうこうじゃなくて、結局、ナオさんはあのひとしか好きじゃないんだもんなあ……)

「……ナオさんが俺なんて眼中にないってことはとっくの昔に判ってますよ」
『……』
「黙んないで下さい。訊いたくせに。可哀想だと思ってるんでしょう。……でもこんなカワイソーな俺にも怒る権利ってものがあるんですよ、ナオさんのことを好きでいる限り」

 レイはナオの身に何が起きたのか、すべてを牧田に話した。成沢の秘書を名乗る黒川という男が現れたこと、手切れ金を渡されたこと、黒川によって手酷くナオが傷付けられたこと、それでもナオは和臣を想っているということ……。

『─── 黒川さんが』
「知ってるんですか」
 黒川を知っているらしい牧田の口振りに、声が冷える。レイの声の温度が下がったのを察した牧田は、弁解するように続けた。

『……知ってるよ。時々、オーナーが来ないような早い時間を狙って店の様子を見に来る。多分、御大の……オーナーの父上の命令だろうね。ナオくんのことは自然に知ったんだと思うけど……』
「そんなことどうだっていい」
 牧田が黒川を知っていた、という事実に、味方に裏切られたような思いがした。かっとなったレイは声を荒げる。

「あのひとは自分のことでナオさんが嫌な目に遭わなくて済むように、ちゃんと見ている義務があったんだ。それなのに、見てなかった。守らなかった。ナオさんを傷つけて泣かせた。─── そんな奴にナオさんを返すわけにはいかない」

『……レイくん。黒川さんのことが本当なら』
「本当のことですよ」
『……本当のことなら、なおさら、あのひとにナオくんを返してくれないか。会わせてくれるだけでもいい』

 多分、あのひとは黒川さんとナオくんが接触していることを知らない、と牧田はゆっくりと言った。
『オーナーは、ナオくんに愛想を尽かされたって……見た目じゃ判らないけど、ひどく落ち込んで。……しつこくし過ぎて逃げられた、なんて軽く言ってたけど、あんまり食事も摂ってないみたいなんだよ……』

 煙草を咥えた精悍な男が落ち込んでいる様は、レイには想像し難かった。代わりに傲岸不遜な表情ばかり脳裏に浮かぶ。
 ただ、牧田の言うとおり、黒川の一連の動きは和臣の知らないところで起こったのではないか、という気はしていた。

「……俺に同情しろって言うんですか。権力者のお偉い親父さんが人を使って勝手にやったことだって」
『そうは言ってないよ。……ナオくんを傷つけたのはあのひとの責任だ。あのひとが悪い。家が家なんだから、もっと気を配るべきだった。……せめてナオくんの前で、あのひとに謝罪する場を与えてやってくれないか』

「─── そう言われて、俺がふたりを会わせるとでも?」
『……それはレイくん次第だね。レイくんの家は知らないし……このケータイ番号も変えられたら連絡の付けようもない。きみがこのまま黙ってケータイ切って番号変えたら、二度とオーナーとナオくんは会えない。ナオくんが自分からオーナーのところに戻ってこない限りは』

「……あのひとの実家の迷惑になると思っているナオさんが、帰るわけない」
『そう。だから、きみ次第』

 状況は自分の方が有利なはずなのに、レイは牧田の冷静な口調に試されているような気がした。苛立ちが募り、知らない内に眉根にしわが寄る。三十秒もの沈黙の後、結局レイは渋々と返事をした。
「……判りました。会わせてあげてもいい」
 受話口の向こうから安堵のため息が聞こえた。

『……レイくんならそう言ってくれると思ってた』
「やめて下さい。俺はいい奴じゃない。あのふたりなんてダメになればいい」
『でも、ナオくんが泣くのは嫌なんだろう?』

「……イヤですよ」
 ナオの泣き顔や無理に笑う様子はとても見ていられない、とレイは思う。その思いだけはあまりにも確固として自分の中にあった。

「ナオさんが泣くのは、イヤです。……無理して笑ってるナオさんも。だからあの男に会わせる。……あの男の為じゃないってこと、よく覚えといて下さいよ」
『ありがとう、レイくん。……傷心の片思いの相手がそばにいるのに、指一本触れずに元の恋人に会わせるなんて、そういうとこ偉いよね』

「どうせヘタレですよー!」
 ちきしょう、とレイは胸の内で呟く。手ェ出したくたって、ナオの気持ちは残らずあの男のものなんだから仕方ないじゃないか!
  
