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2011年3月

コメントありがとうございます

 たくさんの拍手、そして東北地方からのアクセス、ありがとうございます。

 このブログの作品を楽しみにして下さっている皆さまに、届きますように。

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二周年

 このブログを開設して二年が経ちました。お越し下さる皆様のおかげで、力を頂いて、続けていけます。ありがとうございます。

 もっとテンション高く喜びを表現したかったのですが、気持ちが打ち沈んでどうにもなりません……。

 

 そんな八月ですが、ここ三日ほど、嬉しいことがありました。ケータイのアクセス解析「うごくひと2」をこのブログにつけているのですが、14日まで全くなかった東北地方からのアクセスが、15日、16日、17日と日を追うごとに増えているのです。

 携帯電話会社各社の基地局車がそれぞれの地域に向かった、と報道していたので、充電さえ可能ならケータイが使えるようになったようなのですが……こんな大変なときに、このブログにアクセスしてくださったことを心から感謝します。ありがとうございます。(;ω;)m(_ _)m

 どうぞ気持ちを強く持って、明日を迎えましょう。明日になったら、次の日を。次の日になったら、また次の日を。

 

 ちょっとした近況です↓

 

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 ヘヴンズブルー2・第10話を更新しました。

 昨日、午後3時くらいに更新する予定でその1時間前から手直しをしていたのですが、突然の災害の報道に驚き、その手が止まってしまいました……。

 それからはもう、拡大する被害にTVとPCの前から動けず、実家が関東地方なので電話をかけまくり……。

 幸いにも連絡が付いて、無事が確認できました。それでも、実家の家の中はめちゃくちゃで、外は塀が崩れたり、液状化現象で道路がぐちゃぐちゃになったり、アスファルトが隆起したりしたようです。

 なかでも怖かったのが実家との電話中に「揺れてる、揺れてる、今、余震」と受話器の向こうから悲鳴に近い声が聞こえてきたこと。

 ……本当に自然災害は怖いです。ひどい被害に遭われたたくさんの方にはなんと言っていいか判らない、本当に言葉もありません。

 そんな言葉を失うような状況ですが、第10話を更新することにしました。

 八月は余りに無力で、何も出来ません。でも、せめて、ヘヴン2の続きを掲載することで、もしかしたら眠れずに読んで下さってるかもしれない、被害に遭われた方々の気晴らしになれば、と思っています。

 どうか、どうか、これ以上の被害拡大が起こりませんように。行方不明の方がひとりでも多く、助かりますように。どうかこの作品を楽しみにして下さっている方に、届きますように。心から祈っています。

 そして、八月が今いる、この場所に被害が及ばなかったのはほんのちょっとした偶然で、いつなんどき災害に見舞われるか判らない、ということを肝に銘じて、今、被害に遭われている場所を決して他人事とは思わずに、考えていきたいと思っています。

 

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ヘヴンズブルー2:第10話

  
 成沢邸。
 案内役の女性が開けた重厚な扉の向こうは、大きな窓に三方を囲まれた明るい室内だった。初老の男女ふたりが十人掛けほどの長いテーブルの端の席に腰かけている。

 一番端、和室ならば上座の位置にいる和装の男性は、年を経た者特有の温和な眼差しを和臣に連れられたナオへと向けた。その綺麗に整えられた銀髪や、皺やしみがあるものの昔は端正だったろうと思われる顔かたちにナオは目を引かれる。─── その容姿は、どことなく和臣に似ていた。
 
 茶器が用意されたワゴンを挟んで、彼の右隣に座っているやはり和服の年配女性もナオと和臣に目を向けたが、その視線からはなんの感情も読み取ることが出来ない。

 この豪奢な屋敷の主であり和臣の実父でもある成沢 繁之と彼の夫人 ─── 正妻であることは疑いようもなかった。
 
 案内をした女性が退出し、ナオの背後でゆっくりとドアが閉まる。それも気付かないまま、ナオは足の震えを抑えるので精一杯だった。出来ることなら、今すぐここから逃げ出したい。心底そう思いながら、自分の腕を掴んだまま前に立つ和臣の声を聞いた。