『ヘタレなんて思ってないよ。いい子だなあ、って』
「子供扱いとかしないで下さい。で、いつどこにナオさん連れてったらいいんですか」
 とげとげしい声で訊いたレイに牧田はやんわりと答えた。
『そうだね、……じゃあ、明日の午後三時。この店で』
「明日、……」

 明日で、ナオがそばにいることもなくなるのか。急すぎる日時に、一瞬、心に空白が生まれる。
 レイの戸惑いを察したのか、牧田は窺うような声音で訊いた。
『……二、三日あとのほうがいい?』
「……いえ。明日で。……会ったってすぐ元のさやに納まるとは限らないですから」
 そうだね、と穏やかに肯定した牧田の声を聞いて電話を終えた。

 

 

  
 牧田には最後、悔し紛れにああ言ったものの、あの男と会えば、二度とナオが自分のところに戻って来ないのは判っていた。おそらく牧田も判っていたに違いない。それでも、優しさから否定しなかった牧田に感謝の念が湧く。

(なんだかんだ言って出来る秘書っぽいよな、あのひとも)
 オーナーに文句を言いたかっただけなのに、ナオと会わせることになってしまった。黒服なんてやっているのはもったいないんじゃないか、とレイはくすくすと笑った。

「なに、レイ、機嫌いいねー」
 ラグに寝転がって雑誌を捲っていたナオが不思議そうに見上げてくる。

 牧田と電話で話した次の日 ─── 約束の日だった。今日は大学も休みで、ふたりでのんびりとエアコンの効いたへやで過ごしていた。本当なら、このまましばらくはふたりでいられる日が続くはずだったけれど。

 アイスコーヒーのグラスを二つ、食卓にもしているローテーブルに置いたレイは、そのままフローリングの床の上に腰を下ろした。
「今日、三時にオーナーがヘヴンで待っているそうです」

 にっこりと笑って言ったレイに、ナオはぽかんと口を開けた顔を向けた。
「ナオさんに、会いたがってるって。牧田さんが心配してました」

「───……」
 ナオは息も出来なくなったように微動だにしない。しばらくそのままじっとしていたが、やがてそろそろと身を起こした。

「……」
「まだ二時だから、コーヒー飲んでからでも充分間に合いますよ?」
 膝の上の雑誌に目を落としたナオは頭を左右に振った。

「僕……行かない……」
 掠れた小さな声だった。頑なに俯いて、雑誌の上で拳を作る。
「……会ったら、迷惑になるし……ま、また、怒られちゃうから、……」

 最後をおどけた口調で言って、微かに笑う。そんなナオをじっと見つめて、レイは静かに言った。
「……あのひとが、待ってるんですよ」
「ん……でももう、いいんだ、……」
 
 笑みを浮かべたまま、ナオはグラスに手を伸ばす。一口、二口飲んで、またラグに寝そべり、雑誌を広げる。
 レイはテーブルの上に頬杖をついて、そんなナオを眺めた。

 ナオが、和臣と会いたがっていることが手に取るように判る。本当は、和臣の顔が見たくて、話して声が聞きたくて仕方がない。心が和臣のことでいっぱいなのが目に見えるようだった。
「ナオさん」

「なに?」
「煙草買ってきてもらえますか」
「?」

 レイは煙草を吸わない。それをよく知っているナオは訝しげな顔をした。
 そんなナオの様子に構わず、立ち上がったレイはボディバッグから財布を出してテーブルの上に千円札を載せた。

「いっこ……ひと箱って言うのかな。で、いいです」
「なんで?……」
「吸ってみたくなったから」
 
 ナオを使い走りにしようとするのがレイらしくなかった。
 その上、中学生のような好奇心を聞かされてナオはますます困惑したようだったが、それでも紙幣を手に立ち上がる。
 