「……これは珍しい。お二人お揃いとは」
 驚いているようなその声に、老境の夫妻の仲睦まじいお茶の時間というわけでもないのか、とナオは和臣の背中を見上げる。

「和臣さんこそ、お珍しいじゃありませんか。なんの前触れもなくいらっしゃるなんて、……その方は、どなた?」
 優雅にティーカップをソーサーに戻しながら、夫人はナオに自然な笑顔を向ける。和臣はそれへ答えずに、父を見据えた。
「ちょうどいい。黒川を呼んで下さい。話があります」
 
 黒川の名を聞いてナオの身体が竦む。─── こんなところを見られたら、また何を言われるか判らない。
 声も出せず、和臣の手を離そうと腕を引いた。和臣はもがくナオをものともせず、携帯電話で黒川を呼びだす父を平然と眺めている。

 間を置かず、黒川が現れた。部屋に入ってくると、一瞬、和臣に腕を掴まれたナオに目を留めたが表情を変えず傍らを抜け、秘書らしく当主の隣に立った。
「お呼びでしょうか」

「呼んだのは俺だ」
「……何のご用でしょう」
 鋭く言った和臣と黒川が向かい合う。ナオは室温が急に二、三度は下がったような張り詰めた空気になるのを感じた。

「……ぜひとも、お前にも知っていて欲しくてな」
 和臣はナオの腕を乱暴に引いて、隣に立たせた。
「親父殿、このひとは鈴原 七生。……俺と生涯を共にする方です」

 すうっと自分の顔から血の気が引いていくのがナオには判った。三対の目に射られ、息が出来ない。
 夫人へと向けた和臣の声が続く。
「今後一切、見合い話はお断りします」
「……承知致しました」

 品良く目を眇めた夫人は姿に似合わぬ低い声で承諾した。何事もなかったように、ティーカップを取り上げ、口を付ける。
 真っ青になったナオはじっと自分を見つめる黒川に、首を横に振って見せた。─── ナオにも予想外のことだった。

 こんなはずじゃなかった、と必死に目で訴えるナオを、黒川は表情も変えず黙殺する。ナオは狼狽え、隣に立つ和臣をすがるように見上げたが、和臣が黒川を睨みつけているの知ると、夫人、当主の順に目を移し、─── ついに俯いた。

 混乱のあまり、どうしたらいいか判らない。今、一体、何が起こっているのか。
『俺と生涯を共にする方です』
 あれは、どういうことなのか。もし言葉通りの意味なら。

 青ざめていたナオの顔に血の色が戻ってくる。普段の顔色を通り越し、赤く染まった。
「……鈴原、七生さん、と言ったね」
 ずっと沈黙を守っていた当主が、口を開いた。親しみのあるゆっくりとした口調に、ナオは赤らんだ顔を上げる。

「……はい、……」
 何を言われるのだろう、とナオは心の中で身構えた。ひどく罵られることは目に見えている。
 由緒正しい身分を保証されたこの屋敷の中で、自分だけが異分子だと知っていた。

 怯えて次の言葉を待つナオに、当主は軽く手を上げて揃えた指先を曲げる仕草をする。和服の袂が揺れ、手招きをしているのだ、と気付いたナオは和臣を見上げた。
 和臣は無言で掴んでいたナオの腕を離した。

 そっと音を立てないように気を付けて、当主に近付いていく。彼の近くにいる黒川の視線は怖かったが、呼ばれているのだから仕方がない。

 突然の出来事に、萎縮していたナオは和臣の父をおずおずと見つめる。豊かな白髪に温和な表情。深い皺は刻まれているものの、端正な顔立ちはやはり和臣に似ていた。
 
 テーブルのすぐそばで立ち止まったナオに当主は右手を差し出した。握手を求められているらしい。躊躇いながらも同じように差し出したナオの右手が、主の両の手の平に包み込まれた。

「……ずいぶんと可愛らしい」
「は、……」
「今度、一緒に食事でもいかがかな?」
「あの……」

 肉厚で温かく乾いた手がナオの華奢な右手を撫でる。
 面食らい、返答に窮するナオの肩を掴んで主から引き離したのは、ずかずかと近付いて来た和臣だった。ナオの前に立ち塞がり、当主の柔和な視線を遮る。
 