「……何がいいの?」
「マルボロライト」
 ナオの目が見開かれる。……その銘柄の煙草を愛飲している男の姿を、思い出している、とレイには判っていた。

 柔らかく笑ったレイは、ナオの背中を玄関にそっと押しやった。
「それじゃお願いしますね。……行ってらっしゃい」
 二度と帰って来ないと知っていた。それでも、わざとそう言った。ナオは、自分と暮らしたこの僅かな時間を忘れないでいてくれるだろうか。

(……忘れられてもいいか。別に、なんてことないし)
 ナオの後ろ姿が消えたドアを見つめて、傍らの壁に寄りかかる。
 
 レイは悪くない、と言ったナオの声が耳に蘇る。何気ない仕草も。くったくなく笑った顔も。あの男を想って泣く姿も。……無理に笑うその表情も。
 何もかもが鮮明にレイの心の中に残っている。
 
 ……俺ってけっこう、正真正銘のバカかもしんない、と呟いた自分にレイはしばらくの間、気が付かなかった。 
  

     

     目次第8話
  

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拍手コメレス&二十五万アクセスo(_ _)oペコッ

 二十五万アクセスありがとうございますm(_ _)m゜.+:。(*´v`*)゜.+:。

 大変嬉しいです。あと一ヶ月くらいで二周年なのですが、それを前にこの大きなアクセス数\(^o^)/ 嬉しビックリです( Д) ゚ ゚

 

 ところでついこないだ、旦那さんに「ブログやってるんだ~」とカムアウト(いや、口を滑らせた)したのですが、

旦那「なんのブログ? 俺の悪口?」

八月「(そうだったらここまで隠さねえ(^-^;)……違うよー、お母さん(八月)のブログのネタは……家族じゃないし、自分じゃないし、ペットでも料理でも芸能人でもテレビ番組でも時事ネタでもない……」

旦那「……一体なんのブログやってんの?」

八月「……さあ……?」

 我ながら、さあ?って……。しかしそれ以外になんてすっとぼけたら良かったんでしょうか。ブログ名もハンドルネーム兼ペンネームも、教えませんとも、絶対に。(´-д-`)

 「俺の悪口の方がまだマシだった」そんなことを旦那さんが思う日がいつしか来るのでしょうか。…いや、なんとしても阻止しよう。それがお互いの為ってもんです…(^-^;

 

 たくさんの拍手ありがとうございます♪ コメレスです↓

 

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ヘヴン2第6話更新

 ヘヴン2の第6話更新しました。

 いつもたくさんの拍手ありがとうございますヽ(´▽`)/ 

 目次(ヘヴン2の)にあらすじをつけてみました。ヘヴン1から2までだいぶ間があっていろいろとあったので、さらりと「まあこんな具合」といったカンジのものを。

 きみの2の事件が引き金となってヘヴン2に至ってるわけですが、きっかけに過ぎないので、きみの2がなくてもいずれこんなことにはなったはず…いや、判りませんが(^-^;

 というわけで、きみの2を読んで頂くには及びません、さほど……。小ネタでin heaven…とか、息も…とかも挟まってますが、それも「そんなことがあった」程度で。

 いろいろと言い訳してしまいましたが、あらすじを書くのは相変わらず苦手です……(;´д`)トホホ…

                           

ヘヴンズブルー2:第6話

  
 午後十時五十五分。いつものコンビニに入ったナオは、店内をぶらりと見て回り、窓際のマガジンコーナーに向かった。バイク雑誌を手に取って、目を通す。
 ちらりと窓ガラスの向こう側を気にする。

 何度もナオの視線は雑誌と窓ガラスを往復し、十分も経った頃。
 ナオは慌てたように着ていたパーカーベストのフードを目深に被った。見ていた雑誌をラックに戻し、隣のファッション雑誌を手に取る。窓の外から隠れるように顔を伏せた。

 窓ガラスの向こう側、車の止まっていない駐車場を隔ててスーツ姿の男が歩いていく。よどみない歩行はコンビニの店内など気にも留めず、立ち止まる気配もない。ナオはこっそりと目を上げて、コンビニから漏れる明かりに照らされた彼の端正な横顔が過ぎていくのを見ていた。

 ……コンビニの窓の端まで辿りついた彼の姿が、ナオの視界から消える。
 詰めていた息をゆっくりと吐き出し、ナオは少しだけ微笑む。フードを脱いで雑誌を元の場所に置き、明日の朝食のパンと紙パック飲料を買って外に出た。