「親父殿。ナオは俺以外とは二人きりで会わない」
「そうか。お前の大事な方だから、ぜひ食事にお誘いしたかったんだが」
「残念ですが」 
 丁寧な口調の裏にどうしようもなく不遜な響きがある。和臣は椅子に掛けている父親を、その真意を探るようにたっぷりと時間をかけて見下ろした後、隣の夫人に目を移した。

「……もし彼に接触する必要があるなら、俺を通して頂きたい。過日のような勝手な振る舞いは謹んで頂けるよう、くれぐれもお願いします」
 なんの心当たりもないような素知らぬ顔で、夫人は傍らのワゴンからティーサーバーを取り上げる。

「……和臣さんもいかが?」
「けっこうです。すぐに辞しますので。……黒川、車を出してくれ」
 一礼した黒川は部屋を出ていく。和臣は黒川の背中がドアの外に消えるまで鋭く睨めつけていたが、困惑したナオの表情に気付いて、当主と夫人に向き直った。 

「それでは失礼します」
 軽く頭を下げた和臣の隣で、慌てたナオが深々と頭を下げる。その細い肩を何のてらいもなく抱いた和臣は、訪れた時と変わらぬ強引さでナオを屋敷から連れ出した。

 
 

 

 
 
 黒川が運転するメルセデスベンツ・Sクラスの車内。滑らかに走り出した車の中で、ナオはまたもや和臣と離れて座っていた。行きのタクシーよりも更に小さく、なるべく目立たないようにひっそりと広い革張りのシートに腰かけている。

「─── 誰がいつ見合いしたって?」
 口火を切ったのは運転席の真後ろの和臣だった。ナオは身体を強張らせ、ゆったりと足を組んでシートに深く背を凭れさせている隣の横顔を見る。
 その険しい目はバックミラーに向けられていた。

「結納だと? よくもそんな大ボラが吹けたな。奥様の入れ知恵か?」
「……私の一存です。奥様は関係ございません」
「そうか。どんな手段を使ってでもナオを遠ざけろってご命令か」
「……」

 黒川の無言は肯定を匂わせる。和臣はにやりと剣呑に笑った。
「……ナオをさんざん泣かせてくれたのもお前の一存か?」
「成沢さん僕泣いてないからっ」
「ウソつけ」

 焦って否定するナオの言葉を和臣は一蹴する。眇めた横目をナオに向けて、ぴしゃりと言った。
「嘘を吐くな。泣いたんだろう。お前は黙ってろ」
 なんか僕、さっきからずっと発言権ないんだけど、と口の中でもぐもぐと言いつつ、ナオは俯いて口を閉じる。 

 駆動音がほとんどしない静かな車内に黒川のこもった声が響いた。 
「……私はただ注意しただけです」
 運転席のバックミラーから自分は見えない。そう判っていたが、ナオは黒川が自分へと意識を向けるのをまざまざと感じた。
 
「……その方が、和臣様を待ち伏せて」
 黒川の暗い声に非難の言葉を予想して、ナオは汗で湿った手の平を膝の上で握りこんだ。伏せた目に、じわりと涙が滲む。

「毎日のように。ただ顔を見るだけ、などと言って」
「こいつを泣かせていいのは俺だけだ」
 黒川の声をかき消したのは和臣の傲岸不遜な発言だった。バックミラーを睨めつけながら、和臣は鋭く命令する。

「二度と泣かすな。殺すぞ」
「……申し訳ありませんでした」
 素直に謝罪する黒川の声は、どこかほっとしてるように聞こえた。
  
 
 
 
 

 
 
「……注意することがひとつある」
「え……?」
 
 黒川にいつも利用するホテルへ送らせた後、その一室で和臣は苦虫を噛み潰したような顔をナオに向けていた。
 ルームサービスの料理が並ぶテーブルの椅子を乱暴に引いて腰かける。そのテーブルの上に置いてあった煙草の箱を手に取り、一本を口に咥えた。

「親父から連絡があっても、のこのこ出ていくな。親子どんぶりは死んでもごめんだ」
「まさか。……あんな立派で偉い人が、そんなこと、……僕に興味なんて」
「あっただろうが。いつまでものんきに手ェ触らせてんじゃねえ」
 
「……僕が、成沢さんに連れられてきたから、気になっただけだよ」
 その上、あんな、と言いかけてナオは口ごもる。俯いた顔が赤く染まる。

 そんなナオの顔を眺めながら、和臣は煙を吐き出した。
「自分の奥方の目の前で倅の伴侶にちょっかいかけるなんざ朝メシ前だぞ。モラルだの倫理だの期待するな。そんなもんがあの人にまともにありゃ俺は生まれてねえ」

「はん……」
「ヨメのほうが良かったか?」
 ますます顔を赤くして、ナオは頭を横に振った。
「じゃ、妻。……パートナーか?」

「そう……そうじゃなくて、……僕、そんなの、なるって言ってない」
「俺が決めた」
「いつ? どこで? なんでそうなったの!?」

「お前が俺にストーカー行為を働いていたと知った時から」
 さらりとその言葉を口にした和臣の前で、ナオは立ち竦んだ。
 
 背中が汗に湿っていく。無意味に口をぱくぱくさせる。そんなナオの赤かった顔色は青くなり、また徐々に赤くなっていった。
「す……す……ストーカーじゃない……って、……言って……僕……」

「こっそり俺を眺めてたんだろう。待ち伏せして。通るかどうかも判らないのに。俺と話すことも出来ないのに」
「……だ……だって……気になって……ちょっと見るだけ、って……」
「─── それだけで充分だ」

 和臣はグラスを手に取り、ナオの為に注いであったワインを飲み干した。
「お前が俺を気にした。俺がどうしてるか気になった。どうしても俺の顔が見たかった。─── だから生涯、俺のそばに置いておくと決めた」

 断固とした和臣の口調に気圧される。狼狽えながらも、ナオは口を開いた。
「な……成沢さんは、ちゃんと、結婚しないと……結婚したほうが、いいと思う……家のこととか、あるし……」
「さっきお前と生涯を共にすると宣言してきただろう。聞いてなかったのか?」

「き……聞いてたよ……だから、やっぱり僕とはなんでもないって……今から……明日とかでも、行って……ちゃんとお見合いして、結婚……」
「無理だ」

 煙草の先をクリスタルガラスの灰皿に押し付けて、きっぱりと和臣は言い放った。
「お前がいい。もうごちゃごちゃと思い悩むのは止めだ。飽きた。お前がいやでも、無理やりにでもそばに置いておく。決まったことだ。諦めろ」

「き、決まったことって、臣さんが勝手に決めたんじゃんか!」
 余りと言えば余りな和臣の頭ごなしな物言いに、ナオの言葉遣いも以前のものになってしまう。
「僕、ずっと一緒にいるって言ってないし! 言われてないし! 生涯、とかって、伴侶とかって、なに!? 強引に、いきなりあんなお屋敷連れてかれて、諦めろってそんなのわけ判んないよ!」

「すごく判りやすいと思うが。……黒川におかしなこと吹き込まれて出て行ったお前が、少しでも俺に執着してくれた。それで充分だろうが」
「しゅ……」

 執着、とナオは呟いてみるみる頬を染めた。俯いて唇を噛む。執拗に和臣のことを想っていると、当の本人に暴かれ、糾弾されたような気がした。
 なんとか逃げ道を探そうと、和臣の言い方に引っかかっていたことを口にする。
 
「お……っおかしなことなんかじゃないよ、黒川さんはそれが仕事で、臣さんの、実家のこと考えたらそれが普通で、……結婚とか、普通で。黒川さんは仕事しただけ」

「……ずいぶん黒川を庇う。さっき何話してた?」
「さっ……き、って……」
「俺がチェックインの交渉してる間だ」

 和臣は乱暴にワインボトルを掴み、空になったグラスに自棄のように中身を注いだ。

 

        

       目次第11話
  

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ヘヴン2第9話更新

 ヘヴンズブルー2:第9話更新しました。

 テンプレートを桜にしてみました。もう3月…卒業の季節、と感傷に浸ってる場合ではなく、引き継ぎの季節なのです。PTAの。資料が揃わない~。それとUSBの整理。

 まあ…いいか。ぽつぽつと頑張ろう。なんとかなるだろう…(;´д`)トホホ…

 

                               

ヘヴンズブルー2:第9話

 
 外の景色に目を向けているナオを乗せてタクシーは走っていた。
 
 夏の日差しに晒されたビル群の間を縫い、日傘を差した女性たちやジャケットを小脇に抱えたサラリーマンと思しき人々が次々と後ろへ過ぎていく。
 冷房の効いた車の中、後部座席のシートに背を凭れさせたナオはすっかり意気消沈して、その風景を眺めていた。
 