 彼の姿はもう既にない。それでも、ナオは彼が消えた方向を気にしながら、反対方向にコンビニの駐車場を横切る。
 不意にナオの前に黒いスーツの男が現れた。

 夜の暗がりからふっと抜け出てきたような男を目にして、ナオは立ち竦む。
 驚いて声も出ないナオの前まで男は歩いてくる。─── 細い目に険しさを宿らせた黒川だった。

「……ここで何を?」
 硬い声で質問され、ナオは俯くしかない。答えないナオに黒川は低く訊ねた。

「……まさか、和臣様を待ち伏せていたわけではないですよね」
「……」
「……そうなんですか?」

 声を失ったかのように言葉が出てこない。ナオは焦って、俯けた頭を横に強く振った。
 態度で否定を示したナオに黒川は冷やかに告げた。
 
「二、三日前からここに来ていらっしゃいますね。─── 私が関知する以前からこういうことを?」
 この時間、このコンビニに自分が訪れるのが今回だけではないことを、黒川は知っている。それに気付き、いくら頭を横に振っても無駄だということをナオは悟った。

 黒川はつけつけと ─── 最初に会った頃の、遠慮があった時とは別人のように口調を尖らせた。
「こういうことをなされると、非常に困ります。和臣様の周辺に近寄らないで下さい、とお願い申し上げたはずです。こっそり様子を窺うなんてまるでストーカーだ」

 ストーカー、という言葉にすっとナオの顔色が青ざめる。
「……僕……あの……」
 視線を足元にさまよわせながら、ナオはおずおずと口を開いた。
 
「……そんなつもりじゃなくて……臣さ……成沢さんがどうしてるか、気に……気になって……それだけ……」
「それをストーカーと言うんですよ、世間では」
「……」

 黒川の断罪にナオは反駁出来ず、自分のスニーカーのつま先を見つめた。コンビニからの明かりが白々しく駐車場に敷かれたラインを浮かび上がらせる。
 
 うな垂れるナオの髪の毛を黙って十秒は見下ろしていた黒川が、ふいに口を開いた。
「……和臣様のご結婚が決まりました」
「……」

 ナオは驚いたが、表情にも声にも出さず、ただ俯いている。
「結納の日取りもすぐに決まる手筈になっています。……あなたにこうして付きまとわれては困るんですよ。そんなに諦められませんか、あの方のことが」

 吐き捨てるような黒川の言葉に、頬が熱くなっていく。……道に外れていると判っていた想いをあからさまに蔑まれ、ナオは目に涙を滲ませた。

「迷惑だということが判らないんですか?」
「……」

「想っているのはあなたの方だけなんですよ。和臣様はすでにもう、婚約者の女性に心を移していらっしゃる。……それとも、お金目当てということなら」
 黒川は財布を取り出し、中身を抜き取ろうとする。

 それを目にすると、ナオは踵を返して走り出した。レイのアパートとは反対の方向だったが、構わない。
 黒川は追っては来なかった。

 

 

  
  

 なんの前触れもなくいきなり玄関のドアが開いた。その勢いに驚き、寝転んでいたベッドから顔を覗かせたレイは、閉められたドアに凭れかかっているナオを見つける。
「……ナオさん?」
 
 声をかけてもナオは俯いたまま、身動ぎもしない。いつもの「夜の散歩」とは違い、様子がおかしいことに気付いたレイはベッドを降りて、ナオのそばに近づいた。
「どうしたんですか?」

「あ、……」
 初めてレイに気付いたようにナオは、はっと顔を上げた。─── その目が赤く、潤んでいた。
「ナオさ……」
「なんでもない」

 顔を伏せて、レイの傍らを足早に駆け抜ける。その足がもつれたようにラグの上に座り込んだ。
 投げ出される格好になったコンビニの袋から、パンの包みとジュースの紙パックがこぼれる。ナオはがさがさと音を立てて、それらを袋に戻した。
 
 そんなナオのそばにしゃがみ込みながら、レイはその顔を覗き込んだ。
「どうしたんですか、ナオさん。何かあっ……」
「なんでもないって」
「……なんでもなくないじゃないですか!」
 
 思わずレイは声を荒げた。……ぼんやりとしたナオの瞳に涙が浮かんでいた。
「この前だってそうだ。なんでなんにも言ってくんないんですか? 俺が年下で頼りにならないからですか!?」
「ちが……違うよ、レイは僕よりずっとしっかりしてるし、落ち着いてるし、だから……」
 
「だから!?」
「……こういうの、みっともないと思うから……」
「みっともなくてなんで悪いんですか! ちゃんと話してくれなきゃ判らない……!」

 レイはぐっと握りこぶしを作った。─── あの男のマンションを出てきた時も、そうだった。こっちから電話をしなければナオはレイにその事実を報せなかっただろうし、また駆け付けたレイが事実を知っても、感情を露わにすることはなかった。
 
 公園にひとりで佇み、なんでもないように笑ってみせたあの時。あの時と同じように今もまたナオは、なんでもないと言い張ろうとしている。
 自分には、感情を表に出したナオを知るその権利さえないのか、とレイは歯がゆい思いで唇を噛みしめた。
 
「……どうして俺には本当のこと、言ってくれないんですか……!」
「……」
 ナオはレイの言葉に目を伏せる。その拍子に涙が、ジーンズに覆われた膝の上にぽつんと落ちた。
 
「……すぐ ───……」
「え?……」
「……すぐ、なんでもなくなると思ってたんだ。元々、臣さんが僕のこと好きになってくれるわけないんだから、……こんなの、大したことないって……前に戻るだけだ、って……なのに……」

「……ナオさん」
「……きなんだ」
 ナオの声は掠れていた。歯止めが利かなくなったように、言葉がその唇から次々にこぼれ落ちる。

「臣さんが好きなんだ。あいたくて、顔見たくて、ちょっとでもいいから見たくて、臣さんがいつも通る、コンビニの中で待ってて、窓からそと見て、…毎日、あいたくて、どうしようもなくて、話したりできないけど、それでも、気になって、あいたくて、……」

 ふっと新たな涙を浮かべたナオは、ぼう然とレイを見つめる。
「さっき、黒川さんに見つかって、ストーカーだって……迷惑だから、付きまとうのやめて下さいって……僕、ただ、ちょっとだけ、顔見たくて……付きまとったりとか、そんなんじゃなくて……」

「……ナオさん」
 切ないナオの言葉がレイの胸に沁みこんでくる。─── 不自然なほどそわそわしてナオが夜の散歩に出かける理由はそれだったのか、と合点がいく。コンビニの中でこっそり待っていたとしても、同じ時間、同じようにあの男が窓の外を通る可能性はそれほど高くはなかったはずだ。それでも、一目見たさにナオは毎日、待っていた。

 声をかけることはおろか、見つかってもいけないというのに。
 そんなほんの少しのあの男を想う気持ちも黒川に否定され、逃げるようにナオは戻ってきたのだ……。
 
 ナオは目に涙をためたまま、笑顔を作ろうと口角を上げた。
「……ぼく……付きまとってたのかな……? どうしよう……迷惑、だったよね?……」
 すぐにこぼれた涙にその笑みはかき消され、泣き顔に取って代わる。

「……どうしよう……臣さんのこと、こんなに、……好きになっ……」
 どうしよう、と涙声でナオはもう一度言った。

「……ナオさん」
「ごめん……こんな、みっともなくて、ごめん……」
 腕で顔を隠したナオの頭を抱えるようにレイは抱きしめる。
 ナオは声を殺して泣き続けた。

      
 

       

       目次第7話

  

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コメレス&収穫\(^o^)/

 明日はインターポットの収穫日(二回目)です。いくつ実がとれるか楽しみ……(*^.^*) 一回目は5コだったので、もうちょっと増えるといいな。

 それにしても、しょっぱいエサが切実に欲しいです。秋になったらいつも水多過ぎ……(´・ω・`)

 

 コメレスです♪↓ たくさんの拍手、ありがとうございますo(_ _)oペコッ

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ヘヴン2第5話更新

 ヘヴン2第5話更新しました。

 節分ですね!(唐突Σ(゚д゚;) うちは子供たちが節分豆を撒きます。10粒ずつラップにくるんだのを。

 こうするとすぐ拾えて、豆に直接わたゴミもつかず、食べる時あんまり数えなくても済む……八月がラップおひねりをいくつ食うのかはさておき、これを作るときがちょっと面倒。