 そんなナオの隣には、組んだ膝の上で緩く手を絡ませた和臣がいる。充分に、人ひとり程のスペースを空けて ─── それはナオがドアに身体をくっつけるほど和臣から離れていたからだったが、それでも、同じ空間にいた。

 車内ではずっと沈黙が続いていた。タクシーの運転手もわけありそうな男ふたりを詮索するでもない。ナオは気詰まりではあったが何を言ったらいいのか判らず、ただ時折り俯き、外を見るばかりになった。
 
「……」
 和臣を怒らせてしまった。ほんのちょっとだけ、顔見たさに、待ち伏せをして気味の悪い思いをさせてしまった。
 鼻の奥が、つんとなる。泣く前兆を情けなく思いながらも、止めるすべもなく目が潤んでくる。

 どこへ連れて行かれるのだろう、とナオは考えた。ストーカーとしてケーサツに突き出される? それとも二度と付きまとわないように、どっか、山中で放り出されるとか? 売り飛ばされたり? 
 
 そんなことを考えてしまうくらい、またそれが冗談でなく表沙汰にならない程の権力を持つ和臣だったが、─── しかし、そんな力よりも。
(……臣さんが、一言、二度と現れるなって言えば、もう、近寄ったりしないのに)
(こんなふうに、タクシーに乗せてどこかへ連れて行ったり、面倒なことしなくていいのに)
 
 和臣の権力を行使した行為よりも、和臣に嫌われることそのものが、ナオにとって何よりも「怖いこと」になっていた。

 窓の外の景色がぼやけてしまい、ごしごしと手の甲でつぶった目を擦る。
 ちょうどその時、運転手が何か低い声で告げたが、ナオには聞き取れず、また窓の外に目を向けた。
 
「……!?」
 不意に、和臣が覆い被さってくる。驚きながらもナオは、忘れることのなかった体温と匂いに一瞬で力が抜けた。

 少し乱れた和臣の髪の毛がナオの頬をかすめる。射抜くような、熱を帯びた瞳が見上げるナオを映した。
 ──── 和臣の手がナオのそばのシートベルトの金具を掴んで伸ばし、シートのバックルに差し込む。
 カチン、という音で我に返ったナオは、隣に座り直した和臣が自分のシートベルトを引き出しているのを目にした。

(あ……あ、シートベルトか)
 びっくりして腰が抜けそうになった。というよりも、あのまま和臣に抱きしめられたら絶対に抵抗出来ない、と思い知らされた。 
 
 そんなにも和臣に近付きたがっている身体を自覚して、放心する。
 
 想っているのはあなただけなんですよ、という黒川の言葉が耳に蘇る。……恐らく、その通りなのだろう。和臣は一切口を利こうとしないし、不用意に自分に触れないように気を遣っているようだった。
 
 自分だけが和臣を想っているのが浅ましく感じられて、とても彼を直視することが出来ない。

 肩を落としたまま腰を固定したシートベルトの捩じれを直していて、気が付いた。
 ……え、後部座席でシートベルトって、と口の中で呟く。

 慌てて窓に取りついて外を見た。街中の風景は一変し、何車線もあるアスファルトと周りを囲う防音壁に代わっている。
 速度を落としたタクシーはETCレーンを抜けて、高速道路に入っていった。

 

 

 

 
 料金を支払ってタクシーを降りた和臣は、ナオが降りてくるのを待った。……チッと舌打ちすると、反対側に回ってドアを開ける。
 びくっと身体を竦ませたナオがそこにいた。目を潤ませて恐る恐る和臣を見上げてくる。

「や、……」
 ナオは頭を左右に振って、降りたくない、と意思表示した。そんなナオの腕を掴んで無理やり車から降ろす。
 ドアを閉めたタクシーは、敷き詰められた玉砂利を踏みしめながら広々とした車寄せをぐるりと一周して門扉に向かって消えた。

 唯一の助け舟、くもの糸とさえ思えていたタクシーがあっさり行ってしまい、ナオは泣きたくなった。目の前にそびえ立つ一間はある白木の格子の内門扉の横には成沢と記されている。─── タクシーの中からも見えていたその表札はナオを怯えさせるには充分だった。
 