 しかし、ラップを小さく切って、セロハンテープをこれまた小さく切って、それぞれ用意しておき、豆を10粒数えて包んで止める……そんな作業をしていると没頭してしまいます。何も考えない……無我の境地かもヾ(´ε`*)ゝ

 小さくパッケージされた豆もスーパーで売ってたのですが、なんか違う(豆じゃない)のも一緒に入ってたので、買いませんでした。豆が好き。

 そんなうちの節分、イワシの頭も柊も飾らないし、恵方巻きも食べません。ただの豆好きじゃないかΣ( ̄ロ ̄lll)

 

 以下、第5話の反省(^-^;↓

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ヘヴンズブルー2:第5話

 
「はい」
 髪の毛を拭きながら浴室から出てきたレイに、ナオはあの封筒を差し出した。
「なんです?」

「あげるー」
「いりませんよ! もらえるわけないでしょうっ」
「でも、いつまで迷惑かけるか判んないし」

「じゃあ……」
 一瞬、口にしそうになった下世話な交換条件をレイは理性で飲み込み、穏当な提案をした。
「……とりあえず、ここ、この引き出しに入れときましょう。ナオさんが使いたかったらここから出せばいいし。ね?」

「ん、いいけど、……レイって無欲だねー」
 いや、欲はありますけど、違う方向に、とレイはにこにこと微笑むナオにため息を吐いた。
 

 ─── レイのアパートへ上がったナオが最初に興味を示したのは、壁際のハンガーに吊るされていた高校の制服だった。
「え、レイって高校生なの?」

「卒業しました。片付けるの面倒でそのままほったらかし、……もう捨てようかな」
「なんで? もったいない、着て見せてよー」
「嫌ですよ!」
 わざわざ年下なことを強調したくはない。余計に相手にされなくなるじゃないか、とレイはブレザーの制服をハンガーごと丸めて作り付けのクローゼットの下に押し込んだ。

「つまんないの」
「つまんなくないです。ナオさんが来てくれるって判ってたら、ちゃんと片付けといたのに」

「全然キレイだよ」
 ナオはもの珍しそうにきょろきょろと部屋を見回した。
 
 小さなキッチンとユニットバス、奥のひと部屋にTVとベッドを置いたシンプルな部屋だった。さほど広くもないその奥の部屋のほぼ中心に食事場所にもしているローテーブルがあり、その下に敷いたラグにナオはちょこんと座っている。

 レイはテーブルの上やベッドの周辺をあらかた片付けてから、タオルケットを二枚出した。
「ナオさんはベッド使って下さいね。俺、床で寝るんで」
「え、僕、床でいいよ。ていうかベッドで一緒に寝る?」
「寝ません」
「あ、フラれたー。じゃ僕、床ね」

 あっけらかんと笑ってナオはレイの手からタオルケットを奪い取る。……いきなり俺にベッドに引きずり込まれたらどーするつもりなんだろう、この人。こうやって軽く誘われるとダメージでかいんだよな、完全眼中ナシってカンジで……。レイは思わず小さくぶつぶつと言わずにいられなかった。……

 交代でシャワーだけ済ませた後、ナオが差し出した重みのある封筒をなんとかキッチンの引き出しに仕舞い込む。
 ローテーブルを壁際にずらし、出しておいたタオルケットをラグの上に敷いた。
「夏場でよかったー。なるべく早く出てくからね」
「……いつまでいてもらっても構いませんよ」

 あっつー、と言いながらTシャツをめくり、湯上りで上気した肌を惜しげもなく晒しているナオをちらちらと観賞しつつ、本当にいつまでいてもらっても構わない、とレイは冷蔵庫から帰りがけに買ってきた缶ビールを出した。

 タオルケットの上に座るナオにも一本渡して、自分の分を開ける。
「ありがと、……訊いてもいい?」
「何をですか?」
「なんで一人暮らししてるの?」

「ここから大学が近いから。……ってのは嘘かな」
 レイは困ったように苦笑した。ベッドの上に腰かける。
「大学が近いのは本当ですけど。ここから通える大学選んだんだし」

「高校も、ここから通ってたんだよね」
 クローゼットに視線を送るナオにレイはため息を吐いた。
「……そうです。つまり、高校生の頃から一人暮らしってこと。本当にどうでもいいことには鋭いですよね、ナオさんて」

「ごめん、……」
「謝るようなことじゃないですよ。別に隠してるわけじゃないし」
 ただ、どうでもよくないことにも鋭くなって欲しいな、と思ってるだけで。レイは口に出さずに、黙ってビールを飲んだ。

「高三んなってすぐ、六こ上の姉が結婚したんです。うちは開業医でね、姉の旦那は腕のいい大学病院の先生だった。入り婿に来てくれたんですよ。俺は継ぐ気なかったから、ちょうどいいやって。……そしたら告白されたんです。その姉の旦那にね」
 
「…………」
 
「すごくタイプだって。まあ、他にもいろいろ、言われたりして。姉夫婦は同じ敷地に別の家建てて住んでたんですけど、旦那はしょっちゅううちに来て、……何度も触られそうになったから、逃げて、避けて。……誰にも言えないし、俺は黙ってたんですけど、その内、姉が気付いちゃって。……どうも、言い寄られてるとこ見られたらしいです。それだけでもう、なんかがっくりきちゃうんですけど、……ある日突然、父と母に呼ばれてですね、高校が遠いから近いところに一人暮らししたらどうか、って。……アレですね、実の息子よりも跡を継いでくれる娘婿を選んだわけです。今はまあ、そりゃ当然だよな、と思うけど、その時は、追い出されたようにしか思えなかったから」

 淡々と話しながらもレイの胸にはちくりとした痛みが拡がっていく。今でこそ大したことはない、と思えるが、当時はなかなかきつかった。
 まあ、もうなんてことないけどね、自由でいいし、と考えていると、ナオがぽつんと口にした。

「……レイは悪くないのに」
 黙って聞いていたナオが何気なく口にしたその正直な言葉に、レイは目を瞠った。
 腑に落ちるとでもいうようなすっきりとした気持ちが胸に拡がる。
 なんだかおかしくてたまらず、レイは笑みを浮かべた。

「……ああ、……そうか」
「なに?」
「……ずっと、そう言われたかったんです。お前は悪くない、って」

「そんなこと。……だって、レイは、悪くない。ひとつも悪くない」
「……俺、ナオさんの為だったら、ビルの十階からだって飛び降りれます」
「えッ、いらないから、そーゆーの」

 ナオは花が咲いたようにけらけらと明るく笑う。いや今の、冗談とかじゃなくて結構マジ告白のつもりだったんだけど、とレイは情けなく思いながらも、心が柔らかな光に満たされていくのを感じる。
 ひとしきり笑った後、ナオは窺うような視線をレイに向けた。  
 
「……それで、ヘヴンとかで遊ぶようになったの?」
「まあ……どうでもいいか、って。いらないけど、金くれたりするし。だからって他のヤツに安売りってバカにされんのムカついたけど。─── その、姉貴の旦那に対して、ざまーみろ、ってのもあったかな。ヤりたがってたから、俺と。……でも、やっぱ、向いてなかったみたいです。俺がヤりたいと思ったのって」

「ヤりたいと思ったのって?」
「の、って……」
 ナオさんだけだった、と言ったら、引かれるだろうか。……引かれるだろうな、とレイは上滑りに笑って目を逸らした。

「……いや、まあ、ヘヴンでナオさんと会えたし、結果オーライですよね、考えてみると」
「あッ、ごまかした! 好きなひと、いたの? いるんだ、そーなんだ、ダレ? ねえ、ダレ?」 
「やだな、いませんよ」
 
「応援するからー! 協力するよー、あっ、ここ呼ぶ? 僕、邪魔なら外出てるし。レイみたいにキレイなら、コクればすぐ付き合えるよ。なんで黙ってんの?」
「遠まわしにコクっても鈍い……いや、そのひと、好きなヤツがいるんです。片思いなんです」