 和臣に腕を引っ張られて開いていた内門扉を潜る。細かな砂利を敷き詰めた庭の飛び石を渡り、さらに引き戸を開けて現れた汚れひとつない大理石の床から框に上がると、奥から和服に割烹着を身に着けた年配の女性が現れた。
 
 一瞬だけナオに目を留めたが、何事もなかったように一礼する。
「お帰りなさいませ、和臣様」
「あのひとは?」
「お祖父様とお呼び下さい」
 
「では、親父殿はご在宅か?」
「……おいでになります。どうぞ」
 どうやら使用人らしい彼女は、和臣の皮肉な物言いにも慣れてるのか、眉ひとつ動かさず背を向けて案内する。

 大きな日本家屋だった。格式ある老舗の旅館のような ─── そのくせひとの気配がほとんど感じられず、静寂に満ちている。広く明るい通路にはそこかしこに豪奢な花器や壺、絵画が飾られていたが、その通路から幾筋も伸びた細い廊下はどれも薄暗い。
 
 その奥へ見るともなしに目を向けたナオは、いよいよ自分が足を踏み入れてはいけない場所に連れて来られてしまった、と青くなった。歩みが鈍くなるナオの腕を離さず、和臣はますます強引に磨きこまれた黒板の床の上を進む。
 
「……お離しになってさしあげては、いかがです?」
 目に涙を溜めて今にも泣きそうな顔をしているナオを気遣って、ちらりと振り返った彼女が進言する。 和臣はにやりと笑ってナオの腕を、ぐい、と引いた。

「離せば逃げる。こいつは何も欲しがらないんだ。……遠くから、見ているだけで」
「臣さん、お願い、離して」
「黙ってろ」

 二度目の命令だった。懇願を退けられたナオは成す術もなく俯いて、和臣に従うほかない。
 大きなドアの前に着いた。案内役の彼女がコンコンとノックをして、声をかける。
「……和臣様がいらっしゃいました」
 
 重厚な扉がほとんど音も立てず、ゆっくりと開いた。

 

 

 
 

 ……いつも和臣がナオを伴って実家へ顔を出すときに利用するホテルに、ふたりはいた。インペリアルスイートのこの部屋はほとんどの場合空いていて、この日も予約なしでチェックイン出来た。
 
 夜の八時を回り、真夏でも夜景が楽しめる時刻になっていたが、ナオにそんな余裕はない。
 メインルームのゆったりとしたソファーに浅く腰掛けたナオは、和臣が続きの書斎でルームサービスを頼んでいる低い声を聞いていた。

 オーダーが終わり、和臣がメインルームへ戻ってくる。ナオの前に立つと、目を細めて見下ろした。
「……疲れたろう。シャワーでも浴びてくるといい」
 
「……臣さん、僕」
「その間にルームサービスが来る」
 和臣は強引にナオを遮った。何も聞きたくない、とでも言うかのように、ナオに背を向けて書斎に戻っていく。口を噤んだナオはやがて立ち上がり、俯いたままバスルームに入っていった。
 
 和臣と顔を合わせ辛く、ことさらのろのろとシャワーを済ませて出てきたナオはダイニングルームの大きなテーブルにいくつも料理が載っているのを目にした。オードブルが二、三種類、ローストビーフやシーザーサラダなどがメニュー表どおりに上品に盛り付けられている。

 和臣はジャケットをソファーに脱ぎ捨て、ネクタイを緩めたYシャツ姿でワインを開けていた。バスルームに入って行った時と同じTシャツとジーンズのボトムスで出てきたナオを見て、眉間にしわを寄せる。
 
「……」
 ナオのおどおどとした態度に気付き、和臣は目付きを和らげた。二つ用意されたグラスの片方だけにワインを注ぐ。

「先に食ってていい」
 そう言い残してバスルームへ向かおうとする。ナオは和臣の背中を呼び止めた。
「僕、か……帰ります」

 細い、懇願するような声だった。和臣は振り返り、無表情にナオをじっと見つめた。
「……どこへ」
「ど、どこって、……あんなの、困ります。僕は、そんな」
「生涯の伴侶だと実家に紹介したのが気に入らないのか?」
 ナオは見る間に顔を真っ赤にして、目を伏せた。

  

     

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