「そうかー、片思いかあ……」
「……でも、今、ちょっとチャンスかもしれません。その付き合ってる二人、離ればなれなんです」
「そうなんだ! ラッキーだね、チャンスじゃん」
 
「……今、告白して、無理にでも自分のものにするってアリだと思いますか?」
「うーん、無理にでも、ってのは問題あるけど、告白はしてもいいんじゃない、好きならさー」
「……」

 ベッドに腰掛けているレイは、目の前のラグの上、タオルケットを敷いてその上に膝を抱えるように座っているナオをじっと見下ろす。
 そばかすの散る、小さな綺麗な顔。無警戒に見上げてくる少し酔った視線。その上、湯上りで自分の部屋に二人きり。

 もしかしてこれって千載一遇ってやつなんじゃないだろうか、と細い肩に手を伸ばしかけたレイの脳裏に、ふっとナオの淋しそうな目の色と声音が蘇る。
(「……僕はもういらないって」)
 
 夜の公園のベンチにひとりきり、ぽつんと座っていたナオ。本気になんてしてない、と ─── 嬉しそうにあの男が結婚するのが楽しみだ、と言った。

 そんなはずがないのに。
 あの男と恋に落ち、どうしたらいい、と狼狽えたナオを、レイの心は鮮やかに覚えていた。はにかみながらあの男のことを話す顔も。彼の気持ちが離れてしまったのではないか、と不安がるその表情も。

 ナオが、今、この瞬間もあの男のことを想っているのは判っている。ナオ自身よりも自分のほうが判っていると言ってもいいくらいだ、とレイは腰を浮かせた。 

 ナオの肩を通り過ぎたその手でローテーブルの上のTVのリモコンを掴み、電源を入れて適当にチャンネルを合わせる。
「俺、これ毎週観てんですよねー」
 
「なんだ、言ってくれれば僕が点けたのに」
 これ面白いよねー、と言いながら、深夜バラエティにくったくない笑い声を上げるナオに、レイはこっそりとため息を吐いた。 

 もし ─── もし、万が一、はっきりと告白したら、今なら受け入れてくれるかもしれない。ひょっとしたら、無理やりでなく寝てくれるかもしれない。ナオは、一度気を許した相手には甘い。

 それでも、─── 最初から全て、彼とのことをなにもかもなかったことにしようとする、あの痛々しいナオの姿がレイの目に焼き付いて離れない。
(あんなナオさんは……)

「あ、もう終わっちゃったー、……」
 つまらなそうなナオの声で我に返り、レイはビールを飲み干した。
「……もう寝ます。明日、一限からガッコあるから」
「あ、そっか。……ありがと」
 
 ナオが空けたビール缶を、レイは自分の分と二つ、キッチンに捨てに行く。戻ってきたレイはタオルケットを被ったナオから目を逸らしたまま、ベッドに入った。

 

 

  

 次の日から二人の生活が始まり、居候して申し訳ないから、とナオは家事全般を請け負った。
 三日も経つと、レイは言わずにいられなかった。
「……ナオさん。いつも家事全部やってたんですか?」
 
「うん。僕、結構そーゆーの得意だから」
 それじゃあの男も付け上がる一方だったろう、とレイはこっそりため息を吐く。

「じゃあ、ナオさんがメシ作った時は俺が皿洗いします。俺が作った時はナオさんが皿洗い。……掃除とか洗濯とかはその時次第、ってことで」
「え、でも……悪い、から」

「居候とかそういうのは気にしないで下さい。ナオさんに、ここにいて欲しいんです」
 ナオは、ありがとう、と言って控えめに笑った。
 
 そして、レイにはもうひとつ気になることがあった。
 夜の十一時近くになると、ナオは散歩に出る。その時間が近付くと時計ばかりを気にし、明日の朝のパン買ってくる、と浮足立ったように外に出て行ってしまうのだ。

 最初はそのままあの男のところに帰ってしまうのか、と思ったが、そうではないらしい。遅くても十二時までには、コンビニのレジ袋を手にしてレイのアパートに帰ってくる。

 何をしているのかは気になったが、ナオの様子が変わるわけでもない。
 何も訊かなかったレイが夜の散歩の真相を知るのは、二人の共同生活が一週間も経つ頃だった。

  
 
 

      

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